春の牡蠣のウマさをナメていたら、プレスツアーで広島に連れてこられてしまった筆者。牡蠣をハシゴするというパワープレイで徹底的に春牡蠣の強さをわからされる展開に。
東京と比べて、牡蠣が安いしデカいし美味すぎんだろ。住んでいたら毎日食べているに違いない。気づけば日没も間近。そろそろ帰らないと1泊不可避だ。
いっそ泊まって夕暮れ後の広島を観光しようかとも思ったが、原爆ドームにしろ宮島にしろ、昼間がメインな感じがする。夜の広島、観光力低くね……? とつぶやいたら、またしても広島県観光連盟を刺激してしまった。
・ひろしま美術館
彼らによると、たしかに広島の観光スポットが昼間に偏り気味だというのは、事実としてあるもよう。もっと日没後のコンテンツを強化して、広島に宿泊していく観光客を増やしたいと思っていたそうだ。
実は近年、その辺りのテコ入れを色々と行っているらしいのだが、そのうちの1つをこれから体験させてくれるという。ということでやってきたのは、ひろしま美術館。
いや、ここ17時までじゃないですか。もう過ぎてるし、とっくに閉館してますよ。シャッターも下りて……
って、開いたァ !?
・ナイトミュージアム
そのまま導かれるように中へ。一体何が始まるというのか? 館内併設のカフェにてウェルカムドリンクを頂きつつ説明を受けたところ、これから観劇的なスタイルでの美術鑑賞を体験させてくれるという。
2021年から始まった「HIROSHIMA NIGHT MUSEUM」という催しで、貸し切りにした閉館後の美術館にて予約した少数のグループを対象に行われるのだとか。
ちなみに昨年は西洋画がテーマだったそうだが、今年は日本画をテーマとしたものも新しく始めたという。「HIROSHIMA NIGHT MUSEUM vol2 -日本画 ver」。
……なるほど、ぶっちゃけよくわからん。それにいきなり日本画と言われてもハードルが高そうに感じる。
美術の知識など、ピカソやムンクの名前だけ知っているようなレベル。日本画って、どんなやつです? 織田信長の肖像画みたいなのですか?
さすがに門外漢すぎてヤバい。何を見せられるのかよくわかっていないが、見たところで何も分からぬまま終わる可能性も。微妙に焦りを感じながら、案内されるまま建物の中へ。ええい、ままよ。
・演劇
入ると……完全に雰囲気は閉館後。マジでめっちゃ閉館している。完全に電気が消えているし、見えるのは非常灯くらい。
消灯された美術館というのも貴重な体験だが、こうも暗くては……と思ったら、声が聞こえてきた。暗すぎてよくわからないが……おっ? 誰かおるやんけ。
目が慣れてくると、着物を着ていることが発覚。こんな状況だが、突如として演劇が始まった。観劇すると聞いてはいたが、真っ暗なままスタートするとかクールじゃん。
そのまま着物の男に連れられて隣の部屋へ。そちらは電気がついており、男の後ろに絵画が見える。ちなみに彼の名は竹内栖鳳といい、夜のひろしま美術館に住んでいるもよう。
日本画に詳しい人ならこの時点で何か感じるものがあるのかもしれないが、筆者は予備知識も予習もゼロ!(本開催では、予習できるしっかりした冊子を貰える)
まあ、きっとスゴい人なんだろう。マジに何もわかっていない筆者だが、しかし、語り口調に引き込まれるものがあるので見ている分には面白い。
と、そこでもう1人、今度は豪快な感じの酔っぱらった男が登場した。何やら竹内栖鳳さんとの間にフクザツなものがあるようだ。芸術観についてアツい想いを竹内さんにぶつけている。
しばらくして、彼の名は横山大観だと判明。あっ、この名前は筆者も知っているぞ! テレビだかで絵を見たことがある気がする。
しかし横山大観さん、こんなアルコホ……もとい、大層な酒好きキャラでええんか? と思ってWikipediaを見たら、写真が完全にそういう感じだった。広島の醉心というお酒が主食だったらしい。
語り手は途中で竹内栖鳳さんから横山大観さんに変わり、そして最後の登場人物、村上華岳さんも出てきて物語は終盤に。トータルで1時間ほどだろうか。仕事なのに完全に没頭させられて、後半は写真撮るの忘れてたぜ!
時代背景や、当時の日本画業界の諸事情、そして彼らの生き様などが、まるで本人による語りのような感じで説明されていく。それぞれの作風についても、どういう主義や思想に基づくものなのか、わかるようになっている。
・本物を背景に
見ている感覚はNHKの大河ドラマを見ているような感じだ。例えば「坂の上の雲」の正岡子規の出てたところとかが近いかもしれない。まったく誰が誰だか知らなくとも、違和感なく説明込みでストーリーが進んでいくので問題ないのだ。
そして演者たちの背後には、登場人物たちが遺した本物の日本画が飾られている。美術館でやることの最大の強みだろう。全国の美術館で一般的なレンタルできる解説音声などよりも、はるかにエンタメ性があって引き込まれる。
この仕組みは良いなぁ。入館時には興味や知識が全くなくとも、演劇が終われば関心と理解を持って絵画を鑑賞できるようになっている。脚本は学芸員監修だとか。素晴らしく贅沢な絵画の鑑賞方法だと思う。
閉演後は、テーマの日本画だけでなく、常設展示を見て回る時間もある。ちなみ日本画以外ではピカソやモネ、セザンヌなどの作品も展示されており、普通に美術館として強い。
劇に影響され、完全に明治から昭和にかけての日本画界隈なテンションとなったところで退館。外は完全に暗くなっていた。
時間的にも、あとは宿に帰って飯食って寝るだけだ。必然的に広島で1泊する流れとなる。この企画を考えた人は、かなりのやり手に違いない。
昼間はたらふく牡蠣を食いつつ、原爆ドームや宮島など定番スポットを観光。そして夜は芸術鑑賞して一泊。流れが完全に仕上がっている。いっそホテルとのセットでツアーとして売ったらどうかという完成度。
ナイトミュージアムの1回の公演は最低15人、最大で25人まで。お値段は税込み6000円だ。スケジュールは18時集合で20時退館。2021年に行われた際は盛況だったそう。
いや、これは盛況にもなりますわ。絵画を鑑賞する方法として、最も革新的かつ魅力に満ちたもののうちの1つだと思う。売り切れた場合はキャンセル待ちとのこと。
完全に何もわからないまま劇を見た筆者だが、マジに楽しみながら理解を深められた。終わるまでには、何に注目しながら絵画を見るべきかの指標も得られるため、展示物を見たくなる理由がその場で生成された。お世辞抜きにおススメだ! いっそ全国の美術館のスタンダードになってほしい。
・公演の詳細
場所:ひろしま美術館
時間:18時集合、20時退館
公演日:4/23、5/14、5/28、7/9、8/13
予約ページ:HIROSHIMA NIGHT MUSEUM – 日本画ver –
参考リンク:ひろしま美術館、醉心、Wikipedia
執筆・撮影:江川資具
Photo:RocketNews24.
提供写真:広島県
▼演じているのは、劇団グンジョーブタイの方々。そして背後が竹内栖鳳、横山大観、村上華岳による本物の日本画。
▼展示館が、なんか面白い形してるんですよ。
▼終わったらポストカードを1枚貰える。