皆さんにお尋ねしたい。「職務質問」を受けたことがあるだろうか? ほとんどの人が「ない」と答えるだろう。できれば私(佐藤)もそう答えたいのだが、直近の1カ月で3度も受けた。どうやら “シーズンイン” したらしく、今後繰り返し受けそうな予感がしている。

身元を確認された上に所持品検査をされるのはなんとなく釈然としない。そこで、おまわりさんに近くの美味しい店を尋ねることにした。この企画の初回は、東京・上野編である。さ~て、どんな美味しいお店を勧めてもらえるのかな?

・改札出て2秒で職質

その日、私はアメ横に用事があり、JR上野駅の中央改札を出たところだった。まだ駅の構内、外の空気をひと口も吸っていないなかで、後ろから「ちょっとすみません」と声をかけられた。

「え? 改札出ただけで声かける?」、どういう判断で不審に思ったのかは不明だ。だが、逆に考えろ! 未然に犯罪を防ぐとはそういうことだ。私のような風体の怪しい輩を野に放つ前に、犯罪抑止の行動をとるのがおまわりさんの務め。まさにその職責を果たした瞬間であった。


とはいえ、改札を出ただけなんだけど……


・見張っているのか?

それにしても、私が職質を受ける頻度は高い気がする。ある時は終業後に事務所を出て5秒で遭遇。またある時は、病院に到着する直前で。別の日には病院を出て1分で遭遇。私は思う。


もしかして、私を見張っているのか?


あまりにも頻繁に職質を受けるので、せっかくならおまわりさんからグルメ情報を収集しようと決意した次第だ。タクシードライバーとおまわりさんは、その地域の飲食店に詳しいはず。きっといい店を知っているはずだ。そこで今回、上野駅で声をかけてくれたおまわりさんに尋ねることにした。


・意外な発見

ご存じない方もいるだろう、職務質問は緊張する。何も悪いことをしていないのにやたらと緊張してしまう。おまわりさんの方も緊張している。「もしもこいつが犯罪者だったら……」、と思っているかどうかは知らないけど、問う方も問われる方もドキドキしてしまう。


今までの私は、身分証を呈示したりカバンの中身を洗いざらい出したり、場合によってはボディチェックを受けることに不快感をあらわにした。周りを見れば、職質を受けている私は犯罪者同然だ。何もしてないだろ! と言いたい。そんな感じでイラ立ちを隠さなかった。

だが、これからの私は違う! グルメ情報を聞きたくてウズウズしていたのだ。そこでさっそく尋ねた。


佐藤「ここら辺で美味しいお店、知らないっすかねえ(微笑)」


するとどうだろう! 場の緊張が一気に和んだ!!


おまわりさん「美味しいお店? 魚がいいですか? 肉がいいですか? それともラーメンとか?」


マジかよ!? 好みまで聞いてくれんの! 優しい!!

私とおまわりさんの心の距離がググっと近くなったぞ。


佐藤「何でもいいっす! 美味きゃ何でもいい。ハハハ……」


おまわりさん「そしたら、武蔵とかどうですか? 麺屋武蔵。上野は2軒あるんだけど、ガード下の方がよかったですね。自分は。なんて名前だったかな。「鷹」って文字が名前に入ってた気がしたけど


佐藤「ありますね、2軒ね。ガード下ね、そっちに行ってみます。ありがとうございます!」


なんて朗らかな職質なんだろう。こんなに自然に「どうも~!」とか言って、笑顔で職質を終えたのは初めてだ。おまわりさんも本当は「お仕事は?」とか「今、何やってるんですか?」とか聞きたくないんだろうなあ。荷物検査も面倒なんだろうしなあ。

いや~、さわやかな職質だった。何かハレバレとした気分だ。さっそくガード下の方に行ってみよう。


・「鷹」じゃない……

念のため、おまわりさんが勧めていなかった方のお店を見に行くと、名前に「鷹」は入っていなかった。こちらは「麺屋武蔵 武骨」である。


うん、こっちじゃないな。じゃあ、ガード下に行こう。


到着して看板を見ると……。


「鷹」の字、入ってないじゃん……。こっちは「麺屋武蔵 武骨相傳(そうでん)」だ。


名前違うけど、まあいいか……。美味しければ問題ない。アメ横には うなるほどお店があるし、麺屋武蔵も店舗が増えたからなあ。名前を覚えきれないのかもなあ。なお、おまわりさんの言ってた「鷹」の字の入ったお店は高田馬場の「鷹虎」のことだと思う。上野のお店ではないじゃないか……。


・いざ、お店へ

このお店は2011年6月にオープンしている。奇しくもこの6月で10周年、こんなタイミングでお店に来たのは何かの縁かもね。注文したのは、お店の看板メニュー「濃厚黒相傳つけ麺」(税込1250円)だ。


昼時だけあって、私が入った段階でカウンターは満席になった。麺屋武蔵を利用するのは、いつぶりだろうか? 普段ラーメンもつけ麺も一切食べないので、ラーメン店特有の活気が新鮮に感じられた。

スタッフは必要最低限の言葉を交わして、次から次へとオーダーをさばいていく。このコロナ禍で飲食店は厳しい状況に置かれている。ここも例外ではないはずなのに、店には元気があるように見えた。そして私のもとにも注文した品が出てきた。これが濃厚黒相傳つけ麺である。


麺の上には煮卵と分厚いローストポークがドン! と2枚乗っている。ほんのりとピンクに色づいた肉が美味そうだ!


本来であれば、麺から食べるのが流儀かもしれないけど、桜色のローストポークに食欲をそそられて、そちらから箸をつけてしまった。


厨房のド真ん中に設置されたスチームコンベクションオーブンでじっくりと火入れした豚肉は、柔らかくてジューシー。高級フレンチで出てくるような味わいのローストポークだ。これ、1本を丸かぶりしてみたい!


スープの上に浮いている黒い液体は「イカ墨」ではない。タマネギやニンニク、コーヒー豆をオーブンで炭化させたものを使用しているそうだ。濃厚な出汁にほのかな苦みを添えるアクセントになっている。


これに麺をぶち込んで思いっきりすする。ズルズルズル! もっちりとした太麺にスープがよく絡んで美味い。久しくつけ麺を食べていなかったけど、改めて食べると美味いもんだねえ。おまわりさんに勧めてもらってよかった。勧めてもらわなければ、きっとつけ麺のウマさを思い出すこともなかったかもしれないなあ。


名前は間違ってたけど、味は間違いなかった。上野に訪ねる機会がある人に、オススメです!


・今回訪問した店舗の情報

店名 麺屋武蔵 武骨相傳(そうでん)
住所 東京都台東区上野6-11-15
時間 11:00~20:00、20:00~22:15(デリバリー・テイクアウト)
※ 奇数月第2火曜 20:00閉店

参考リンク:麺屋武蔵
執筆:職質グルメ評論家 佐藤英典
Photo:Rocketnews24
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