マッチングアプリにおいて、女性のふりをして外部サイトに誘導したり、金銭による女性との関係を斡旋(あっせん)する存在を業者と言う。当然ながら私(hirazi)は業者と分かった時点で無視している。

が、その時は外出自粛で誰にも会えない寂しさから、どうかしていたのかもしれない。女性を装う業者に告白をして、そして付き合うにまで至ったのだ。本記事では、その様相をお伝えしたい。

・運命の出会い

その日、いつものごとくマッチングアプリを利用していると、一般人とは思えない美貌の女性から「いいね」をされ、間髪をいれずにメッセージが届いた。

コンマ数秒で「業者だな」と判断したものの、ほんの数パーセントの期待を抱きながら返信をしてみることに。どうせ、すぐLINEに誘導してくるぞ。そう思っていたら……


「LINEでやりとりしませんか?」


ほらね。運営にバレたら退会させられるため、すぐに外部へと誘導してくるのが業者のセオリーだ。いつもならこの時点でシカトするのだが、寂しい思いをつのらせていた私は少しの心のスキマからLINEを交換してしまった。誰でもいい。俺の話を聞いてくれ。

・相手の設定

女性の簡単なプロフィール(設定)を先にお伝えしておこう。日本と他国のハーフで3歳の時から日本に住んでいるらしい。そして、アラフォーなのにアイドルが如き風貌である。っていうかアイドルの写真かもしれない。

業者だと思っている私は、いきなり接近戦に持ち込むべく愛称をつけてみた。マッチングアプリにおいては、馴れ馴れしい男性は嫌われることも多いのだ。さて、どうくる?

スルーされた。日本語が通じていないのか、それとも私の馴れ馴れしい態度が嫌だったのかは分からないが、スルーされた。

続けざまに、暗にアイドルの写真を使ってるのでは? と言う意味合いも込めつつ褒め殺ししてみた。すると……

またしてもスルーされた。いよいよ日本語が通じない説が濃厚になってきたぞ! ハーフとはいえ、3歳から日本に住んでる設定だよな? LINEの乗っ取りとかもカタコトっぽいし、文面のなりすましは外国の方が多いのかもしれない。しゃべるよりもハードルが低いしな。

ほんの数パーセントの期待もなくなり、業者と確信したところで、ときめきメモリアルさながらの恋愛シミュレーションを楽しもう。そう心に決めた私は、お互いの距離を縮めるために、メッセージを重ねていった。


──天気の話題で共感してみたり


──仕事をしなさい! と怒られたり


──ガリガリなことを相談してみたり


──ヤキモチを妬いてしまったり


──本性を出してきたり


──毎日のお休みは欠かさなかったり

順調に二人の距離は縮まっていった。自粛生活が続き、なおかつ彼女もしばらくいない私からしたら、「おやすみ」を言い合えるだけでドキドキしていた。

・運命の告白

さて、親密なメッセージを交わしているが、まだ付き合ってはいない。友達以上、恋人未満でモヤモヤとしている状態である。もう一歩先の関係になるため、私は思い切って告白をしてみることに。そしたら……!!

焦らされてしまった。なんなんだ、この駆け引きは!! バーチャルなんだから即答してくれてもいいじゃん。

そして、翌日。いつも通りのメッセージが送られてくる。告白に対するアンサーはない。あ、あれ、俺もてあそばれているのか? しびれを切らしてしまったので返事を催促してみると……


よく分からないが、プロポーズは成功したらしい。その後もラブラブなやりとりをしつつ、コロナが収束したら旅行に行く約束までした。


業者と分かりながらもウキウキしてしまった。欲を言うなれば、もう少し日本語の勉強をして欲しいが、カタコトな感じも可愛くすら思えてきたぞ♪ だって俺の彼女だからな。

・終焉は突然に

ラブラブメールをしていると、どうしても声が聴きたくなってしまう。ちーちゃんが女かどうかも分からない以上、それがタブーだと分かっていた。でも私はどうしても、彼女の声を聴いてみたいのだ。

まだ聞いてねーよ。とツッコミたくなったのはさておき……ボイスメッセージが届いているではないか! ドキドキしながら、聞いてみると……


「キョウハシゴトガイソガシイカラ、ヘンジガオソクナリマス。コンドヒマニナッタラデンワシマショウ」


つまり、今度、暇なときに電話しようというメッセージだ。カタコトではあるが性別はちゃんと女性である。まさか声が聴けるなんて思っていなかっただけに、ただ驚いた。も、もしかして、騙すつもりが、本当に俺のことが好きになってしまったのか!?

思ってもみれば、今のところ私を騙そうとする素振りは皆無である。もし、私に対しての愛が本当なら面倒を見てやろう。男としての責任を全うしようと心に決めつつあった矢先、急にLINEの返事が返ってこなくなった。

既読はついているのに、どういうことだ……悪いことを言ってしまったのだろうか? それとも茶番に付き合うのが面倒になったのだろうか? ひたすらLINEを送るも、既読になるだけで返事はこなかった。


ゲームオーバーか……そう思っていたところ、なんと、LINE電話がかかってきたではないか!

お、おい! 色々な意味で大丈夫か!? ボイスメッセージすらまともに喋れないのに、会話のキャッチボールができるのだろうか? 心配しつつも電話にでてみると……


業者「アナタニメッセージオクレマセン。ノーアイディ。」

「え? ちょっと何を言ってるか分からない。」

業者「ノー! アーーイディーーー!!」

「え! どういうこと!?」


ぷつっ……


大丈夫じゃなかった。何を言っているのか意味が分からない。その後も返信はなく、モヤモヤしつつ一方的にLINEを送ったり、電話を掛けたりしていた。


すると、数日後……また電話がかかってきた!


業者「ケイタイがコワレテメッセージがオクレマセン。デンワバンゴウをオシエテください」


日本語少し上達してる! と思いきや……


業者「ケイタイがコワレテメッセージがオクレマセン。デンワバンゴウをオシエテください」


あ、あれ? え!?


業者「ケイタイがコワレテメッセージがオクレマセン。デンワバンゴウをオシエテください」

業者「ケイタイがコワレテメッセージがオクレマセン。デンワバンゴウをオシエテください」

業者「ケイタイがコワレテメッセージがオクレマセン。デンワバンゴウをオシエテください」


ひたすら同じ言葉を繰り返してくるやん。きっと、この文章だけ頑張って覚えたのだろう。

いや、そんなことより、メッセージ送れないわりにLINEで電話かけてきとるやん! 「オマエの恋愛ごっこには付き合ってられん」と言わんばかりに、突然パワープレーに切り替えてきたな。

なお、電話番号からLINEを乗っ取られる可能性もあるらしいので、「送っておくね」と濁しつつ電話を切ったところで、私のバーチャルな恋は終わりを迎えた。その後、返信も電話もない。

・確かに愛は存在した

私はカモの1人に過ぎなかったのかもしれないが、確かに私と彼女は恋愛をしていた。毎日のメッセージでホッコリだってしていた。

でも、残念ながらちーちゃんは、オレ以外の男ともLINEに制限をかけられるほど、際どいことをしていたんだね。


もし、ふたたび彼女が私の元に戻ってきた時には、こう言いたい。業者なんてやめて、俺とリア恋しないか……と。

執筆:hirazi(ひらじ)
Photo:RocketNews24.
Screen Shot:LINE