
ここにある1枚の有名絵画を見ていただきたい。貧しい農婦が畑に落ちた麦の穂を拾い集める様子を描いた、ミレーの代表作「落ち穂拾い」である。
とはいえ、油彩の再現にしてはくっきりした色合いと、チラチラと光を反射するような光沢。なにで出来ているかおわかりだろうか。
・名画シリーズ キュービックペインティング(税込3960円)
拡大してみよう。ドット絵のように、ひとつひとつの点が小さなカラービーズ(ラインストーン)で出来ていることがわかる。これ「ダイヤモンドアート」「キュービックペインティング」などと呼ばれるビーズ細工のキットなのだ。
製作期間14日間、使用したカラー41色、使用したビーズ数は計測不可! あまりに長く、あまりに孤独だった激闘の記録をここに残したい。
サイズは40cm×50cm。ゲームコントローラーと比べると結構な大きさである。小さめの机くらいはある。
店頭で見かけたとき、筆者はアクアビーズやアイロンビーズといった子ども向け玩具を連想した。同じようにビーズを並べて、手のひらサイズの小物を作るものだ。緻密な作業だが、小学生くらいの集中力があれば子どもでも完成できる。
中には、しっかりした作りのキャンバスが入っていて
下絵の印刷上に、粘着シートのような接着剤が一面に塗布されている。
そして大量のビーズ! ビーズ! ビーズ!
数万粒はあろうかというカラフルなビーズを貼りつけることで、絵を描くというわけだ。
このビーズが小さい……! 床に落としたらゴミと見分けがつかないほどで、アクアビーズやアイロンビーズの比ではない。すでに「あれ、思ってたのと違うかも」というイヤな予感はしていた。
・作業開始
専用の道具は、非常によく考えられている。ペン先に固形ノリを詰めると、「とりもち」のようにペタペタと粘着力が出る。
そのペン先で、ビーズを1粒だけ簡単にピックアップできる。ノリが弱くなってきたら、新しく詰めれば何度でも粘着力が復活する。ピンセットよりもずっと効率がよい。
あとは下絵のマークと、対照表のマークを見比べて該当するビーズを貼りつけるだけだ。作業手順はごく単純。
保護フィルムをはがし、試しに5粒ほど貼りつけてみた。位置がズレると、後々まですべてズレていくだろうから慎重に……
こ、これだけかー!!
続く2日、買ったばかりで楽しかったこともあり午後いっぱい作業したが、出来たのは左上の空だけ。全体の2割といったところだろうか。
・修行が始まった
平日は就寝までの数時間、休日ともなれば昼からずっと、一心不乱にキャンバスに向き合う日々が始まった。
黙々と手だけ動かして単純作業を続けるというのは、自分を見つめ直す修行のような側面がある。色を選ぶ瞬間を除くと頭はおヒマなので、いろいろな思いが駆け巡るのだ。
ある夜には、走馬灯のように過去にやらかした失敗がひとつひとつ思い出され、死にたい気分になったり……
またある夜には、アニメ版『東京卍リベンジャーズ』を一気見して「生まれ変わったら不良になろう」と決意したり……
またある夜には、「いや、生まれ変わらなくても不良にはなれるな。というか私自身がすでに不良品……」と闇落ちしたり……
ジェットコースターのように気分が乱高下しながら、経過すること2週間。作業後には粘着シートを保護するためフィルムをかけるのだが、目も腰もボロボロなのに「もう1段だけ、もう1列だけ」と謎の中毒性があって止まらない。
疲れているときに作業すると、どんどん思考が拡散してドツボにハマると知りながら、悪魔に魅入られたように机に向かってしまう。そもそも深夜に1人でやる作業じゃない。
どんなに忙しい日でも3時間は作業したから、40時間は費やしただろうか。ついに、ついに最後の1色に。黄色の凸マークで示される色番号6である。思えばこの14日間、いろいろなことがあった。
袋ごとネコの巣にビーズをぶちまけた、あの日。
途中で色を間違えたことに気づいたが、1度貼りつけると元図案を確認しようがなく、どこから間違えたのか疑心暗鬼に陥った、あの日。
スマホ老眼には夜の作業は厳しく、眼精疲労と肩こりで悪夢を見た、あの日。
過ぎ去った日々が懐かしく思い出される。いざ最後になってみると寂しいような……2度と会いたくないような……
ピトッ
完っ成っ!
・貴重な人生訓を得た
この体験から筆者が学んだのは、無理だと思ったら始めるな…………違った、何事も諦めさえしなければ、やり遂げられるということ。諦めたら、そこで試合終了なのだ。
完成品は迫力のビッグサイズで、壁に飾っても映えるだろう。発色や光沢が美しく、一面に高さが揃ったビーズを手でなでる感触も快感である。
筆者が購入したものは株式会社エスピーの「名画シリーズ」。おもに海外で人気のホビーで、同種の商品もたくさんあるので「ダイヤモンドアート」「ダイヤモンドペインティング」などのワードで検索してみて欲しい。
本来は数週間から数カ月かけてじっくり取り組むものらしいので、くれぐれも無理をなさらず。2週間で完成というのは無謀であった。少しずつ進めれば、ステイホームのよいお供になってくれるだろう。
冨樫さや























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