日常から離れて、どこかふらりと旅に出たい。だけど遠くに行く時間もお金もない……。

そんな人にオススメしたいのが、東京の川を船で行く「水上バス」の旅である。浅草界隈やお台場周辺を巡る屋形船や遊覧船は、観光でも有名だと思う。

今回紹介するのは、東京水辺ラインが月に1度だけ運行している「いちにちゆらり旅」という珍しいコース。

このコースは、板橋から浅草、葛西臨海公園、お台場までを1日かけて船で周遊するというもの。

えっ、板橋に船乗り場なんてあるの!?


・板橋の住宅街から船でお台場へ…

多摩川、荒川、隅田川……たくさんの川が流れる東京の街。しかし、板橋区や北区、足立区にも船着き場がある、ということを知っている人はそう多くないのではないか。実際、このあたりはクルーズで使われることは少ない。

そういった珍しい船着き場を巡ることができるのが、2022年4月から10月までの期間、月に1度だけ運行している水上バス「いちにちゆらり旅」である。

隅田川や荒川を経由して、岩淵水門・千住・浅草・両国・お台場海浜公園・葛西臨海公園などを船で半日かけてゆっくりとめぐるコースである。料金は降りる場所によって異なるが、1周で最大3400円、乗船は要事前予約となっている。

私は、板橋区の小豆沢発着所から乗船した。

都営三田線の志村坂上駅から……

住宅街を抜けて徒歩15分ほどの場所にあるのだが……

こんなところに船着き場があるなんて全く知らなかった……。

コースの最北端ということもあってか、ここから乗船する人が多くて驚いた。


・個人的見どころ

正直、観光名所としても知られる両国〜浅草や、お台場界隈を船で渡るのは珍しくない。見ていて楽しくはあるものの、他のクルーズコースでもわりとよく行く場所だと思う。

やはり、個人的には、この「いちにちゆらり旅」でしか行かない場所こそがレア度が高い見どころだと思う。しかし、そういった場所はかなり玄人好みっぽいというか、ぶっちゃけ激シブである。


<1. 小豆沢〜千住の珍しい船着き場>

なんといっても珍しいのが、板橋区の小豆沢(あずさわ)、北区の神谷、江戸川区の平井、足立区の千住といった住宅街の船着き場を巡ることである。

川なんだから船が通ったっておかしくはないのだが「え、こんなところを船で通れるの!?」という珍しさがある。観光地を巡るよりも珍しいと思う。電車で近くを通るのと、船で水路を通るのでは景色の見えかたが全く違う。

金八先生の舞台みたいな土手を、制服姿の子たちが自転車で駆け抜けるのどかさ……。

道行く人達が無邪気に「オーイ」と呼びかけながら船に手を振ってくれる姿。

東京のありふれた日常が、船から見えるだけでなんだかドラマティックに見えるから不思議だ。


<2. 北区のマンモス団地>

そして、団地マニアにはたまらないであろう光景が、荒川沿いに現れるマンモス団地、北区の豊島五丁目団地群である。

めちゃくちゃ大きな団地が何棟も林立している! しかもまだまだ新しい棟を建設中だ。こんな巨大団地があるなんて知らなかった……と思ったら、この団地は駅からはかなり離れた場所にあるらしい。こういった場所が見られるのは船ならでは。

ちなみに、このクルーズは東京の河川に架かる橋に注目したコースとなっているので、このあたりの見どころとしては、岩淵水門と赤い旧水門が紹介される。

実際、甲板に出て写真を撮る人がたくさんいた。


<3 . 葛西臨海公園から見えるディズニー>

荒川から隅田川沿いを走る船は、葛西臨海公園から東京湾に出る。川から海に出たとたん波が立ち、船が揺れるのでちょっと驚く。

葛西臨海公園の船着き場でしばらく停留するのだが……そのとき、海の彼方の浦安方面にディズニーリゾートが見えるのだ。なんとなく得した気分になる不思議。


<4. 令和島のコンテナ群とゴミの埋立地>

葛西臨海公園を出て、若洲海浜公園を抜けると、貨物のコンテナ群がある。

東京ビッグサイトや青海駅の裏側なのだが、電車から見たことがない光景が広がっている。九州沖縄や四国に荷物を運ぶ超大型の貨物船や、山のように積まれたコンテナとクレーンが圧巻。

「令和島」と名付けられた埋立地もある。物流の拠点地なので、ドライブなどで来ることもないだろう。

そして東京のゴミの最終処分場から作られた埋立地の森も見える。ここは許可がなければ入れない場所らしい。まさに都市の裏側のような部分。この船からでなければ見れない景色が広がっている。

この殺伐とした光景から、いきなりお台場の近未来的な町並みや、豊洲のビル群が見えるギャップがすさまじい。


・東京の裏側が見れるツアー

1周はだいたい6時間ほどで、途中下車はできない。団地、江戸の面影を残す下町、工場、埋立地と臨海都市……といろんな東京の姿が見られる、なかなかおもしろいツアーだと思う。

個人的に思う見どころをいろいろ書いたものの、6時間と長丁場のツアーでいい意味で派手さはない。本でも読みながら景色を眺め、ときおり甲板に出て、のんびりと楽しむのもいいと思う。

ちなみに、客層は友達とお喋りしたりお弁当を食べたりしてのんびり過ごす年配グループが6割、橋マニアと思われるカメラを抱えた人たちが3割、家族とカップルが1割という感じだった。

事前予約制なので、思い立ってすぐに出かける……というわけにはいかないが、東京という都市を別の角度から見られる貴重なツアーだと思う。

2022年の運行日は5月12日、6月9日、7月8日、8月19日、9月4日、10月19日 の予定とのこと。

工場や団地など渋い風景にグッと来る人、人が少ない場所でのんびり過ごすのが好きな人にはオススメだ。

参考リンク:水上バスで行こう!水上バスでいちにちゆらり旅(PDF)
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]

▼長丁場だけど船内には自販機しかないので、お弁当やおやつを忘れずに!

[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]