生ハムの本場・スペインでは、そのへんのスーパーや雑貨屋に生ハムが “足ごと” 山積みされている。値段はなんと20ユーロ台(約2400円〜)から! 港区あたりのバーなら一皿でその金額なんてこともザラだ!

「切りたての生ハムをお腹いっぱい食べたい」と、誰もが1度は夢に見たことがあるハズ。あまりの安さとスペインの陽気に背中を押され、私は今回思い切って購入を決行! したものの……ぜんっぜん切れねぇ……!

・準備が大変

今回チョイスした生ハムは37ユーロ(約4486円)だが、お店の人にきいたところ生ハムを切るには専用の “固定台” も必須であるらしい。

生ハムコーナーに売られていた固定台が6.95ユーロ(約843円)だ。想定外のプチ出費である。

おまけに自分で組み立てる仕組みだと……! ドライバーを持っていない人は併せて購入が必要だ。

友人と3人がかりで組み立てに1時間を費やし、なんとか固定台は完成した。さらに私は普通の包丁で代用可能と思っていたのだが、 “ハム用ナイフ” も絶対に必要とのこと。旅先で1回だけハムを買おうとしている人は、事前に色々準備しておくことをオススメする。

・助っ人外国人あらわる

生ハム初心者の私に今回、切り方をレクチャーしてくれるのは、スペイン生まれスペイン育ちのパブロ君だ。スペインの家庭で “生ハム1本買い” は普通のことだというが、「品質にはこだわる」そうな。

パブロ君が教える生ハムの切り方はこうだ。まず「ヒザのちょい上」あたりにナイフを横向きに、迷わずブスリと突き刺す!

固定台の安定が悪い場合はサポート係が手で支えましょう!

そこからグググ! と内側へ切り込んでゆく。生ハムの表面はかなり硬く、それなりのパワーが必要だ。

ヒザ上に並行の切れ目を5センチほど入れたら、太もも方向へ90度折り返す。

付け根へ向かってスビズバとナイフを進めましょうね。

キリのいいところで今度は下向きに切り返したら……

真っ赤な肉が見えてきたっ!

ここから切り口を広げる要領で脂身を取り除いてゆく。

ハムをスライスするにはテクニックが必要とされる。ナイフの性能によってもかなり違ってくるようなので、ひとまずはガタガタでもなるべく薄くすることを心がけよう。

生まれて初めて自らカットした生ハムの、マズいワケがあろうはずもない。やや分厚い肉は歯ごたえがあり、噛みしめるたびワイルドな旨みが染み出す。変色した外側部分も食べられるとのことで、おそるおそる口に入れると意外にもこれがウマイ!

そしてココがポイント! 最初に大きくカットした脂身はとっておき、食べ終わった後 “ハムのフタ” として利用するのだそうだ。なんとも無駄がない。脂身はもちろん食べてもおいしいよ!


・当然飽きる……が!

購入初日は友人を招き、盛大な生ハムパーティーを開催した。しかし思ったほどの減りをみせない原木……。あっ、『原木』とはスライス前の骨付き生ハムの呼び名だ。覚えておけばツウぶれる場面があるかもしれない。

そもそも生ハムというのはあまり大量に食べられるものではない。仮に食べられたとしても塩分が高いので、ヘタすれば健康を害する可能性がある。

そして先ほども述べたように、生ハムを切るには思ったよりパワーと集中力が必要。まだ全体の5分の1もスライスしていないというのに、私の腕は腱鞘炎寸前状態だ。

……よって、ここは思い切って生ハムを分厚くカットしてしまうことにした。一般家庭では通常、数ヶ月かけて原木を消費するらしいので、このやり方はいわば暴挙。しかし短い滞在期間でハムを消費し切るため、やむをえぬ選択であったことをご理解いただきたい。

肉屋になった気分でザクザクと切り取った生ハムは、刺身でいうところの “サク” 状態だ。なんとなく見た目もマグロっぽい気がしてきた。さあ、これをアレンジし倒すぞ!

・可能性は無限

まずはまな板で普通にハムとしてスライス。若干盛り上がりには欠けるが、原木から切り取るより簡単で疲れない。

それすら面倒になってきたら、お次はサイコロ状にカットだ。『生ハムのぶつ切り』を食べたことのある人はそう多くないのではないだろうか? 硬いと見せかけて意外にムシャムシャいける。

お次はあらびきコショウをふって、強火で熱し『生ハムステーキ』としゃれこんでみた。

ハムは加熱前より若干硬くなったが臭みが消えている。これは……普通のハムだ! 生肉をいったん生ハムにしてから普通のハムにするという、ほとんど金持ちの道楽のような逸品。

このあたりから正直「もう生ハムはたくさん」という気持ちになってくる。そこでさらにひと手間加え、『生ハムオムレツ』を焼いてみた。

塩分が強いので味付け不要! チャーハンやカレーに入れてみるのもいいかもしれない。


・スペイン人直伝のスープ

生ハム原木の全てをムダにしないのがスパニッシュソウルである。残った骨は煮込んでスープにするのだそうだ。

まずはハムを切り取り残った骨を、鍋に入るサイズにカットする。どういった方法でカットするかは各自の判断に任せたい。ちなみに私はテコの原理を利用して「折った」ぞ!

水を入れた鍋で骨を煮る。このとき「グツグツ」ではなく「コトコト」のテンションをキープするのがコツだ。

根菜やハーブなども投入し、アクをとりつつ煮込むこと半日……

一晩寝かせたスープはコンソメ色に美しく輝いていた。

骨にこびりついて離れなかった肉は今やホロホロ。肉はビーフシチューのようでメチャおいしそう! ……だが、実際には味がなくて食えたものじゃない。味の濃い料理に入れるなどして使用するのが正しいようだ。

完成したスープのお味は……


完全に生ハム


この味を言葉にするなら「生ハムを液体にした感じ」。この “飲む生ハム” ともいうべき飲料は、そのままだと若干クドく感じる人もいるかもしれない。野菜などと煮たり、スペインではとんこつスープと混ぜたりもするようだ。


・世紀の大・発・見!!!!

ここで食べかけの生ハムステーキに再び手をつけようとした私は、衝撃の光景を目の当たりにすることになる。


カッチカチのコッチコチだ……!


焼いてからほんの30分ほど放置した生ハムステーキは、フォークも刺さらぬほど硬度を増していた。なんてこった。まるで科学の実験である。ちょっと行儀が悪いけど、これは直接かじるしか……あれ? なんかコレ、ビーフジャーキーみたいだな? ってか……


コレ、ビーフジャーキーだな?


私は残った生ハムの塊を、迷うことなくフライパンでジュージューと焼いた。それを冷蔵庫で丸一日放置し、先ほどよりさらにカッチコッチの状態にする。手で割いてみたものはやはり……


ビーフジャーキーだわ。


・絶対に試してみてほしい

今回私が偶然作成してしまった『ポークジャーキー』は、ビーフより肉くささがなくて正直メチャクチャにウマい。「メチャクチャは言いすぎだろう」と思った読者は、ハッキリ言って何も分かっていないのだ。

私たちが普段なにげなく食べているもの……例えばパンやバターは、もともと偶然から誕生したレシピなのだという。このポークジャーキーのレシピも、おそらく100年後にはパンレベルの知名度まで上りつめているとみて間違いないと、私は確信している。


……みんなもだんだん気になってきただろう? まず生ハム原木を購入するところから始めてみてくれ!

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.