先日「エヴァンゲリオン京都基地」としてレポートした東映太秦映画村だが、本来は映画のテーマパークとしての顔のほうが有名だろう。
日本映画の歴史を学べるミュージアムや、子ども向けのアトラクションもあるが、見どころは時代劇のオープンセット。なにせ太秦映画村は、実際にさまざまな映画やドラマの撮影にリアルタイムで使われている “生きた撮影所” なのだ。
ガイドツアーに参加したら、いい大人の筆者でも目からウロコのおもしろエピソードばかり。映画ファンならずとも楽しめるので、その一端をご紹介したい。
・「ロケ地ガイドツアー 俳優さんといっしょ!」
現地に出向いて実在の風景を映すロケーション撮影ではなく、撮影用に野外に作られた模造の風景がオープンセット。本物らしく見せながらも、汎用性を高めて再利用するために、さまざまな工夫がなされている。
そこに秘められた裏話を聞きたいなら、一日に何度か行われる「ロケ地ガイドツアー 俳優さんといっしょ!」(予約不要・無料)に参加しよう。
このツアーに参加するのとしないのでは、映画村の印象が180度変わる。ただ自分で見て回るだけだと「へー」で終わりだが、ツアーに参加すれば「へぇぇぇぇぇぇ!」になるぞ。
・江戸の町オープンセット
筆者も知らなかったのだが、映画村で撮られるのは江戸時代の作品だけではない。たとえば連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では、江戸の表通りを昭和の活気あふれる商店街にアレンジした。
住宅のしつらえ、看板、街灯、電柱などの小道具を駆使して時代時代に合った風景を作り出す。複数作品が同時進行していると、道1本を隔てて違う時代になっていたりするのだとか。
『カムカムエヴリバディ』では「条映映画村」として登場したという大手門。二条城の大手門をモデルにしている。
ガイドツアーの案内役は現役で活動している東映俳優さん。カメラに向かってかっこよく走るコツや、日本刀の構え方、砂埃の秘密など、実演を交えながら披露してくれる。
時代劇で死体が上がったりする濠(ほり)としてよく登場するセット。雨ざらしのプールなので、お世辞にもキレイとは言いがたい。
転落シーンでは俳優さんたちも内心「水、汚な……」と思っていることや、超・大御所が出演したときだけ水を入れ替えたこと、高価なかつらを着けているため飛び込みは一発勝負であることなど、撮影秘話をおもしろおかしく解説してくれる。
とはいえ、あくまで “ぶっちゃけトーク” はツアー参加者を笑わせるため。本当の現場はプロ意識がぶつかり合う、真剣勝負であることも垣間見られる。
自分で散策しているだけだと何気なく通り過ぎてしまうこの石垣。
指摘されてよく見ると白い面が露出している。なんと素材は発泡スチロール!
お地蔵さんも石碑も墓石も、軽々と持ち上げられる。言われてみれば「あぁ!」と思うが、背景にまぎれてしまうと、まったく区別がつかない。
半分だけ作られた日本橋。反対側は階段になっている。俳優さんは、いかにも大きな橋の反対側から渡ってきたかのように演技する。
左右には川も水路もなく、橋から飛び込むシーンは下から見上げるあおりのアングルで本物らしく撮っているのだそう。
大通りには酒屋、米屋、ろうそく屋などの商店が賑やかに並ぶ。それぞれの店は、暖簾(のれん)や提灯(ちょうちん)で区別がつくのだけれど、角を曲がるとまた別の店になっている。4方向、異なる店として使えるというわけ。経済的だ。
おまけに、床下に車輪がついている物件もあり、必要に応じて動かせるのだそう。神の視点で街並を変えることまで出来てしまう。地面に根を張っているとばかり思った松も、可動式だと聞いてびっくりした。
自宅にテレビがない筆者はあまり詳しくないのだが、刑事ドラマの警察署としてよく登場するらしい建物。銘板をかけるところが、うっすら変色している。パトカーを停めて、警察官を立たせれば正面玄関の出来上がりだ。
すっかり本物だと信じていたものが、「こっちもあっちも作り物ですよ」とタネ明かしをしてもらっている気分で「ウソだろ……?」と口を開けっぱなしだ。
(画像提供:東映太秦映画村)
オープンセットはあくまで屋外の風景を撮影するためのもので、室内は作り込まれていないのだそう。では室内の撮影はというと、映画村の奥に立ち並ぶ倉庫のようなスタジオで行う。
本物の部屋に見えるけれども天井がなく、上からライトで照らせるセットがひとつのスタジオ内に複数作られているそう。24時間、昼間の設定で撮影が出来るのだとか。
これまでに数千本の作品が撮られてきており、ほとんどテレビドラマを見ない筆者でも知っている有名作としては『科捜研の女』がここで……!
時代劇の場合はオープンセットとスタジオを行ったり来たり。ちょっと距離があるため、ぱっと見はオープンセットの一部に見えながらも、俳優さんたちが着替えのために使っている物件も。どの建物か、ガイドツアーに参加して聞いてみよう。
国内で大規模なオープンセットといえば、山形県に「スタジオセディック 庄内オープンセット」がある。そちらはかなり交通が不便な場所にあるうえに、ビルや電線などの人工物がまったく映り込まないほどの郊外だ。
ところが太秦映画村は京都のど真ん中。電車もバスも本数が多く、筆者も鼻歌まじりの余裕顔で到着したのだが、それは「すぐ近くを線路が走っている」ということ。
電車の音が入り込まないよう、撮影スタッフは時刻表とにらめっこなのだそう。また、太陽が顔を出したり隠れたりと不安定な日も「画(え)がつながらない」ことから苦労するのだとか。
ガイドツアーでは、こんな裏話もたくさん聞ける。どんな分野でもプロフェッショナルの話は刺激的だ。
時代劇ファンでも朝ドラファンでもなく、そもそもテレビを見ないという「お前、何しに来た」状態だった筆者も、物づくりの現場の一端に触れられて最高におもしろかった。
・時代劇ファンも、そうでない人も
村内には「銭形平次の家」「め組の家」「池田屋」「寺田屋」など、誰もが知る物件も多数。人気アニメの遊郭編で一躍注目されるようになった「吉原遊郭」もフォトジェニックかもしれない。
おそらく普段から映画ファン、ドラマファンなら作品を見る目が変わるのではないかと思う。ブラブラ歩くだけでもいいが、ぜひとも値千金(あたいせんきん)のガイドツアーに参加することをおすすめする。それだけで「入場料の元はとれた!」と確信するほど楽しいぞ。
参考リンク:東映太秦映画村
執筆:冨樫さや
Photo:東映太秦映画村、RocketNews24.