
日本人に馴染みの深い魚のひとつに「マグロ」がある。回転寿司に行ったら必ずマグロを食べるという人もいると思うのだが、本当に良いマグロを知っているだろうか? 家でマグロを食べるにしても、スーパーで購入する際にどう選んで良いのかわからないはず。
とても身近な魚のはずなのに選び方がわからない!
そこでマグロ一筋68年! 伝説とも呼べる仲卸人にマグロに関するあれこれを質問してみた! 買うときに良いマグロを選ぶにはどうしたらイイの!?
・マグロ一筋68年の親方
今回協力頂いたのは、創業大正3年のマグロ・鮮魚・一般総合卸の「株式会社なり市堺浜(なりいちさかはま)」の若き専務細川さんだ。ここは、東京五輪にちなんだ「金メダル丼」を提供している『佃滝三郎』を運営している豊洲の仲卸業者である。
お店は仲卸の強みをいかして、安くてウマい新鮮な魚料理を数多く取り揃えている。
細川さんに「マグロのことを教えて欲しい」と相談したところ、16歳からマグロ卸一筋の通称「親方」を紹介して頂いたのだ。
親方こと野末誠さんは同社の名誉顧問でまぐろマイスターであり、なおかつ学校法人服部学園服部栄養専門学校の講師も務める御年84歳の伝説的な仲卸人である。
今では珍しくなくなった「マグロの解体ショー」を日本で最初に始めた人物で、その当時、米ボストンから日本航空のジャンボ機でマグロを空輸したことから「ジャンボマグロ」と名づけて自ら実演を行ったという。
築地時代からその名は広く知られており、お見せ頂いた写真には昭和の大俳優、菅原文太さんとのツーショットも含まれていた。
現在も毎日朝3時に豊洲市場に出かけて、入荷したマグロを買い付けをしているそうだ。そんな親方に手ほどきを受けることとなった。
・天然マグロと養殖マグロ
佐藤「親方、今日はよろしくお願いします! さっそくですが良いマグロを食べたいんですよ。スーパーに行くといろいろあるけど、何をどう選べば良いかわからなくて。そのヒントみたいなものをお教え頂けますか?」
親方「多分、言葉だけで説明するのは難しいと思って、今日はうち(なり市堺浜)のマグロと、スーパーで買ったマグロを用意しました」
佐藤「ありがとうございます。すごく基本的なことをお尋ねしますけど、やっぱ養殖と天然なら美味いのは天然マグロですよね?」
親方「どの料理で食べるかによるので一概に「養殖はダメで天然は良い」とは言えないんですよ。それはイメージの問題で、いつ頃からか「養殖よりも天然」みたいな風潮が出てきたと思うんですよね。
ご存じないかもしれないですけどね、養殖は酢飯との相性が良いんですよ。だから養殖物を使うお寿司屋さんは多いです」
佐藤「え!? そうなんですか! 養殖は天然より格下だと勝手に思ってました……」
親方「銀座なんかの高級寿司屋さんでも養殖を使っているところもあります。養殖は脂がのってるんですね。逆に天然物は比較的身が締まっています。だから、焼き物とか煮物なら天然の方が美味しい。料理に合わせてどちらを買うか選んだ方が良いでしょうね」
佐藤「そうなんですね。でも、やっぱり天然の方が値段が高いから、美味しいイメージがあるんですよね」
親方「最近はそうでもないんですよ。養殖も以前より値上がりしてます。なぜかというと、アジアのマグロが獲れなくなってるんですね。
それから台風が来ると養殖網がダメになるので、養殖の方の量も減るんですね。おまけに海水温度が40度を超えると、マグロは身が酸化して黒くなるんですよ(筋肉色素ミオグロビンの影響で変色する)。台風は養殖にも天然にも悪い影響を与えるんですよ。
高騰の理由はまだあって、養殖は「先取り」ができるんです」
佐藤「養殖の先取りというと?」
親方「養殖は「競り」(市場で仲卸業者が競争で値をつける取引方法)より先に買えるんです。それを先取りと言います」
佐藤「そうか、そこは天然と大きく違うところですね」
親方「そう、だから値が上がっていくんですよ」
佐藤「う~ん、そうすると高いから美味いみたいな感覚はあてにならないですね」
親方「これがうちで入れている養殖の本マグロの中トロです」
佐藤「え? これ養殖ですか? すごくキレイで美味そう!」
親方「こういう良い養殖物が一般のスーパーには入らないんですよ。先ほど言った通り、先取りなどの影響で一般には回らないから」
佐藤「良いものはそれなりのところに行っちゃうんですね……」
・生マグロと冷凍マグロ
佐藤「次にお伺いしたいのがですね、冷凍と生ならやっぱり生マグロの方が良いですよね?」
親方「それも誤解がありますね。僕はね、冷凍のマグロもかなり美味しいと思ってます。鮮度が違うんですよ。獲ったその場で冷凍してるから」
佐藤「そうなんですか! じゃあなんで冷凍は美味しくないと思ってしまうんだろう……」
親方「「冷凍は美味しくない」ってよく聞くんですよ。それはね、解凍の方法が良くないから美味しくなくなるんです」
佐藤「正しい解凍の仕方ってあるんですか?」
親方「あります。美味しくなくなるのは、解凍が中途半端だからなんですよ。中に氷が残っててハンパに解凍して刺身にするから、中の水を食っちゃってる。水っぽくなるんです。だからね、しっかり身の中の水を抜くようにするんです。
まずね、お店で解凍のものを買ってくるとするでしょ。そうしたらね、こうしてキッチンペーパーとかペーパータオルで全体を包むんです」
親方「それでね、柵の横からギュッギュッと軽く押してください」
親方「そうするとね、中の水分が押し出されてペーパーに水滴がつく。水を押し出してやる訳ですよ。これを2~3回繰り返して、それでラップをして食べるまで冷蔵庫に入れておくんです」
佐藤「カンタンですね! それだけで水っぽさが抜けるんですね!」
親方「あとはね、冷凍のものを買ってきて解凍する場合、解凍が十分かどうか見極める方法があります。こうして身の真ん中を持ってね、自然にしなれば(反れば)解凍できてる証です。しならないならまだ中が凍ってる」
佐藤「これもカンタンですね。ほんの少しの手間で冷凍マグロが美味しくなるなら、やらない理由がないです」
・値段の目安
親方「値段についても少しお伝えしておきましょう。正直なところね、先ほども言った通りに流通の問題があって本当に良いものはスーパーに入ってないんですよ。ホテルとか旅館とか料亭とか寿司屋とか、良いものはそういうところに行くんですよね。うちなんかの卸し先もそういうところです」
佐藤「まあそうでしょうねえ、高級寿司店で出してるような質の良いマグロがスーパーで買えたら、寿司屋に行かないですからねえ」
親方「だからね、せめてスーパーに並んでいる商品でも良いものを選んでほしい。値段に見合ったものを買って欲しいんです」
佐藤「と、言いますと?」
親方「我々の相場観でいうとね、生マグロならキロ4500円、グラム単位(100グラム)でいったら450円。冷凍ならキロ2500円、グラムで250円。この辺の値段を目安に価格を極端に超えてくるものは「高いかな?」と思うんです。このへんの値段を覚えておいて、商品を見てもらえると販売価格に見合った商品かどうかわかるでしょ? どこで買うかにもよるんですけどね。」
佐藤「ということは、この生の赤身は……。高いですよね? グラム1598円ですから」
親方「ちょっと高いかな。百貨店で販売しているくらいの値段設定ですね」
佐藤「こちらの解凍スライスもグラム518円ですね」
親方「このくらいなら販売価格として妥当ですかねえ」
・買う時は「筋」を見る
親方「最後にもう1つ。今回用意したこのマグロなんですけど、ちょうど良いと言ったら失礼ですけど、こういうものはなるべく避けた方が良いです」
親方「これね、柵に対して筋が横に入ってるんですよ。こっちの柵と比べると良くわかります。こういう横に筋が入ったものは避けた方がいいですね」
佐藤「本当ですね、これを刺身として普通に切ると……」
親方「筋を食うようなもんですね。美味しくないでしょう」
佐藤「こういうものを選んでしまった場合は、どうしたら良いですか?」
親方「切る場合は柵に垂直に切るのではなく、半分とか3分の1に切って、縦(柵に対して水平)に切ると良いでしょう。まあできれば、こういうものを選ばないの方が良いですね」
佐藤「次から買う時に筋の向きを見てみます!」
親方「それで酒の肴に刺身を食べるなら厚さは1センチ。ご飯のおかずに食べるなら3~4ミリで切ると良いでしょう。多少薄めに切った方がご飯との食感の相性が良いです。
それで夏に食べるなら12度、冬なら15度が一番美味しく感じます。環境としては蛍光灯の下でない方が良いですね、蛍光灯は赤いモノを黒く見せます。暖色系の灯りに下で食べるとより美味しく見えます」
佐藤「さすが親方! マグロに関する知識が無限に出てきますね!! 今日はいろいろお教え頂き、ありがとうございました」
親方「ありがとうございました」
ということで、親方のヒントを元に良いマグロを選んで欲しい。なお、なり市堺浜では通販サイトを運営しており、天然生マグロを含む鮮魚のセットを販売しているので、目利きの選んだ海産物を食べてみたいという方は、チェックしてみてはいかがだろうか。
取材協力:株式会社なり市堺浜
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
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▼脂の甘味がハンパではなく、身震いするほどのウマさだった!
佐藤英典






















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