
都内某所のトンカツ屋さん。事前調べでは11:30オープンとのことだったが、開店時刻前に行ってみると「12:30開店」と書かれた紙が表のドアに貼ってあった。少しばかり時間を潰し再訪すると、何人かの行列が。
しかし長蛇の列というほどではなく、ほどよい行列。私は1ターン目で入店できそうな順番に位置。そしてピッタリ12:30に店の入り口が開いた。のれんを出しながら店主が1人1人を店内に招き、座席はフル。そして……
ワンオペの店主がそれぞれに注文を聞きますと案内。メニューは「特ヒレ」「特ロース」など4種類。一番高いのは「特ヒレ」であったが、私の心は決まっていた。もちのロンで「特ロース」である。ところが!
座った位置的に、私が一番最初に注文を聞かれることに。もちろん「特ロースで」と答えた。しかし、その後に続く他の客らは「特ヒレで」「特ヒレ」「特ヒレお願いします」「特ヒレ」「特ヒレ」……えーーーッ!?
申し合わせたかのように「特ヒレ」の大合唱。この店、ヒレ推しなのか? くそっ、今から変えたい……けど、そこはかとなくピーンと張り詰めた緊張感が漂うワンオペ店主に向かい「やっぱ特ヒレで」とは言えず、ロースに生きる覚悟を決めた。
まず店主は、1人1人に温かいお茶とおしぼりを差し出した。緑茶だったかほうじ茶だったかは忘れたが、非常に美味しいお茶であった。おしぼりで手を拭きながら、カウンター席の両端にあるクリアパネルに目をやると……
「店内撮影禁止(料理含む)」
「店内撮影禁止(料理含む)」
「店内撮影禁止(料理含む)」
いたるところに、「店内撮影禁止(料理含む)」と書かれていたのだ。具体的には、1人用コックピット的なカウンター席の両端にあるクリアパーテーション内に入っているメニュー表に「店内撮影禁止(料理含む)」と書いてあった。
「店内撮影禁止」は、まだわかる。だが、「料理含む」は珍しい。一気に高まる緊張感。さっき「やっぱ特ヒレで」と言わなくてよかった。もしかしたらボコられていたかも……なんて本気で思うほどの圧を感じた。
そのせいもあって、店内は “無” である。私語を話す者などいない。店主がトンカツに塩胡椒を振りかける音すら聞こえるほどの “静寂”。卵に浸し、パン粉を付け、静かな「ジュ〜」。おそらく低温で揚げている。
しかしながら、店主は一生懸命かつ “楽しそう” に調理している。決して怒っていたり、恐怖感を醸しているわけでもなく、ただただ “念” を入れながら、集中してトンカツを揚げていた。たまに「もーちょい」と独り言をつぶやきながら。
トンカツが揚がるまでの間、デカいお皿にコンモリと山のように盛られたキャベツが用意された。とんでもない量であるが、そのキャベツの中にも「紫蘇」が少し入っていたり、なかなか芸が細かい。こだわりを感じる。
そしてついに……私の「特ロース」や、常連さんたちの「特ヒレ」が配膳された。まずは何も付けずにそのままで……ウマイ! もうすでに劇的にウマスギルのだが、おいしい塩をつけて食べると──これまた絶品!!
言うまでもなく「ソース付け」も激ウマであるし、紫蘇入りキャベツにソースをかけて……も文句なしでマジウマ。また、そんなトンカツを引き立てる白米や、変わった具材が入った味噌汁(豚汁?)に、お漬物も絶品だった。からしもだ!
ひとことで言うなら、すべてにおいて「気を抜いていない」のだ。私、なかなかのトンカツ好きで、都内各所の有名店はほぼ網羅しているほどのトンカツ野郎であるが、この店ほどの “念” を感じるトンカツは初体験。
また、これが最も重要なのであるが、我々、お客側における “この店のトンカツ定食のすべてを感じとる姿勢” も完璧だった気がする。より具体的に言えば “店主の魂を感じる姿勢” 、“もてなしを受ける体勢” というか。
それを可能にしたのが、ほかでもない「料理含む」の撮影禁止であろうと私は思う。
職業柄ということもあるが、どこかで外食をした時には、記事やSNSに公開するしない関係なしに、必ずスマホでパチリと料理を撮るのが癖になっている。皆もそうでは? だが、それをあえて禁止にし、トンカツを食すための時間に集中させる。
まるで千利休(せんのりきゅう)のようだな、と私は思った。千利休がどれだけ細かいところにも気を抜かない偉大な茶人だったのかは各自調べてほしいが、さしずめこのトンカツ屋さんは「千利休の茶室」のような空間ではないかと。
それほどの「無言の対話」が、そこにはあった。こんな経験をトンカツ屋さんでするなんて思わなんだ。この店主は千利休の生まれ変わりなのでは? と思ったほどである。少なくとも、理念は同じであると私は思う。
──話はまだ終わらない。
もう特ロース定食を完食した時点で大大大大・大満足だったのだが、空になった皿を見て、なんと店主は「新たなおしぼり」と「口直しのスイーツ(手作りの杏仁豆腐)」と「温かいジャスミン茶」を出してきたのである!
すべてが完璧だった。もう完全に、この店主の「とんかつ物語」を堪能しているような気分だ。まさか手作りスイーツが出てくるだなんて……(聞いてない)。「最初のお茶」と「最後のお茶」の種類が違う点も粋 (いき)すぎる。
ちなみに最後、お会計時。少しだけ店主と、ひとことふたこと会話したが、コワモテの頑固者なんかではなく、非常に優しい人であった。緊張感あふれる「演目」が無事に終わって安堵する、そんな笑顔さえ見せてくれた。
私を含め、スマホなしには生きられない人も多いだろう。だが、たまにはスマホから離れた方が良いかもしれない。写真も撮らず、ネットにも繋がず。それだけで、忘れかけていた “人生における大切な何か” を感じることができるかも?
私は、近いうち、また絶対にこのトンカツ屋さんに行こうと思う。もう一度味わいたい、あの異次元とも言えるトンカツ体験を。そして、もうひとつ強く心に決めていることがある。
次は必ず「特ヒレ」にしようと──。
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24
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