3カ月前の私は「海外旅行がダメになって最悪」と嘆いていた。2カ月前は「実家に帰省できず悲しい」と思い、1カ月前は「どこも休業だから毎日マックで仕事するしかないよ〜辛い」と考えていたはずだ。それが先週は「マックへ行けた頃に戻りたい」と泣いたものである。
外出自粛や施設の休業によって非日常ともいうべき日々が続く中、「普通の生活がなつかしい」と実感した人は多いだろう。しかし今の生活だって十分「普通」で「ありがたい」のだということを、5日間の隔離生活が教えてくれた。
・眠れぬ3日目
アパホテルが実施している『テレワーク応援5日連続プラン』(4泊5日で1万5000円)を利用し、私が「隔離体験」をスタートさせたのは先週火曜日のこと。のべ108時間に及ぶ孤独な戦いが、ようやく最終日を迎えるのである。長かった……!
2日目までの経過については先日の記事を参照していただければ幸いだ。超格安プランだからといって俺たちのアパは決して客を差別などしない。替えのタオル、アメニティ、ナイトウェアは毎日キッチリと部屋へ届けられたぞ。
初日・2日目と暴飲暴食をした反動か、3日目は食欲ゼロである。バリバリと仕事をこなし気づけば夕暮れ……寂しくなった私は普段やらない “テレビ電話” を友人にかけてみることにした。しかし「バリバリ仕事せねば」という重圧感から集中できず、ものの15分で会話は終了。
そんな私にこの後さらなる追い討ちがかかる。 “コロナ騒動で娘の仕事が減ったのでは” と案じた鳥取の母より、「お金に困ってたら言ってね」とのLINEが届いたのだ。これにより私の精神と涙腺は崩壊寸前……ついに仕事どころではなくなってしまった。
30歳を超えて親から仕送りを提案されるほど切ないことはない。みなさんが隔離を体験する際は、このような “心への突然ダメージ” を食らわぬよう事前に対策を講じておくことが大切である。この日は明け方まで眠れなかったよ……。
・力尽きた4日目
隔離という非日常において最も恐ろしかったのが「強烈な孤独と疎外感」だ。ひとりぼっちは私のスタンダードであるはずだが、それに加えて「みんな私のこと忘れてるんでしょっ」というヒガミ心も止まらなくなってきた。
こうなってしまった原因はおそらく、私が「隔離ついでに作家気分でバリバリ仕事しよう」と企んだことにある。往年の文豪たちは長期カンヅメのすえ名作を書き上げたと聞くが、彼らとて別に “宿を一歩も出ず” それをやってのけたわけではないはずだ。気晴らしに散歩のひとつもしただろう。
経験者としてこれから隔離を体験する人には、「隔離の時間を利用して何かを成し遂げよう」などとは考えないことをオススメしたい。隔離状態は思いのほかストレスにさらされている。非日常を過ごしていることを認識し、くれぐれも無理のないようにしたいものだ。
ストイックになりすぎたことを反省した私は4日目、昼過ぎにアパ最上階を目指した。 “出前の受け取り以外で部屋の外へ出ない” というルールを決めていたのだが、アパホテルには衛生上の観点から「4連泊ごとに必ずシーツ等の交換を行う」という規則が定められていたらしい。
よって30分ほど部屋を出る必要に迫られた私は、「仕方ないよね」と自分に言い聞かせつつスキップで大浴場へ向かったのである。並の銭湯より広い浴場には露天風呂まで完備。大都市・歌舞伎町の地上28階でひとっ風呂あびる贅沢は控えめに言っても最高だ。
「これ以上ヘタをすれば病む」と悟った私はこの日、仕事を完全に放棄し映画『男はつらいよ』イッキ観を敢行することに決めた。日も暮れて残すは丸24時間……守りの姿勢で走り抜けるぞ!
・5泊じゃなくてよかった
結論から言うと今回のアパ隔離は素晴らしい体験だった……と同時に、できれば2度とやりたくないと強く願う。
ようやく迎えた最終日の正午、私は熊のようにただ部屋をグルグルと歩き回っていた。もはや映画を観る気力すらない。「ずいぶん歩いたな」と思い時計を見たところ、先ほどより2分しか経過していなかった時は愕然としたものである。
私はつね日頃より「ゲームとNetflixだけで1週間くらい過ごしたい」と願っていたクチだ。しかし「だけ」と言いつつ実際には、「たまには休憩してコンビニへ行く」「鉢植えに水をやる」「夕飯は昨日の残り物にする」といった何げない行為もそこに含まれていたことに気づく。
1分が1時間にも感じられるほど恋しい外の世界へ戻り、私はなにも遊びまわりたいわけではない。自宅でそういった当たり前のことをしたくてたまらないのだよ……。
かくして時刻は午後8時。108時間をどうにか完走した私は、世話になった部屋をあとにした。重ね重ねお断りしておくが、今回私は勝手に隔離体験を行っただけである。当然アパホテルでは宿泊客の出入りを制限していないし、適度に外出していればこの5日間は普通に素晴らしいものだったに違いないのだ。
次は普通に来ま〜す!
・シャバの空気
5日ぶりに吸う外の空気が非常に清々しい。人が激減した歌舞伎町の新鮮さも相まって、なんだか浦島太郎になった気分である。
とはいえ少ないながら営業している店はあるようだ。警察官や『補導員』という腕章をした人も多く歩き回っている。「客引き行為はやめましょう」と拡声器で訴えるパトカーの横で「お姉さん、寄っていきませんか」と声をかけてくる飲食店の人の姿も……みんな必死なのだ。
悩みがある人に対して「貧困国の子供はもっと苦しいんだぞ」等といった言葉をかけることは、個人的には筋違いだと思う。しかし私は今あえて提案したい……「自粛生活が辛い」と感じている人は、いちど隔離を体験してみてはどうだろうか?
これは決して「辛い今の生活を我慢するべき」と言っているのではない。「(外出自粛の)今の生活も十分素晴らしい」ということに気付いてほしいのだ。
現に帰宅後の私は皿を洗い、ベランダで深呼吸し、シミのついたフトンで眠る生活にかつてない多幸感を抱いている。さらに不思議と他人にも優しくできるようになった。そしてこの先辛いことがあった時は自らにこう問いかけるに違いない……「あの隔離より辛いか?」と。
なお、くれぐれも誤解のなきよう重ねてお伝えしておくが、私が辛かったと言っているのはあくまでも「ホテルで隔離」を体験した件についてだ。普通の連泊をするならアパホテルは最高の環境に違いない。そこんとこヨロシク!
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
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▼ありがとうアパ!
▼「無駄がない、全てがある。」
▼解放感がスゴイけどうっかり下を覗き込まないようにしたい
▼ホテルのようなタワマンのような