そもそも『冷凍うどん』のポテンシャルはエグすぎる。レトルト、インスタント、そして冷凍といった「保存がきいて簡単調理」食品の中で、 “明らかにオリジナルを超越している” のは冷凍うどんがダントツであると個人的には思う。
安いものだと5食入り220円ほどの冷凍うどん。どのメーカーもおいしいのだが、『カトキチ』ブランドに執着ともいうべきこだわりを持っている私は「冷凍食品半額の日」に買いだめをするのが常だ。見慣れた青のパッケージを、今日も無意識のうちカゴへ放り込……
……もうとしてふと、すぐ横に「もうひとつのカトキチうどん」が売られていることに気づいた。値段は通常版カトキチの2倍以上。通常版ですら店超えのウマさだというのに、さらに2倍以上の “伸びしろ” が冷凍うどんに秘められていたとでもいうのか?
・金色(こんじき)のカトキチ
『本場さぬきうどん 丹念仕込み』の金色に輝くパッケージには「ジャパン・フード・セレクション グランプリ受賞」とある。
通常の『さぬきうどん』がこの日は5食入り328円(税込)だったのに対し、『丹念仕込み』は3食入りで495円(税込)。1食あたりの金額は約66円と165円で、その差は3倍近い。重量はどちらも180グラム。
なぜこのように細かいことを言うのかといえば、全ての食品には歴然と「コスパ」という評価ポイントが存在しているからだ。『丹念仕込み』のウマさが仮に通常版を上回っていたとしても、そもそも通常版だって十分にウマい。
よって多少の改良程度ではコスパポイントの加算により、通常版に軍配が上がることになるだろう。愛するカトキチのこととはいえ、『丹念仕込み』には毅然と「3倍のウマさ」を求めなくてはなるまいて。
ついでに今回はスーパーに生の状態で売られている『ゆでうどん』も合わせ、3つのうどんを食べ比べてみることにしよう。コシがない印象のゆでうどんだが、価格は3食入りで108円(税込)! 1食あたり約36円と超破格だ。コスパポイントは相当に高いといえる。
・圧倒的な太さ
『丹念仕込み』と通常の冷凍うどんを比較してみると、明らかに『丹念仕込み』は麺が太いことが分かる。太けりゃいいってものではないが……やっこさん、おそらく「歯ごたえ」で勝負をかけてきたに違いない。
同じ180グラムでも並べてみれば一目瞭然だ。
太さも長さも均一に近い通常版カトキチに比べ、『丹念仕込み』は1本の麺の中でも特に太い箇所が存在するなど「あえての不揃い」が演出されているのである。パッケージには「1本ずつ包丁切りした」と書かれているぞ。
各麺の太さは約2倍ほども違う。
・カマタマで勝負
うどんの調理法は数あれど「ウマくて早い」となれば『釜玉うどん』だろう。今回は3種類のうどんをカマタマで食してみたい。
基本の材料は生タマゴとめんつゆのみだが、刻みネギに揚げ玉(天かす)も入れればよりおいしい。さらに個人的には『味の素』を2振りほどするのが好みである。
冷凍うどんはレンジで約3分加熱するだけの簡単調理なのも嬉しい。
・まず通常版
いつも食べ慣れた通常版の『カトキチ さぬきうどん』から食べてみる。うどんの食べ方や味付けは地域によって異なるが、近年最もメジャーとされているのは「讃岐うどん」とみていいハズだ。
「うどん県」こと香川の有名店をほぼ制覇した私の『カトキチ さぬきうどん』に対するガチ評価は「 “手作り感” という点で本場よりほんの少し劣るかもしれないが、味は遜色ない」といったところである。何度も言うが冷凍うどんは本当にスゴイのだ。
かといって「自宅で十分」ということを言いたいワケではなく、「ハシゴうどん」も当たり前の香川では店ごとの特色やおいしいサイドメニューも充実している。なにより雰囲気が最高なのでコロナが明けたらみんな、ぜひともうどん県へ!
・『丹念仕込み』の実力は
さあ……次はお待ちかねの『丹念仕込み』だ。
まずうどんを眺めてみると「うどん屋のオヤジがたった今包丁で切ったかのような」臨場感あふれる切り口に心奪われそうになる。
そして「チャキチャキの女房がサッと茹でたかのような」水々しい表面が、よもやレンチンだなどとは専門家とて気付かないのではあるまいか。見ただけで「最低でもウマい」ということが分かる……『丹念仕込み』……恐ろしい子!
その味は……
通常版の3倍ウメぇ……!!!!!
・「ウマい」って何だろう
『丹念仕込み』を食べた瞬間、私は “食べる順番” をミスったと悟った。これは間違いなく私にとって「人生最高のうどん」である。特筆すべきは感動的な弾力だ。
通常の『さぬきうどん』にもかなりのコシがあるのだが、『丹念仕込み』は “コシの中にコシがある” ……まさに「コシの暴力」「コシ神」「コシの向こう側」ともいうべき奇跡の境地!
最後は『ゆでうどん』の番である。人生最高のうどんを食べた直後でさすがに気の毒、とはいえ検証だから仕方ない。これは湯を沸かして茹でねばならず、手軽さという点ではマイナス1か。
茹で上がったうどんは『丹念仕込み』と比較するとどこかノビているような印象だ。
……かくして『ゆでうどん』を食べ終えた私は、しばし考え込んでしまった。1玉36円の『ゆでうどん』と5倍近い価格の『丹念仕込み』とを、比較すること自体が間違っていたのだろうか。
断っておくが『ゆでうどん』は決してマズいワケではない。しかし『丹念仕込み』の直後という不幸も手伝い、食べた瞬間私は反射的に「マズっ!」と叫んでしまった。確かにコシはゼロだが、これだって普通においしいうどんなのだ。なのに「もう丹念仕込み以外食べたくない」と思っちゃってる自分がいる……。
・プロに聞いてみた
オチに困った私は当サイト所属の冷凍食品研究家・レンチン原田に意見を求めることにした。ずっと前から不思議だったが、なぜ冷凍うどんはこんなにウマいのでしょうか?
原田「なんででしょうね(笑)? メーカーが一番いいと思う状態で急速冷凍しているから……ではないでしょうか。そう考えると、冷凍技術が向上していることも理由の1つかと思います。
ちなみに僕もカトキチファンで一時は週3ペースで食べていました。お店で普通に出されても気づかない味と言いますか、ホントおいしいですよね。あぁ〜こんな話をしていたらカトキチのうどんが食べたくなってきましたよ」
なるほど急速冷凍か……確かに一理あるが、他の食材と比較して「うどん」が異様にウマいという件に関しては謎が残る。ともかく「うどんが冷凍向き」であることだけは分かった。
それはそうと、原田記者は福岡県出身である。福岡で以前「福岡うどん」なるものを食べたとき、そのあまりの柔らかさ・コシのなさに驚いたものだ。コシがあるタイプのカトキチ冷凍うどんは、福岡県民の口に合わないハズではないのか?
原田「確かにコシなしうどんが主流ではありますね。でも、コシありうどんも全然売られていますよ。一昔前だと他地域のうどんは福岡県内で苦戦すると言われていたんですけど、今じゃ丸亀製麺などのチェーンも進出していて普通に満席のところが多いです(笑)。
ラーメンもそうでして、とんこつが圧倒的に多いのは揺るぎないんですがそれ以外も人気あります。結局、人の好みはそれぞれと言いますか……僕はコシあり・なしどちらでも好きです」
・勝負はドロー
パスタでいえば私はカチカチのアルデンテが好きだが、同時に「喫茶店のナポリタン」に代表されるホニャホニャのタイプもイケるクチである。そう考えると「コシこそ全て」と論じている私は、うどんに関してまだまだ素人だったのかもしれない。
原田記者が言うように、人の好みは千差万別である。硬いうどん、柔らかいうどん、普通のうどん……「みんなちがって、みんないい」と言えるようになってこそ、真のうどん好きなのではないだろうか。
……とはいえカトキチの『丹念仕込み』は時が止まるほどウマい。「冷凍食品半額の日」を待たずにチャレンジする価値はあると断言しておこう。
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.