
Go To トラベルの東京追加や、渡航中止勧告解除など、コロナ収束を見越した経済対策が徐々に始まっている。秋の4連休も含め、だいぶ日常生活が戻ってきているのではないだろうか。
そもそも都市部では通勤のための満員電車など「避けようがないリスク」もある。誰しも生活しないわけにはいかず、腹をくくる面もあるだろう。
一方で、地方の小さな観光地でちょっと驚いたことがあった。必要なことだと思ったが、たぶん大規模な観光地ではできないし、求められてもいない。どういうことかお伝えしたい。
・数メートルおきに求められたもの
とある重伝建(じゅうでんけん)を訪ねたときのこと。重伝建とは「重要伝統的建造物群保存地区」のことで、歴史的な家並みを街ぐるみで保存している一角だ。
有名なのは金沢の茶屋町や、函館の洋館群など。川越のような大規模なところから、ほとんど観光地化されていない小規模なところまで全国にある。小さなエリアでも人の往来が増すことは確かなので、飲食店や土産物屋が点在していることが多い。
筆者が訪れたのも小規模な地区だったのだが、観光案内所、飲食店、休憩所、土産物屋すべてで氏名・居住地・連絡先の記入を求められた。
それほど広くもない地域で、ぶらぶら歩きながら気になる商店をのぞいていたので、体感としては数メートル歩いては記名……また歩いては記名……という印象だ。すべて感染症が発生したときの連絡先として使うという。
このご時世、立ち寄った先々で個人情報を落としてくるのは、あまり気持ちのいいものではない。なにより面倒くさい。最初はともかく、2軒目、3軒目と続くと「さっきも書きました」といいたくなる。
記名がイヤなのでなるべく店に入らない、という選択肢も出てくるかもしれない。何気なく入店しようとすると、血相を変えた店員がかけ寄ってきて「検温を」と制止されることもあった。
都市部から訪れたなら「やりすぎ」と思われるかもしれない。しかし、これくらいコロナに対する警戒感、緊迫感があるという意味でもある。各店でどこまで個人情報保護を徹底してくれるかわからなかったが、筆者は納得した。周囲を見る限り、記名を拒否する人もいなかった。人口が少なく、新規感染者もまれな小さな観光地ゆえの事情である。
・背景にある事情
よく田舎でコロナになると大変だ、といわれる。筆者が住むのも地方都市。コンビニもファミレスも牛丼屋もあるが、休日にイオンに行くと高確率で知り合いに会うという程度の田舎だ。
とある家族に新型コロナウイルスの感染者が出た。数日と置かず「親の勤務先」「子どもの所属する学校、部活、アルバイト先」などが具体的に人々の口に上った。
もちろん報道はされていないし、SNSなどインターネットで広がるのではない。もしかしたらSNSでも流れていたかもしれないが、筆者の情報源は違った。ルートは「人から人へ」だ。
たとえば子どもが部活動をやっていると、父兄のつながりは他校にまで及ぶ。「〇〇校のサッカー部らしい」などと噂が出れば個人の特定は容易だ。さすがに町中みんなが知り合いというわけではないが「知り合いの知り合い」である確率はかなり高い。
店名を聞けば誰もが「ああ、あそこね」とわかるし、急に店を閉めている様子から知る人もいるだろう。そこで感染が起きたわけではないのに、たぶん「コロナの店」というイメージはずっと消えない。都市部のように毎日数十人、数百人と新規感染者が出るわけではないから、感染者の身辺がとても目立つのだ。
ニュースでは投石や落書きなどのひどい事例も目にするが、当地ではその後、誹謗中傷があったというような話は聞かない。が、見ず知らずの人々に発症の事実が知られているという居心地の悪さは想像に難くない。大げさかもしれないが「もうその地には住んでいられない」というくらいの事態だ。
もちろん「かかる時はかかる」「時の運だ」と楽観視する人もいないわけではないが、“コロナを出してはいけない” という切実なプレッシャーは、都市部のそれよりも遥かに強い気がする。
・地方への旅行
誹謗中傷は論外として、「縁」の濃い小さなコミュニティで生きることには良さも悪さもある。同じ駅を使い、同じ店で買い物をし、どこかが新規オープンすれば誰もがその事実を知っていて「美味しい」とか「いまいち」とか話題にする。
そんな中でコロナに罹患(りかん)することは、その後の人生が一変する出来事だ。治癒すれば終わりではないのが難しい。とはいいつつも、マスクもなくのんびり歩いている地元民もいて、結局は「その人次第」という側面もあるのだが。
山間部はこれから美しい紅葉シーズンを迎える。地方への旅行自体を否定するものではなく、かくいう筆者も早く遠出したくてうずうずしている。
ただ、もし都市部から訪れて「過剰だ」と思うような対応を目にしてもどうかご容赦願いたい。地方ゆえの切迫した事情がそこにはある。お互いに気を緩ませることなく、この事態を乗り切りれればと思う。
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
冨樫さや






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