誰しも生きていれば、苦い思いがこみ上げる後悔のひとつやふたつあると思う。
あのときあんなこと言わなければ、あのときあんなことをしなければ……時間が戻せるなら戻したい。いくつかある中で、私が最も後悔していることは10年間エアコンが壊れた部屋で過ごしていたことである。毎年、冬になってエアコンをつけるたびに思い出す。
「エアコン直せば済む話だろ」と思われること間違いなしだが、寒さが心身、金銭ともに多大なダメージを与えることを身を持って知ったので語りたい。
・エアコンのリモコンが壊れる
私が以前住んでいたマンションは、日当たりが悪くて夏は湿気がひどく、そして冬は凍えるほど寒い1階の角部屋であった。
山手線・巣鴨駅から徒歩6分ほどでオートロック付き、風呂トイレ別、ガスコンロ2口、という条件にも関わらず、家賃は7万円台。備え付けのエアコンもあった。
タイトルではわかりやすく「エアコンが壊れた」と書いたが、正確に言うと壊れたのは「エアコンのリモコン」である。
家の湿気がひどすぎて乾電池をいれるところが錆びてしまい、乾電池を入れ替えてもウンともスンとも言わなくなってしまったのだ。
エアコンはかなり古い機種なので、どうすればいいのか分からなかったので……。
壊れたまま放置した。
エアコン本体の電源をオンオフすることで、送風ができたので夏はそれでしのいでいたが、問題は冬だった。
・寒すぎて動けない負のループ
当たり前だが、冬場はエアコンのない部屋に帰ると底冷えして寒い。半日以上、人がいなかった部屋である。
帰宅すると部屋の気温がひと桁台だったこともザラである。外より家のほうが寒い日さえあった。
しかし中学や高校時代は暖房のない学校で、制服やジャージで過ごしていたわけである。子供は風の子元気の子理論で「寒さに耐えられないのは甘え」みたいな昭和イズムな考えが自分の中にあった。
そんなわけで、私はエアコンの壊れた部屋で電気ストーブ、電気毛布、加湿器がわりにヤカンでお湯を沸かしてすごしていた……。
いま考えると「エアコン直してもらえよ」と思うのだが、そもそも部屋が散らかっていて修理の人などを入れたくない。
じゃあ、家を片付ければいいのだが、寒さとは恐ろしいもので、家にいる間は電気毛布をかけたベッドとストーブのそばから離れられない。寒いってだけで、機動力が死ぬほど落ちるのだ。
なんかもう、家にいる間は寒すぎて寝ることしかできない。クマや森の動物は冬になると冬眠するというが、あれは納得だった。
その結果、生活が完全なる負のループに入ってしまった。寒すぎて布団からなかなか出られないから、やらなきゃいけないことが終わらない、機動力が落ちて家から出ないので日に当たる時間も短くなる。
あとから知ったが、日に当たる時間が短くなるとセロトニンが不足するので気持ちが暗くなりやすいらしい。ついでに寒いのでしょっちゅう風邪をひいていた。
毎年、冬になると生活がすさみ、気持ちが落ち込んでしかたなかった。寒すぎる汚部屋と憂鬱。どんどん負のループになる。
でも、これが部屋の寒さのせいだとはなかなか気づけず、自分は怠け者でダメな人間なんだ……と思っていた。
・事態が好転
あるとき、ふと「メルカリでリモコンだけ出品してる人いないかな……」と思って、試しに壊れたリモコンの型番で検索をかけたところ、全く同じものを発見。
世の中にはリモコンだけを売る人もいるし、リモコンだけを求めている人もいるのだ。奇跡の需要と供給の一致である。
即決で購入して、約10年ぶりに冬にエアコンをつける生活が始まった途端……ビックリするレベルですべての事態が好転したのだ。
部屋が暖かいだけで、人はこうも動けるものなのか。
部屋が暖かいので布団から出られるし、家事もできる。ついに部屋の片付けにも着手できた。人間らしい生活の始まりである。落ち込みもなくなった。
リモコンを買ってエアコンをつけた。それだけである。寒さに凍えて憂鬱な冬を過ごしてきたこれまでの10年間は一体……。
そのときにやっと気づいた。
「今まで冬になると落ち込んでたのは部屋が寒かったからだ……」と。
・とにかく部屋を暖かく
寒いとダメになる……ということを身をもって実感したので、引っ越しでは日当たりや部屋の断熱性を重視した。
今では秋冬は起床時間と帰宅時間にタイマーで暖房をつけている。電気代がかかるけど、あの寒さに凍えた憂鬱な日々を思えば背に腹は代えられない。
外出時はカイロを貼り、夜の風呂はかならず湯船につかり、温かいソックスをはく。そうやって体を温めて、なるべく冬でも寒さを感じず活動できる状態を心がけている。なんか気持ちが落ち込むなあと思ったら、部屋の温度をちょっと上げることにしている。
2023年はいきなり寒暖差が激しくなった。電気代も高くなったし、節約で暖房をつけないようにする人もいるかもしれないが……オススメできない! 寒さを我慢せずに、部屋は快適に過ごせる暖かさにしたほうがいい。
もし私が自己啓発本を出すとしたら『幸せになりたかったら部屋の温度を2度上げなさい』という本を書くと思う。悪いことは言わない、寒さに凍えるくらいなら、絶対に今すぐ暖房をつけたほうがいい。
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.