仕事行きたくねェェェエエエ! くる日もくる日も新宿二丁目の雑居ビルの一室に閉じこもり記事を書き続ける毎日。都会のビルには疲れたよ

そう思っていた矢先、音楽仲間づてに『そらにわ』が復活するという話を聞いた。神奈川県藤野の山の中で開催される野外音楽フェス『そらにわ』。コロナ禍で休止していたが、2022年は開催に向けて動いているらしい。そこで一緒に作ってみることにした

・気づけば知り合ってた

当たり前だが、作ってみたいからって簡単に制作側に入れるわけではないのが野外音楽フェスである。だが、今回、私(中澤)が、ラインで2つ返事で入れたのは主催者の1人であるyachikoが10年来の音楽仲間だったから

バンド「sjue」などでボーカリストとして活動しているyachiko。対バンや他のミュージシャンのライブなどで、ライブハウスで会ううちになんとなく顔見知りになって10年。いなくなったり音楽を辞めたりする人もいる中で、ずっとyachikoはyachikoのままである。

・手作りの野外音楽フェス

会うのも久しぶりだったが、会場最寄り駅の1つである上野原駅に迎えに来てくれたyachikoはやっぱりyachikoって感じであった。なんでも、今朝は公民館でチラシをコピーしたりしていたのだとか。

yachiko「藤野は、最近の地方移住ブームよりもっと前の世代から、移住ブームがあった場所なんだよね。だから、親世代で移住してきた家族とかもいて、移住者の私も溶け込みやすかった。その風土が気に入って、地元のシンガーソングライターで移住者二世のあんちゃん(annasekai)と2人で『そらにわ』を起ち上げたんだよね」


──最初は、2人で温泉に入った時の「何か楽しいことがしたい」という雑談から始まったという。要は「そらにわ」は、そんな雑談が広がるように仲間が寄り集まって開催されているフェスなのだ。ロケットニュース24の流木こと、私が流れ着いたのも必然だったと言えるかもしれない。

・バンドマン

さて置き、yachikoの運転するバンは街から山の中へと入っていく。たどり着いたのは山道を抜けた先の見晴らしの良い場所。農作業の休憩所のような東屋で数人の人が弁当を食べていた。どうやら、フェスの実行委員メンバーのようである。

そんな待ち合わせメンバーの中にひときわ身近なオーラを醸し出している人物が。マッケンさんというらしいが、なんだろうこのどこかで感じたことがあるような雰囲気は。そこで話を伺ったところ……


マッケン「以前、東京でバンド活動をしてまして、2017年にこちらに移住してきました。それで移住してすぐくらいの時に、演劇を観に行ったら、そこで『そらにわ』のチラシを配っていて。面白そうだなと。

実は、『そらにわ』では出演ミュージシャンの一般公募をやったこともあるんですが、その時の合格者が自分のバンドを知ってくれていて、あれは嬉しかったですね」

──と、バリバリのバンドマンのようだ。東京のライブハウスでニアミスしてたのかもしれないと考えると、川が合流するみたいな人生の流れを感じずにはいられない。お互いに経ましたね

自己紹介を兼ねた弁当タイムが終わると、農道を歩いていくマッケンさん。会場はここから農道を抜けた先にあるようなので行ってみたところ……

めっちゃ草刈ってた


そうか。野外で会場が山の中ということは、会場作りもこういうところから始まるのか。自然ってこっちの都合の良いようにはできてないもんな。草刈どころか竹も切らないといけない。

・大手広告代理店からドロップアウト

で、会場で竹をバシバシ切ってたのがクニさん。私と同じく今年から参加しているとのことで、親しみを込めて竹取のクニと呼ばせてもらうが、なんと竹取のクニは某大手広告代理店の元社員だという。一体なぜここにたどり着いたのか?

竹取のクニ「ずっとこのままここで働いて人生の大部分の時間を費やすことに焦りを感じていました。他の世界、可能性を見てみたくて30才の時にドロップアウトして、世界一周に行ったんですね。

それで既存のシステムに乗っかるより、自然に寄り添って、土を耕して自分で食べるものを作る方が、僕にとってはよっぽど安心できることに気づきました。

この辺に来たのは1年半前なので『そらにわ』は観たことないんですが、助け合ったり生かしあったりするコミュニティが大切だと思っているので、あちこちの現場に顔を出してできることをやっています。

勝ち負けがある社会、勝者がいる一方で敗者がいる世界ではなくて、誰もがそれぞれ平和で幸せであれる社会は可能だと信じていて、それを藤野から世界に広げていきたいですね」


──今年初めての参加とのことだが、最もヒッピー感を感じた人物であった。

・保育士

一方で、竹を運んだり、細々した作業をしていたバタコさんは、普段、保育士をしているのだという。今まで話を聞いた人が、軒並み歴戦の流木どもだっただけに逆に気になる。バタコさんはなぜここに流れ着いたのか。

バタコ「もとは茅ヶ崎にいたんですが、就職先で病んでしまいまして、藤野でお世話になるようになったんですね。それで、移住者コミュニテイーに顔を出すうちに、あんちゃん(annasekai)と知り合って、『そらにわ』に誘われました。

その時は、自分の中に大体こうなるだろうなって想像図があったんですけど、実際に開催された光景を見ると、思った以上で。年によってはカッチリしちゃうこともあるんですけど、それも含めて結果の想像がつかないイベントだと思います。だから、そらにわ作りって私にとっては表現なんですよね


──むしろ、コアメンバーの中にバタコさんのような人も混じっていることが『そらにわ』の雰囲気を現わしていると言えるかもしれない。

・大工

というわけで、みんなで2時間くらい竹や雑草を刈っては燃やし刈っては燃やしして設営のための下準備が完了した。ステージ作りを担当する磯和さんいわく、ステージは4mくらいで、3日間かけて土台作りなどをした後、本番前日に会場設営をするのだという。

この日のミーティングでは、手伝いを頼める人への連絡や、設営日のスタッフのまかないなどについて重点的に話し合われていた。

・ミーティングの様子

確かに、近くにコンビニとかは無さそうだし、まず決めるべきは食についてなのかもしれない。この優先順位はやってみないと分からないことのように感じた。しかし、それはそれとして、いざ実行委員チームが集まったミーティングで思ったのは……


ファミリー感すげえ。

そもそも、実行委員長のannasekaiさんは二児の母だし、マッケンさんも親子で参加だし、ファミリー率が半端じゃない。野外音楽フェスのミーティングと思えないくらいにザ・チルドレン ブギー

annasekai「yachikoと最初に話したフェスのイメージはSigur RósのライブDVD『Heima』なんですね。高原にステージがあって子供とかもいる感じがいいよねって。その上で、私も子供の頃、『ふじのまちART収穫祭・こもりく』をはじめとした藤野の芸術家が開催する様々なイベントで鬼ごっこしていた原体験があって。それが子供心に凄く楽しかった思い出があるんですね。

『そらにわ』はその2つが大きなコンセプトになってます。大人が大人のために創った場所だけど、子供も勝手に楽しめたらいいなって」


──『こもりく』はどういうイベントだったんですか


annasekai「藤野の芸術家が、一日だけ遊びでやるみたいな野外フェスで、森の中にステージがある感じでした。藤野のシーンを作ってきたイベントで、私の親もミュージシャンなので、ずっと馴染んでいたシーンだったんですが、私が藤野に帰ってきた時が最後で」


──藤野を出てたんですか


annasekai「実は、東京に出て高円寺に住んでいたことがありました。一度は出ておきたいと思って。yachikoと出会ったのもその時だったと思います。ただ、やっぱり東京で暮らしていくのは厳しくて、帰ってきたらずっと馴染んでたシーンがなくなっちゃって。『そらにわ』にはそんな藤野のシーンを受け継いでいきたいという想いもあります

──なお、フェス運営には市から助成金も受けているとのことだが、来年の助成金はすでに申請済みだという。

年齢と共に変わっていく状況の中で、いかに音楽と付き合うかはミュージシャンの永遠のテーマと言える。バンドを15年やって思うのは、これはもともと用意されてない答えだということ。人によって違うサステナビリティーの答えの1つが、annasekaiさんにとっては『そらにわ』だったのかもしれない。

・地主さん談

そんな作業日初日の最後。地主さんに挨拶に行くとのことなのでついて行くことにした。annasekaiさんによると、会場は普段は農地であり、年に3~4回草刈などを手伝うことを条件に使わせてもらっているのだとか。

日が暮れた頃、yachikoの運転するバンで地主さん宅に伺うと、その夜は十三夜だったようで、地主さんの奥さんが赤飯や天ぷらなどを出してくれた。せっかくなので、ご相伴にあずかりながら地主さんに話を聞いてみた。

地主さん「都会で流行りのサステナビリティーは自分のことしか考えてないヤツが多い。でも、田舎を使うなら、そこに住んでる人がいるんだから、自分のことよりもまずは地域のサステナビリティーだろ

イベントをしても、ぐちゃぐちゃにして帰っていくんじゃ全くサステナブルじゃない。だから、年3~4回の草刈を条件にしてるし、それをやる限りは貸そうと思ってるよ」

──とのこと。テレビやイベント関連などでもめたこともあるらしいが、『そらにわ』についての答えには2016年から積み重ねてきた信頼関係も感じられた。ちなみに、休止期間中も草刈は手伝っていたという。

そう言えば、草刈中に通りかかった地域の人に「今年はやるの?」と声をかけられる一コマがあった。フジロックみたいな規模ではないが、人の記憶には確かに息づきつつある。

そんな『そらにわ』の本番は2022年10月29日。入場料無料で神奈川県相模原市緑区名倉3983で開催されるので近所の人はぜひ。当日は私も駐車場係をやるらしいぞ。頑張ります!

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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