イカを大量にいただいた。釣り好きの友人が大漁だったからと分けてくれたのだ。どのようにして食べようかと釣り主を含むグループチャットで話し合っていると、また別の友人から「たこ焼きにしようぜ!」と声が上がった。
恐らくこれは、たこ焼きに入っているタコの代わりにイカを入れようぜ、の意味だろう。その時はすげなく却下したのだが、よくよく考えてみると何故たこ焼きに入っているのはタコでなければならないのだろうか。
・はじまりは会津屋のラジオ焼き
『たこ焼き』のモトを辿ると、大阪は会津屋のラジオ焼きに行きつく。ラジオ焼きはスジ肉を具材とした粉モンだが、ある時店主が明石焼に影響を受け、鶏卵とタコを用いて作りはじめたものが『たこ焼き』なのだそうだ。
そのような歴史があり、名称を『たこ焼き』としてしまった以上、中身はタコで固定されているのだろう。しかしイカだってなんだって、入れてみれば美味しそうなものだ。
美味しければたこ焼き同様、人気が出るかもしれない。名前が差し支えるのであれば、中に入っている具材により〇〇焼きと名称変更したって良いのだ。
しかし世は『たこ焼き』一色。もしかすると他の何かが生まれんとする瞬間があった(る)のかもしれないが、追随を許さないのが現状だ。
そうして定着し、タコが不動の地位を得ているのにはそれなりの理由があるはず。理由を探るべく、たこ焼きにイカを入れてみることにした。
・食感、味ともにタコは絶妙なラインを突いている?
記者が高校生のころ、はるか昔の話ではあるが、文化祭のクラスの出し物で「たこ焼き屋」をやることになった。ただし生ものを使ってはならぬということで、中にちくわを入れた覚えがある。
食感はタコほどのパンチはなかったが、ちくわには塩っ気もあるしで味は悪くなかった。そんなことを思い出しながら、タコ入りとイカ入りのたこ焼きを作る。
生地は全く一緒、違うのは中身がタコかイカか、それだけだ。買って来た市販のたこ焼きの粉の袋にある説明書きに従って焼いていく。
味や食感などを確認すべく、出来上がったものはそのまま何もかけずに食べてみよう。まずはお馴染みのタコから。コリコリとした食感と、優しいタコの香りにホッと落ち着く。
上記した会津屋のラジオ焼きを記者も食べたことがあるが、牛肉と比べるとあっさりで食べやすく、また食べ応えがある。タコはもしかしたら絶妙なラインを突いているのでは、と感じながらイカ入りに手を伸ばす。
今回はコウイカを使ったため、食感はもっちり。タコに比べてクセがなく、食べやすい。何度かタコとイカと、繰り返し食べ比べてみて、なるほど。なんとなくタコが支持される理由が分かった気がした。
イカに限って言えることであるが、上記の通りイカの種類により噛み心地を左右される。タコ独特の歯ごたえと、ふわりとした生地との対比が面白いところでもあるのだ。
つまり「食感」がたこ焼きの中はタコたらしめているのかもしれない、と考えられる。
また、なにものにも合わせられる、特にソースなど味の濃いものを使う場合は押されてしまいがちなイカよりも、しっかり味の主張ができタコのほうが食べている感があり好まれた可能性もある。
そのほか箸で割ることがあれば、その時の見え方も真っ白なイカよりも赤いタコのほうがインパクトもありそうだ。
その上「イカ焼き」という名から連想されるものに、屋台などで売っている串刺しのイカのほか、関西ではペタッとした粉モンのソレがある。
タコの代わりにイカ、とならなかったのには、こうしたさまざまな理由があったのではないか。改めてタコの持つポテンシャルについて見せつけられた気がした次第である。
そうは言いながらも、イカでなくともタコのポジションを担えるものは、きっと他にもたくさんあるはずだ。エビなんかも良さそうだがどうだろう。
今後『たこ焼き』のタコを凌駕(りょうがする)するほどにカリスマ性のある食材が、あの生地の中におさまり流行る日が来ることを、記者はちょっぴり楽しみにしている。
執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.