あなたは「ビエネッタ」というアイスをご存知だろうか。森永乳業から販売されており、今年2023年9月で40周年を迎えたらしい。恥ずかしながら筆者は全く知らなかった。

が、知らなかったのは筆者だけかと思いきや、森永乳業自らが今年6月に全国1万人を対象として行った調査によると、なんと15~69歳の男女という幅広いサンプルのうち、12.7%しか同商品を知らなかったそうだ。恥じていた筆者が霞む数値である。

大企業の、しかも生誕40周年の商品がこれほどの低認知度を叩き出したというのは、不可解を通り越してやや怪奇ですらある。「ビエネッタ」を食べた者は高確率で記憶を失うのか、あるいは何か別の理由があるのか。おそらく後者だと踏んだ筆者は、初実食を試みることにした。

そもそも筆者が今回の件を知ったのは、森永乳業の公式X(旧Twitter)アカウントにおけるポストがきっかけだった。

現実を突きつけられた調査結果でした」という言葉とともに上記の認知度に言及しており、「『懐かしい』、ってもう言わないで。ココにいるよ」「手に入れられたら逆にレア」などと、自虐を交えつつ赤裸々に心の内を明かしている。

思えば、「ビエネッタ」にまつわる宣伝を見かけたことも、「ビエネッタ」自体を店頭で見かけたことも、個人的にはほとんどないというか、有り体に言えば皆無である。今回はネット通販を利用して入手することができたが、その代わり価格は通常よりも高くついた。

ちなみに公式サイトに記載されている希望小売価格は630円(税別)だ。元々かなり高級ではある。この時点で「ビエネッタ」が浸透していない理由について何となく推測が働いていたが、筆者はさらなる真相を求め、実物のパッケージを開封した。

そうして現れたのは、大ぶりなケーキアイスだった。縦幅は約7cm、横幅は13.5cmくらいだろうか。高さは5~6cmほどもある。

さざなみのようにコーティングされた上面のチョコ部分に関して、例の公式アカウントは「たわし、と言われました」と語っていたが、そのコーティングの下には、ドレープ状のクリームが積み重なっている。

「たわし」の一言では収まりきらない、見事な流麗ぶりに驚かされる。まるで格調高いカーテンの断面のようだ。「たわし」も「カーテンの断面」もおよそアイスに対して使う言葉ではないが、ともかくそれだけ独特で印象深く、一度目にしたら忘れない。

では味の方はどうかと言えば、こちらは見た目とは裏腹に、非常に素朴でシンプルだ。ケーキといってもスポンジは入っていない。濃厚でコクのあるバニラアイスと、そこに幾重にも織り込まれたチョコレート。それらがただただ交互に甘みを競い合う。

美味しい。滑らかなクリーミーさに、パリパリと歯触りの良い食感が入り混じる。その共鳴がたまらない。複雑な味わいとも、じわじわとした遅効性とも無縁だ。幸福感がストレートかつハイテンポに、ひたすら味覚に押し寄せてくる。

加えて忘れてはならないのが、価格に見合うだけの、いや価格以上のボリュームである。それでいて飽きも来ない。味も量もハイレベルと言うほかない。

正直、想像以上だ。実を言えば何か得体のしれない爆弾が潜んでいるのかもしれないと少しだけ身構えていたが、そこはさすがの森永乳業、一級品である。

しかし、だからといって「なぜ認知度が低いのだろう」と書くつもりもない。食べ進めながら、自分の中で「ビエネッタ低認知度問題」への見解は固まっていた。思うに、この問題には3つの「重さ」が関係しているのではなかろうか。

まず1つは、価格が「重い」。コスパは優れているのだが、いかんせん価格帯自体がアイスにしてはアッパー気味である。

2つ目に、量が「重い」。これは美点である一方、1人で食べるには複数回に分ける必要が出てくるボリュームというのは転じて枷にもなる。価格も相まって、手を伸ばす際に「ビエネッタを食べるぞ」という気概が求められる。

最後に、準備や後片付けが「重い」。仮に複数人で分けるとしても、食器類が余計に必要になって少々煩わしい。つまり要するに、このアイスは何かと「気軽に食べづらい」のである。

昨今、スイーツ業界内の競争は激化の一途をたどっている。そこらのコンビニで一流パティシエの品かと思うようなスイーツが、無理のない価格と量で手に入り、そして気軽に楽しめる。

そんなフィールドにおいては、いかに優れていようとも「三重苦」を抱えた「ビエネッタ」では埋もれかねない。前述のプロモーションの薄さも気になるところだ。

と、偉そうに述べてしまったが、筆者が結局この商品をどう思っているかと言えば、「出会えて良かった」というのが偽らざる本音である。一度食べてしまえば、虜にならない人はいないのではないかとさえ思う。だからこそ多くの人に知ってほしいし、手に取ってほしい。

本記事が、これから先「ビエネッタ」がさらに年を重ねるために、少しでも役立てたなら幸いだ。突きつけられた現実を乗り越えなくてはならない。いつの日か、この低迷の時期を「懐かしい」と言えるように。「食べていない人こそがレア」だと、胸を張って言えるように。

参考リンク:PR TIMES森永乳業 公式サイト@morinaga_milk_
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.
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