
郷里を離れて、違う街に移り住む。若者たちは今後、そんな経験をすることもあると思うが、ぜひとも伝えておきたいことがある。思い出の品はどんな理由があっても捨ててはならない。思い出はあとから作ることができないからだ。
先日、私(佐藤)は島根に帰省し、実家に埋もれていた意外なモノを発掘した。それは25年前に組んでいたバンドのライブ映像。ただ、懐かさに喜ぶと同時に愕然としてしまった。なぜなら、VHSのビデオテープだったから。見たい! 見たいけど、ビデオデッキがないッ! どうしよう~!?
・25年前の野外ライブ映像
私は上京時にカバン2個しか持っていなかった。実家に思い出の品々を預けてきたことで、長年その行方がわからず。「思い出に浸るガラじゃない」──そう自分に言い聞かせてなかったことにしていた。しかしこの正月、若かりし日に鬱屈した想いをしたためたノートが母親の手によって発見された。
ほとんどが自分の申し開きみたいな内容で、暗い青春を思い出させる「鬱ノート」だったが、それらに紛れて1本のビデオテープがあった。それが、当時組んでいたバンド「幸福のねぎ(バンド名)」のライブ映像だ。
「天神ライブ 95,7,24」
松江市で毎年行われている「天神祭」で、野外ライブを行った時のもの。1995年7月24日。いまから25年も前、四半世紀も過去の映像に、自分はどう映っているのか? 若い以外に何か見て取れるものはあるのか?
いま見たい! すぐ見たい!! でもデッキがない。パソコンに取り込めないと、SNSにもアップできない。どうしよう……。調べたところ、すぐに良い手が見つかった。専門業者がゴロゴロいるじゃないか。しかも、当編集部のすぐ近くに、持ち込みで最短当日受け渡ししてくれる「トランスミックス」という会社があると判明。即、問い合わせッ!
尋ねたところ、この日はすぐに対応できるとのことだったので、昼に持ち込んだら夕方にはダビング完了。晴れてDVD化に成功した。やったぜ、これで見られるッ!
・21歳の佐藤よ
DVDプレイヤーに突っ込んで再生してみると、懐かしき景色がそこに! 当時組んでいたバンドは、私以外は全員10代だった。年長者なのに私が1番ヘタで、メンバーの足を引っ張っていた覚えがある。
若い! 若さがほとばしっている! 中古で買ったギブソンのサンダーバードを一丁前に指弾きしたりして、カッコつけやがって。ストラップは低い方がカッコイイ、そんな時代だったせいで、無理やりストラップの長さを全開にしていたっけ。
ホンネをいえば、もっと上にして弾きたかったけど、弾きやすさよりもカッコよさを優先してしまっていた。おかげで、速い曲は全然弾けなかったっけなあ~。
そんな当時21歳の私に伝えたいことがある。人間椅子にドハマりしてた当時の私が聞いたら、驚くだろうな~。
「おい、21歳の佐藤よ。お前は18年後に人間椅子のギターボーカル和嶋慎治さんにインタビューするぞ。それ以降、アルバムがリリースされる度に、メンバーにインタビューしたり、ライブの取材に行ったりするぞ。信じられねえだろ、21歳の佐藤よ」
そんな訳で、新成人の皆さん。ひいては20歳くらいの若い人たちにお伝えしたい。むやみに思い出を捨ててはいけない。今は果たせないことであっても、きっといつか実を結ぶことがある。それを易々と『夢』という言葉で片づけたくはないが、振り返ったら夢が叶っていたということもあるだろう。
そんな時に、思い出の品は自分がどこから始まったのかを正確に教えてくれる。うまくいかなかったら、そこに帰ってまたやり直せばいい。だから、たとえ未来を描けなかったとしても、可能な限り思い出は大切にしておいて欲しい。
・まだ続きがあった……
この物語はここで終わらない。実はこの映像にはまだ続きがあった。ライブ映像は都合30分で終了し、そのあとにいくつかの映像がいくつか収められていた。
……それは……
当時のバンド仲間と撮ったコマ撮り動画だ。パソコンもそこまで普及していない時代、少なくとも仲間うちでパソコンを持っている者はおらず、いまのような高性能のスマホもないなかで、ハンディカムだけでコマ撮り映像を何本も何本も撮影していたのだ。
なかには52枚のトランプを床に敷き詰めて、1枚1枚ひっくり返すというものもあった。
なんじゃコリャー!! なんて時間の無駄。膨大な時間と手間をかけても、どこにもたどり着くことのできない低クオリティ、何をやっていたんだ! う~ん、きっとヒマだったんだな~。やることないから、そんなことに夢中になれたんだろうなあ~……。
非常に興味深いのは、その時に友人宅でコマ撮りに一緒に夢中になっていたのは、デビュー20周年のロックバンド「wyse(ワイズ)」のギタリストのMORIさんだ。私は彼が学生の時からの付き合いで、いまでも時々連絡を取り合っている。彼にこのコマ撮り映像を発見したことを伝えると、「超見たい!」との返事をもらった。
一緒にくだらないことをやっていた友達。あの頃、互いの歩む道の先は当然見通せなかったが、今になって振り返ることができるのも思い出の品のおかげ。だから若人よ、思い出は捨てるな。今は不要と感じても、いつか何かを呼び起こすきっかけになる。
参考リンク:トランスミックス
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
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佐藤英典








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