突然だが、みなさんの使用しているイヤホンの値段はどれくらいだろう。安いものであれば数百円、高ければ数万円でよく見かけるアップルの「AirPods」なら約3万円といったところか。ちなみに私は0円。タダだ。
というのも、特にこれといってこだわりがないため、上司からもらったものを使っているからである。しかし最近、バッテリー切れのタイミングが早くなったので新しいイヤホンを買うことを決意。1万円以内で抑えたいなぁと思ってお店を訪れたところ……
・中野ブロードウェイで発見
思わず二度見する事態になってしまったのが事の始まりだった。なにせ、お値段350000円! 35万円の商品が売っていたのだ!!
35万円のイヤホンを見かけたのは、時計や漫画、アニメなどサブカルの聖地として知られている東京・中野にある「中野ブロードウェイ」。その3Fにあるオーディオ機器などを取り扱うフジヤエービックを訪れたときだった。
音楽のトーシロ(素人)な上にビンボーな私からしたら、35万円という金額はどうしてもゼロが1個多いとしか思えない。そりゃイヤホンにもピンキリあるのは分かる。上には上があるのもよく分かるが、35万円って! ほとんどの人は35万……いや、10万だって出せないはず……!!
・ヘッドホンのプロから学ぶ音の違い
でもでも、それでも売られているのは需要があればその金額に値するということだろう。一体全体、何がどうなってそんなにも高いのか。また、素人でもその違いが分かるものなのか。理由が知りたくなったため、取材交渉したところ快くOKしていただいた。
話を聞かせてくれたのはヘッドホン主任の根本さん。「イヤホンって場所をとらないから際限なく集めちゃうんですよ……笑」とプライベートで100本以上のイヤホンとヘッドホンを所持している音のプロだ。先生、よろしくお願いします!
──それにしても、イヤホン1つが35万円することに驚きました。まずはどういったところで価格差が出るのか教えてください。
根本さん「いろいろと値段が高いイヤホンはありますけど、中でも注目されているのがイヤモニターです。いわゆるアーティストがステージで使うようなものですね。ご本人の耳型をとってそれに合わせて作成するので、中に使っている部品等が高価というのがあります」
──つまりオーダーメイドということで?
根本さん「そうですそうです。洋服などと同じでオーダーメイドだとお値段が上がってしまいます。まず耳型に合わせて作るというのが1番の理由ですね。それ以外にもイヤホンの世界ですとユニバーサルモデル……いわゆる一般的なモデルでも中に使っているパーツ等の兼ね合いでお値段は高くなります。
ちなみに一般的な商品だとイヤピースという先端のゴムが自分の耳に合わなかったり、使っているうちにポロッと落ちちゃう──これは誰でも一度は経験あると思うんですが、耳型に合わせるとそういったことがなくなりますし、装着感が抜群に上がります。
また、装着感が上がると密閉性も高くなります。例えば電車でも周りの音がうるさくてボリュームを上げたくなりますけど、それがなくなりますね。小さなボリュームでも周りに気兼ねすることなく、音楽を楽しめるのも大きいです。あとは自分専用で満足度が高いのも1つの理由です」
──ということは、購入するのはアーティストの方が多いですか?
根本さん「専門的な話になってしまいますが、アーティストさんだと契約で直接やりとりする方が多いですかね。うちの店ですと、音楽が好きな方、ガジェットが好きな方が多いですね」
──ほえぇ、個人で……。となると、海外の方も買われていきますか?
根本さん「今はコロナウイルスの影響もあって少なくなりましたが……通常だと平日の午前中なんかはほとんど海外の方ですね」
──コロナの影響が各方面に……。ちなみにどこの国が多いんでしょう。中国系の方ですか?
根本さん「中国系の方もいるにはいるんですけど、ヨーロッパの方が多いですね。うちの店はマニアックな商品を置いていることもあって、事前に下調べしていて試聴させて欲しい商品を書いたメモを持ってくる方もいますよ」
──えぇっ、スゴい熱意! ちなみに素人でも音の違いは分かるものですか?
根本さん「分かります、分かります。試聴してみますか?」
──ぜひ! お願いします!!
・35万円のイヤホンを試聴
ひょんなことから私の耳に35万円のイヤホンが装着されることになったワケだが、詳細について軽く触れておくとアメリカのメーカーの「LAYLA」というイヤホンでJH Audio──ジェリー・ハービーさんが作ったものらしい。んで、聴くのに適しているのはロックとのこと。
……と、ここで音楽に詳しい方であれば「ギターの神様」であるエリック・クラプトンを思い浮かべるだろうが、まさしくビンゴ。ジェリー・ハービーさんがロック好きなことで、そこから名前をとって名付けられたそうだ。
大きな特徴としては、補聴器などで使われるタイプのスピーカーがついていることだ。しかも、片側1つだけで12個!!
んでもって、付属している小さなネジで低域を調整できるのもポイント。それでは試聴をお願いいたします……!
そろり……そろり……
あっ……
えっ……
はぁぁっ……
スゴいっ……!
あまりにスゴくて語彙力を失ってしまったが、ホントになんと表現したらいいのか分からないくらいスゴい。まるでコンサートホールにいる気分とでも言おうか……。これが35万円のイヤホンで聴く音か……!!
根本さん「自分が聴いても音の違いなんて分からないよという方も多いんですが、そうじゃないですよ。実際に聴くと違いが分かりますよね。特に好きなアーティストさんの音楽を聴くと、さらに違いが分かると思います」
──それにしてもスゴい……。音だけじゃなく、声も違うように感じました。
根本さん「やはりスピーカーが12個も入っていることが関係しますね。それぞれが音の帯域を流すので、音の洪水が迫ってくるような感覚と言いますか」
──こ、これが35万円のイヤホンですか……。耳が気持ちいいですし、音を聴いた瞬間に違いが分かりますね。お金があったら欲しい……!
根本さん「毎日音楽を聴くとしたら、わりといい買い物かもしれませんよ。家や電車など、数時間聴く人なんかは特に。まぁお安いとは言えないですけど(笑)」
・先生のオススメ
今回、せっかくなので先生のオススメイヤホンでも試聴させてもらうことに。ここ2〜3年、中国のイヤホンがスゴくクオリティが上がっていて、下手すると日本のメーカーよりも不良率が低かったりして見た目的にも遜色ない……とのことだったが、ここはメイドインジャパンで!
メーカーは群馬県高崎市にある「TAGO STUDIO」。これまた地名を聞いた時点でピンときた人もいるかもだが、まさしくビンゴ。そう、群馬といえばBOOWYやBUCK−TICKの生まれた土地なのだ。んで「TAGO STUDIO」は録音のスタジオで、BUCK−TICKも使用しているんだそうな。
そしてスタジオを運営しているオーナーのタゴさんが作ったイヤホンだから「TAGO STUDIO」とのこと。お値段は4万2680円とさっきの「LAYLA」に比べると安く感じてしまうが、我に返ると一般的な価格よりも上だけにどんな音がするのだろう。なお、型番はT3−02。
イヤホンの中に銀色のステンレス素材があり、プラスチックで覆っていることが特徴。これはどういうことかというと、レコーディングスタジオと同じで外に音が漏れないようにしているらしい。防音システムをイヤホンで再現しているとのことだが、実際に聴いてみると……
──ひゃっ! こっちもスゴいですね……壮大さはさっきの「LAYLA」に劣りますが、周りの音が完全にシャットアウトされてキレイに聴こえます。
根本さん「LAYLAがロック向きでワッーと音の洪水みたいなのに対し、こちらは空間が広がるので臨場感がありますよね」
──確かに! それにしても、周りの音がまったく聞こえないですね。自分の世界にドップリ入り込めます。さっきとはまた違いますし、いつも使っているイヤホンとは格が違う……。
根本さん「良し悪しというか好みですよね。こういうイヤホンを使って怖いのは、まったく周りの音が聞こえなくて電車で寝過ごすこととかですかね(笑)」
──ありそうです(笑)でも、自分の世界に入るにはうってつけですね。
根本さん「アメリカの方ってあまりボーカルを重視しないんですよね。どちらかというとノリというかリズム。日本だとボーカルを重視で、それぞれイヤホンにも特徴が出ている感じがします」
・リーズナブルだとどうなる?
ここまで世界と日本を代表するイヤホンで試聴してきたが、リーズナブルなものと比べるとどうだろう。最後に用意していただいたのは韓国のメーカー・AZLAの「AZEL」。お値段は5980円でグッと身近になった! 同じ曲を試聴してみると……
──あっ、やっぱり違いますね(笑)
根本さん「比べてしまうとアレですが(笑)」
──ただ、全然聴けないかというとそうではないです。
根本さん「そうなんですよ。逆に音にまとまりができて、聴き疲れしないんです。先ほどのものは音がワッーとくるんで長時間聴き続けていると疲れることもあるんですが、こちらは大丈夫です」
──イヤホンにもいろいろあるんですね〜
根本さん「品質的にも手を抜いていないですし、安っぽくもないのがいいですね。あと、もちろん音楽を聴く用にも使えるんですが、モデルとしてはスマホでゲームや動画に使うのに適していますよ」
──聴き比べると価格差があることも納得できました。イヤホンの世界って面白い! 本日は貴重な体験をありがとうございました。ぜ、贅沢かもしれませんが、1万円以内でいいイヤホンを手に入れるのは難しいですかね……。できればワイヤレスで……?
根本さん「全然ありますよ(^ ^)」
──根本さんの推しイヤホンをお願いします!
根本さん「ノイズキャンセルとか複雑な機能はついていませんが、agのものですかね。お値段は5380円で在庫1つと売れています。ちなみにagはfinalという日本のブランドのサブブランドなんですが、10万円オーバーの商品を作るメーカーが出しているので音に妥協していないのも特徴です。見た目的にもかわいいですよ」
──買います!(即決)
自分は音に詳しくないしどうせ分からない──私のような人は少なくないだろうが、実際に聴くとイヤホンにはいろんなタイプがあって、どれひとつとして同じではなかった。自分に合うタイプのものを探せば、イヤホンの楽しみ方や愛着も変わることだろう。
それにしても、35万円……高額なイヤホンの実力はスゴかった。宝くじが当たったら買いたいなぁ……。
参考リンク:フジヤエービック
Report:原田たかし
Photo:RocketNews24.
▼フジヤエービックでは、先日およそ48万円のヘッドホンが売れたそうな
▼新品、中古ともに取り扱っているぞ
▼店内では試聴もできる
▼購入したイヤホンはさっそく使ってる