図鑑から映画まで、現代において描かれる恐竜の外見というのは、その時々の発見の進捗に合わせて変化する。イグアノドンの復元図が二転三転した例などは、この手の話の代表例的な感じで扱われるため有名だろう。

2020年4月29日付けで、とある恐竜のイメージが従来から一気に変わってしまう発見が、科学誌Natureにて発表された。その恐竜とはスピノサウルス。映画「ジュラシック・パークⅢ」では2足歩行で元気に陸上を走っていたが、実際はワニのように尻尾を使って水中を泳いでいた……水生だった可能性を示すものだ。

・最強なイメージ

今最も一般に浸透しているスピノサウルスのイメージと言えば、間違いなく映画「ジュラシック・パークⅢ」によるものだろう。それまでシリーズ内で最強格だったティラノサウルスの首をあっさりへし折ってKO勝ち。視聴者に存在感を示しまくった恐竜だ。

その外見は、鼻が長くて背びれのあるティラノサウルスといった感じのデザインだった。もし映画の続編を作るなら、制作陣はスピノサウルスの描写を従来のものから大きく変更することを余儀なくされるだろう。


・これまでのスピノサウルス

最新の発見についてより詳しく触れる前に、これまでのスピノサウルスの復元図の移り変わりについて簡単に説明していくぞ。まず、当初考えられていたイメージとしては、まさにジュラシックパークⅢのような2足歩行のものである。

しかし2014年ごろに、後肢がこれまで考えられていたよりも短かったことが判明。以後、スピノサウルスは4足歩行だったとする見方が強まっていた。ただし、2足で歩ける可能性も議論されており、どちらなのかは分かっていない。

それでも、博物館などでの展示スタイルは一変。かつては長い脚を持つ2足歩行の恐竜として化石が展示されていたが、以降はどこも後肢が短い4本足のような感じで展示されるようになったのだ。

ちなみに、今流行りの「どうぶつの森」にもスピノサウルスの化石が出てくるが、ちゃんと後肢は短くなっている。プレイしていて化石を入手済みの人は、ぜひ見てみて欲しい。


・これからのスピノサウルス

そして4月29日に発表された論文によると、ついにこれまでわかっていなかった尻尾の形状が判明したそう。なんでも、モロッコにて状態のいい尻尾の化石が発見されたのだとか。

意外に思われるかもしれないが、実はスピノサウルスの尻尾の化石はこれまで見つかっていなかったのだ。博物館に展示されている、シュッとした先細りの尻尾は、あくまで想像による復元。

今回ついに見つかった尻尾は、まるで現代のワニのような縦に平べったい形状で、ヒレのように機能し得るもの。発見したデトロイト・マーシー大学のニザール・イブラハム氏らは、尾の機能を調べるため化石をもとにプラスチック製の模型を作製。

水中にてテストしたところ、やはりワニやイモリの尻尾のように、泳ぐことに非常に適していることが判明したそう。スピノサウルスの生態については、今までも細長い鼻や、頭の上の鼻孔、扁平な足の形状、ワニのような円錐形の歯から、水辺で魚をとって暮らしていたというのが通説。



水辺で暮らしていることから水生説も唱えられていたが、泳ぐのに適した体の構造が見つかっていなかったこともあり、決定打を欠いていたのだ。しかし今回の尻尾の化石の発見によって、スピノサウルスがかなり泳ぎ上手だった可能性が濃厚に。

きっとこれから出る図鑑では、平べったいヒレのような尻尾を持って、水中を泳ぎ回る姿などが描かれるだろう。Natureの論文では、化石の様子や、それをもとにした最新の復元図を見ることができる。

なお、ネットでは恐竜好きの人々がザワついており、「ジュラシック・パークⅢ」でのイメージとかなりかけ離れたものとなった最新の復元図を前に「弱体化した」や「弱そう」という意見がちらほら出ている。

筆者も新発見のたびにどんどん弱くなるスピノサウルスにはやや哀愁を感じている。でも、デカい背びれのある10メートル越えのワニだと思ったら、まだまだ強くない? まあT-Rexの首を折るのは無理そうだけど。

参照元:Nature、Twitter @NatGeo
執筆:江川資具
Photo:Wikimedia Commons

▼ナショナルジオグラフィックが3Dで泳がせてる