男は父親の背中を見て育つ。そして、父親はかっこ良くあって欲しいものだ。では、どんな父親がかっこ良いのかと言うと、これは議論の余地があるだろう。
大人になった今、正直言うと私(中澤)は「家庭を持っている父親は全てかっこいい」と思っている。親になれるだけで凄いことだ。ただ、そんな中でも、マイルス・デイヴィスの親父のかっこ良さは尋常じゃない。多分、世界一かっこいいオヤジなんじゃないだろうか。
・マイルス・デイヴィスとは
マイルス・デイヴィスの名は、きっと多くの人が知っていることだろう。ジャズトランぺットの歴史はもちろん、音楽史に革命をもたらした偉大なミュージシャンだ。
生まれも育ちもイリノイ州であるマイルス・デイヴィスは、当時ビバップでブイブイいわせてたチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーのいるニューヨークに行くための口実として「ジュリアード音楽院」に入学。しかし、ジュリアード音楽院の授業が退屈すぎて1年で辞めてしまう。
・大学の知り合いに1人くらいいるヤツ
これを現代日本的に言うなら、上京したくて東京の大学に入ったけど1年で辞めた人みたいなもんだ。おまけに、マイルスはこの時点で特に売れているわけでもない。
当時のマイルス的にも「ヤバない?」という気持ちがあったのか、『マイルス・デイビス自叙伝』によると、「辞めた後でオヤジに言うつもり」だったと書かれている。
・どう親に言おうか友達に相談するマイルス
だが、友達のフレディ・ウェブスターに相談したところ「辞める前に電話で言え」と言われてしまう。「こんなこと電話で言えない」って感じのマイルス。結局、実家に帰って直接言うことを決心するわけだが……なぜだろう? 伝説のミュージシャンとは思えないほど気持ちがよく分かるのは。
連絡もせずに突然家に帰って来たマイルスに驚く父親。そんな父親にマイルスは「バード(チャーリー・パーカー)とディズ(ディジー・ガレスピー)と一緒にやるからジュリアード辞める」と報告する。現代日本的に解釈するなら、ライブハウスが好きな息子が「バンドでプロ目指すから音大やめるわ」と言ってきたみたいなもんだ。
──さて、あなたは自分の子供に同じことを言われたらなんて言うだろうか?
・その時マイルスのオヤジはこう言った
『マイルス・デイビス自叙伝』によると、マイルスの父親は、まず、「わかった」と了承した後、以下のように続けたという。
「マイルス、窓の外の鳥の鳴き声が聞こえるか? 自分の鳴き声がないモッキンバードさ。他の鳥の鳴き声はなんでも真似るが、自分の鳴き声がないんだ。あんなふうになるなよ。自分だけのサウンドを身につけることが一番大事なんだぞ。
自分自身に正直にな。やるべきことはわかってるんだろうし、お前の決心を信じるよ。金は独り立ちするまで送ってやる、心配するな」
──これ言える? 全国のお父さん、これ咄嗟に出てきます? 私ならまず言えないだろう。ところで、この記事を読んでいる人の中にはこう思った人がいるかもしれない。「親父何者やねん!」と。お答えしましょう。マイルスの親父は……
歯医者です。
──アメリカの歯医者スゲェェェエエエ! 男は父親の背中を見て育つ。伝説のミュージシャンは父親もまたレジェンド級のカッコ良さだった。まさに伝説のオヤジ。
シンプルに読み物としても面白い『マイルス・デイビス自叙伝』。マイルスを知らないお父さんにも読んで欲しい1冊です。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.