この数カ月、ライブハウスは厳しい立場に立たされていた。新型コロナの感染経路として注目されたことで、行ったことがない人たちまでライブハウスを見張り語る。私(中澤)はバンドマンだが、全然嬉しくない注目のされ方だった。

まるで腫れ物に触るように後手となったライブハウスへの対応。2020年6月13日、ついに政府が休業要請を解除する方針を示した。ガイドライン付きで19日から解除の予定とのこと。しかし、ライブハウスには営業再開が難しい理由がある

・ライブハウスに関するガイドライン

まずは、西村康稔経済再生担当相が発表した ”夜の街” ガイドラインで、ライブハウスに関するものをまとめると以下の通りだ。

・店内における対人距離の確保や人数の制限(できるだけ2m、最低でも1m離す)
・テーブルやカウンターへのアクリル板やビニールカーテン等の設置
・客や従業員へのマスク(適宜フェイスシールド)などの着用
・店内の換気や消毒の徹底
・顧客の名簿管理、体調チェック
・出演者と観客の距離はなるべく2m確保。できない場合は飛沫が拡散しない対応(発声部分を中心に透明の遮蔽物を設ける等)を実施
・オンラインチケットの販売やキャッシュレス決済を推奨
・公演前後および休憩中に、人が滞留しないよう段階的な会場入り等の工夫

──以上のことに取り組む事業者については、持続化補助金によってサポートしていくとのこと。個人的には、ライブハウスで難しいのは距離かと思う。そこで、下北沢CLUBQueに協力してもらい、この距離感で立つと実際どういう感じになるのか再現してみた。

・キャパ「280人 → 50人」

下北沢CLUBQueは通常ならキャパは280人。有名アーティストのライブしか行ったことがないリスナーなら「狭い」と感じるだろうが、インディーズバンドマンにとってはまあまあ広いライブハウスだ。

以前、私が音楽事務所に所属していた時も、「下北沢CLUBQueを埋められたら次の目標は渋谷クアトロかな」と言われたことを覚えている。まあ、埋められなかったんだけどね……。

と、私の話はさて置き、ステージから2m、客間1mをあけて立ってみたところ、客側の気持ちとしては結構快適だ。しかし、これ、キャパどれくらいになるんだろうか

ステージからCLUBQue初代店長で現プロデューサーの二位徳裕さんに確認してもらったところ、「50人くらいかな」とのこと。これで運営ラインにしようと思ったら、チケット代はいくらになるのか


二位徳裕「仮にチケット代が1万円とかだったら成り立つか? そんなゴージャスなアーティストは多くいないし、いたとしても多額のギャラが必要になる。なのでチケット代を1万円にしたとしても、運営は成り立たないんですよね」

──とのこと。参考までに、私がCLUBQueに出演する時のチケット代は大体2500~3000円くらいだ。インディーズバンドのライブハウスイベントでチケ代1万円とか、もはやギャグの領域である。

・文化として終わる

とはいえ、そのために持続化給付金があることも事実。CLUBQueも物販、YouTubeチャンネルなどでの配信に給付金を含め、黒字にならないまでもなんとか収益を作り社員に給料を与えている状態だという。

二位徳裕「ガイドラインについて? それによる仕事に対する意識は変わらないですね。感染しないように真面目に取り組むだけです。もっと大変な職種の人もきっといるでしょうし。

話は変わりますが、給付金やクラウドファウンディングで今を生きながらえたとしても、ライブハウスが持つ風潮が今のままだと延命にしかならないと感じています。このままじゃ文化として終わるのではないか……と」

──と言うと?

二位徳裕「そもそも、ライブハウスシーンの斜陽はコロナに始まったことではなくて、しっかりとしたエンターテイメントを発信していかないと他の娯楽に勝てないと思うんですよ。それはずっと個人的に感じている問題でした。そこにコロナが来てしまった。

今後、運良くコロナ禍が終わったとしても、むしろライブハウスという職業の本当の危機はこれからという気持ちです」

──19日に営業再開したら何か変わると思いますか?

二位徳裕「何も変わらないでしょうね。ガイドラインと言われるものも予想の枠を超えていないし……というか、まともなライブハウスは19日から通常通りに営業再開というのは難しいのではないでしょうか

──それはなぜですか?

・営業再開が難しい理由

二位徳裕「出演者側の準備が整っていないからです。ライブハウスのブッキングは通常、3カ月前から行います。『営業再開していいよ』と言われて、店を開けても出演者がいないのです。バンドに『明日でてくれる?』といって決まるものではありません

しかも、この数カ月はスタジオも閉まっていたし、バンドもリハーサルができていません。まずは、バンドが動き出し、その後やり取りをして時期を決めるので、ライブハウスの予定が埋まり出すのは、第2波とかなく順調に進んだとして……3〜4カ月後くらいでしょうね

──バンド側の意見を言わせてもらうと、今から「6月中に出てくれ」は大抵断りますね。状況を見るに、7月もOKするかちょっと悩むところです。

二位徳裕「ライブには練習と告知期間が必要ですし、そうやってバンドが積み上げて来たものが出るのがライブです。なにより、人が楽しむ良いライブって、曲のクオリティー以上に空気感や場を掌握する力がものを言う。そういう勘のようなものがやり続けていないと鈍ってしまう

そう考えると、全てが止まったこの数カ月は、プラマイゼロどころか大きくマイナスだと思います。演者にとっても。ライブハウスにとっても」


二位徳裕「それでも、この状況の中で我々に何ができるのか考えなきゃいけない。かつてライブハウスには文化があった。それを守り進化させる努力はライブハウスと名乗る者の務めだと思っています。本気で努力しなければいけないのは解除後、平時になってからですね


参照元:YouTube「ANNnewsCH
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼西村康稔経済再生担当相が発表した ”夜の街” ガイドライン