日本時間の2022年3月28日、アメリカで開催された「アカデミー賞」の最中、俳優のウィル・スミスさんがプレゼンターを務めたクリス・ロックさんをビンタした件が大きな話題となっている。詳細についてはここでは触れないが、日本とアメリカの温度差が個人的にはとても気になった。

簡単に言うと、日本では「病気 & 家族のことをイジられたんだからビンタは当然。むしろウィル・スミス男らしい!」という意見が多いのに対し、アメリカでは「それでも暴力は絶対にダメ。ウィル・スミスが悪い」という意見が多い気が……これは一体どういうことなのだろうか?

・全然悪くないと思ってた

アカデミー賞の真っただ中、ウィル・スミスが奥さんの病気の件をイジられてプレゼンターをビンタした──。この一報を聞いたとき、私、P.K.サンジュンは率直に「ウィル・スミスかっけえ!」と感じた。ネット上の反応見る限り、私と同じ感想を持った人は多かったように思う。

いくら冗談とはいえ、言っていいこととダメなことがある。家族を侮辱されたら世界中が見ている中でも勇敢に立ち向かう男、ウィル・スミス。当初はてっきり世界中で「ウィル・スミス最高!」という声が渦巻くものと思っていた。だがしかし……。


・クリス・ロックが称賛されているだと?

その後、インターネットで情報を収集していると、どうやら海外……特にアメリカではウィル・スミスが盛大に叩かれている……っぽい。なんならビンタを喰らったクリス・ロックが称賛されているという話も小耳に挟んだときは「え、どゆこと?」と戸惑ってしまった。

暴力がダメなことは十分に理解している。だが今回の件は “許されてもいい暴力” とも言えるのではないだろうか? 日本とアメリカは同じ民主主義という価値観を共有しているハズなのに、何なんだこの差は……? ウィル・スミス、普通に男らしいやん? グッドファーザーやん?

・アメリカ人に聞いてみた

いくら考えてもわからないため、ロケットニュース24の英語版サイト「SORA NEWS 24」のケーシーさんに、アメリカでの反応を聞いてみることにした。アメリカ生まれアメリカ育ち、現在は日本で生活するケーシーさんの目に、今回の件はどう映ったのだろうか?


──ケーシーさん、なんかウィル・スミスに対するリアクションに日米でかなり差がある気がするんですけど、なんでなんですか?

「OK、ビンタの件だな。俺も驚いたぜ。確かにサンジュンさんの言う通り、日本ほどウィル・スミスが支持されているワケじゃないな。ザッとみたところ、五分五分って感じじゃないか?」

──なるほど。それでも日本よりは遥かに多い気がします。体感だけど、日本では少なく見ても7:3でウィル・スミスが支持されているような……。

「そうだな、じゃあまずはウィル・スミスを支持している意見から伝えようか。これは日本でも見かける意見だな」

──お願いします。

「家族を守るのは当然だし、クリス・ロックの冗談は悪趣味だった。あとは病気の人間をからかうなって意見もある。自分が同じことをされたら、俺もウィル・スミスと同じことをするって意見もあるな。な? 日本でもよく見かけるだろ?」

──そうですね。じゃあウィル・スミスの行動に怒ってる人は何て言ってるんですか?

「そうだな、ただの冗談にムキになるなって声もあれば、いかなる暴力も犯罪だって意見もある。人の言うことが気に食わないから殴るって頭どうかしている、なんて声もあったぜ。その他には、家族の恥、プロじゃない、ってところかな」

──なるほど。

「ウィル・スミスの気持ちがわかるって声がありつつも、殴ってイイかどうかは五分五分ってところだ。あとはそうだ、ステータスはウィル・スミスの方が遥かに高いから、クリス・ロックを殴るのは弱い者いじめなんじゃないか? なんて意見もあったぜ」

──なんか、アカデミーがウィル・スミスのことを調査するとか言ってるらしいですし、なんか完全に悪者扱いじゃないですか? 逆にクリス・ロックが称賛されてるとか、いまいち理解できません。

「クリス・ロックが褒められてるのは、相手が熱くなっても自分をコントロールして落ち着いていられたところだな。殴られたら “てめえ何しやがる!” くらいは言ってもおかしくないのに、それ以上イベントの雰囲気が壊れないようにしていた点は “プロ中のプロ” とも言われている」

──うーむ、なるほどねぇ……。ただアメリカって家族を超大切にするイメージがあるから、今回のリアクションが意外だったんですよね。ましてや病気のことですし。

「そうだな。ちょっとややこしいのは、ジェイダ・ピンケット・スミス(ウィル・スミスの奥さん)が病気のことをSNSなどで公表してたことなんだ。公表してたから冗談にしてイイだろという意見と、それでもダメって声があるんだな」

──うーん、でも女性のことですしね。

「そうなんだ。ただ男性有名人がハゲをいじられることがあるけど、彼らはそのたびに暴力をふるうワケじゃないよね? そんな意見もある。一方でやはり女性の場合は意味合いが違うだろ、クリス・ロックがジョークにすべきじゃなかったって言う人もいるな」

──なんかもっとシンプルな話かと思いきや、やや複雑ですね。

「そうそう、複雑と言えばかつてジェイダ・ピンケット・スミスが不倫していたことも、今回の件で再び注目されてるよ。なのでビンタも、ウィル・スミスが男らしさをアピールするためだ、とかさ」

──にゃるほど。日本に伝わってきている情報よりやや複雑なことは理解しました。ただそれでも温度差はありますねぇ……難しい。


先述の通り、日本とアメリカは同じ民主主義の価値観で生きてるハズ。ただし、微妙なズレは確実に存在する。アメリカ側の価値観に合わせる必要は無いが、こういう時こそ自分の欲しい情報だけ見て「ウィル最高!」で終わらせず、例えば「暴力の価値観は結構違う」と学ぶべきだと感じた次第だ。

私自身、当初は「ウィル・スミスかっけえ!」と感じていたが、向こうの反応を見るにつれ「ちょっと俺の基準が野蛮なのかな?」と思ったりもしてきている。少なくとも知識として「アメリカではウィル・スミスを支持する人が多数派ではない」と知っておきたい。

執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.