突然だが、皆さんは「禁足地」というのが日本各地に点在することをご存知だろうか? 何らかの理由で、足を踏み入れることが禁じられた土地。ひっそりと、しかし確実に今も存在するこれらの場所からは、古き日本の残り香を感じることができる。
今回、私(中澤)が訪れたのは東京都大田区にある新田神社。この神社には、約660年前非業の死を遂げた武将・新田義興(にったよしおき)の塚があり、「入ると祟りがある」という伝承が古くから伝えられているのだとか。なんでも、新田神社の七不思議というものまで存在するらしい……。
・新田義興とは
新田義興は南北朝の頃の武将。鎌倉幕府を倒幕した後醍醐天皇勢力のトップ・新田義貞の次男なので、日本史的には重要人物と言って差し支えないだろう。新田神社の義興の説明看板によると、なんせメチャクチャ強かったらしい。
で、難しい話を抜きにすると、そんな義興はだまし討ちに合う。味方に寝返ったかに見せ近づいてきた武士・竹沢と江戸に騙され、鎌倉に向かう船上で襲われてしまうのだ。その時船が沈んだのが多摩川の『矢口の渡』で、義興の怨霊を鎮めるために建立されたのがこの神社なのだという。
・新田神社の七不思議
さらに、看板を読み込むと新田神社には七不思議まであるらしい。七不思議の内容を簡単に書くと以下の通りである。
1. 新田義興の自刃後、七日七晩、雷が鳴り続いた。謀略によって手柄をたてた江戸遠江守が矢口の渡に再びさしかかると、にわかに空が曇って雷が轟き黒雲の中より義興の怨霊が現れ、それに驚いた江戸遠江守は落馬して狂死。その後も、怨霊は火の玉になって矢口付近に現れ雷を落とした。
2. 神社後方の塚は義興の遺体を埋葬した円墳で、入ると祟りがあり『迷い塚』『荒山』と言われている。
3. 塚の真中にある『舟杉』は義興の乗った舟と鎧を埋めたものが杉になったと言われている(雷にて焼失)。
4. 塚後方の竹は源氏の白旗が根付いたもので、『旗竹』と言われ、雷が鳴るとビチビチと割れた。平賀源内がこの竹で『矢守』を作り、義興の御神徳をひろめることを薦めたのが破魔矢の元祖。
5. 江戸遠江守の上司・畠山国清の一族や子孫が新田神社付近に来ると、決まって雨が降り狛犬がうなった。
6. 樹齢700年の欅の御神木は、雷が落ち、戦災で真っ二つになっても生き残っている。この御神木に触れると健康長寿、病気平癒、若返りのご利益があるとの言い伝え。上部には珍しい宿り木が生息している。
7. 悪計に加担した矢口の渡の船頭が後に前非を悔い、『地蔵』を建立したが、この石体が崩れて溶けているのは、義興の祟りによるものだという。
──平賀源内はともかく、雷と狂死のくだりは定番すぎてテンションが上がってしまった。どこに出しても恥ずかしくない怨霊と言えるだろう。さて置き、この雷と伝承の結びつきから新田義興は「雷神」とも呼ばれているようだ。RPGだったらぜひ仲間にしたいキャラである。
逆に言うと敵に回したくはないものだ。くれぐれも失礼のないように気をつけなければ。だが、一礼して鳥居の端をくぐったところ驚愕の光景が目に飛び込んできた。
・モダニズムの洗礼
本殿に向かう参道右手には七不思議にもある樹齢700年の欅。樹齢が樹齢だけありドッシリとしているのだが、本殿手前にその幹くらい高い何かがそびえている。あれはひょっとして……
破魔矢……!
クッッッソデケェェェエエエ!!
わー、さすが元祖だね♪ 言うとる場合かッ! アピールしすぎてモダニズム建築の柱みたいになっとるやないか!! この破魔矢、コルビジェ以降だろ。一気に薄れる厳かなオーラ。
・迷い塚
いや、塚があるのは神社の奥まった場所だし、まだそこに行ってみないと何とも言えない。そこで賽銭を入れて二礼二拍手一礼「お邪魔します」と挨拶した後、クソデカ破魔矢をスルーして奥に進む。
本殿向かって左に道があり塚があるのはその奥。軽い林で影ができた木漏れ日の中を進んでいくと、フェンスが張られた一画にたどり着いた。フェンス前の看板には『御塚』の文字。どうやら、これが迷い塚のようだ。
ただの裏山……というかちょっとした丘にしか見えない。塚の木々も普通の林レベルなので、「ここで迷う方が難しいだろ」と感じてしまうところは八幡の藪知らずと同じである。
と、見た目は本当に素朴そのものなのだが、マイナスイオンが出てるみたいな心地よさを感じるところはさすが神社。新田神社の公式サイトによると、怨霊を崇め奉る御霊信仰(ごりょうしんこう)においては、怨念の力が強ければ強いほど効力があるとされるのだとか。
新田大明神は武運長久・家運隆昌・必勝開運、運を守る神としての恩恵があるという。どちらかと言うとパワースポットなのかもしれない。私が訪れたのは普通の日だったのだが、神社にお邪魔している間、地元の人が入れ替わり立ち代わり参りに来ていたことも印象的だった。
・時空の神社
怨霊を鎮めた禁足地と言えど、今や極めて牧歌的な雰囲気。そのことに時の流れを感じる。だがしかし、最後に神社の中をぐるりと歩いてみたところ、それ以上に時の流れを実感するものを発見してしまった。そのブツとは……
LOVE神社。
LOVEと掘られた石碑のOに鳥居が入っている。禁足地どころか神社とすら思えない信じがたいチャラさだ。一瞬、新宿アイランドタワー前かと思ったぞ。
新田義興が見たらビビるに違いない。時が流れすぎて、もはや別時空。義興がだまし討ちにあう前に分岐した別世界線の新田神社に迷い込んだとしか思えない。
怨念から愛が生まれる……これが660年の時の流れ! 古の日本を感じることはできなかったが、連綿と続く人の祈りを感じることはできた。それはLOVE。All You Need Is Love。
・今回紹介した店舗の情報
店名 新田神社
住所 東京都大田区矢口1丁目21−23
最寄り駅 東急電鉄東急多摩川線武蔵新田駅
参考リンク:新田神社
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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