酒に対する人びとの執着はすさまじい。古くから熱心に製造し、時には危険を冒しながら口にしてきた。今の時代なんて税金を課せられているが、それでも負けじと酒と向き合っている。

つい先日、何気なく入った居酒屋で幻の酒と銘打つ『ホイス』に出会った。恥ずかしながらはじめて聞いたホイス、一体何なんだホイス。


・なんだか掴みどころがない

大阪は難波にある、ちょっとノスタルジックな居酒屋にホイスはあった。カウンターに “知る人ぞ知る幻の焼酎ハイボール ホイス” と書かれた小さなポップが置かれていたのだ。

詳しくはわからなかったが、焼酎ハイボールであることは知れる。お店も忙しそうだったので、特に聞くこともせずに頼んでみることにした。

「この、ホイスというのをお願いします」と伝えると、店員さんは一瞬ニヤっとして「ホイス入りましたあ!」と店中に聞こえるような声で注文を受けてくれた。

もしかすると店員さんたちもお気に入りの酒なのかもしれないと、その笑顔の意味を考えながら待つ。響きからは全くどのような味か、想像すらできないホイス。


ワクワクしながら厨房を見ていると、ジョッキに入れられてホイスはやって来た。薄い黄色で、ぱっと見はハイボールのようだ。香りはほのかに甘めだが、強くはない。

飲んでみるとなんというか、結構な薄味だ。ちょっぴりスパイシーさもありながら、いろいろな味がするのだが、いまいち掴みどころがない。

飲んでいるうちに電気ブランのような風味を感じられる気もすれば、ハイボールのような味であるような気もする。後味スッキリでどのような料理にも合うので、一気にグビグビといってしまいそうな危うさもある。


・ホイスは酒ではない

飲む前もわからなかったが、飲んだ後でもここまでわからない酒というのも珍しい。店内のポップにQRコードが付いていたので読み込んでみると、製造元の公式SNSに飛んだ。

それにより後藤商店という、東京の白金にある会社が作っている商品と判明した。なんでもお一人で製造されているらしく、材料などは一切公開していない。幻と言われる所以だろう。


またこの時点でやっと気づいたのだが、このホイス自体は酒でなくあくまで割り材なのだとか。そもそもは戦後、質の低い酒をどうにか美味しく飲めないものかと、生まれたモノらしい。

改めて人間の酒に対する熱量に驚きつつ、気が付けばグラスは空になっていた。なんとはなしにスルスルと飲めてしまう、日常に寄り添うような酒である。


この味を自宅でも楽しめないものかと検索してみたが、個人への小売りは行っていないようだ。これはもう、地道に足で出会える店を探すしかない。

なんでも簡単に手に入る時代に、この不便さはむしろ効果的かもしれない。なんといっても酒のために傾ける、人類の情熱はすさまじいのだ。

一度『ホイス』に出会ってしまったらきっと、その先は積極的にホイスを探し求める旅に出ることだろう。この記事を読んでくれた酒好きのみなさんにも、巡り会いがあることを願っている。

参考リンク:後藤商店「ホイス」
執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]

▼ホイスの製造過程を見ることができます。何が入っているんだろう……