
インターネットを日常的に利用する人なら誰でも、1度は彼のことを目にしたことがあるはずである。その彼はフリー素材モデルを自称し、さまざまなサイトで彼の写真が利用されている。彼の名前を知っているだろうか? ひょっとしたら、知らないという人がほとんどかもしれない。彼の名は大川竜弥。フリー素材サイトの「ぱくたそ」のモデルとして活躍し、最近では企業広告のモデルやウェブCMの俳優としても活躍している。
フリー素材モデルは基本的に無給だ。どれだけ写真を使用されても、フリー素材である以上、お金を得ることはない。それでも大川さんは、フリー素材にこだわり続けている。お金にならないのになぜ? 彼にインタビューを敢行し、そのなぜ? の答えを彼に求めた。
・フリー素材モデルを始めた理由
佐藤 「大川さん、最初にお伺いしたいんですけど、フリー素材モデルとしての収入はゼロですよね?」
大川 「そうですよ。依頼を受けてモデルのお仕事を頂く場合を除けばゼロです」
佐藤 「現在約2300枚の写真がぱくたそに公開されていると思いますが、そのすべてがフリーで、この先さらに撮影を重ねて写真の枚数が増えても、ずっとゼロ?」
大川 「そうです。フリー素材ですから」
佐藤 「お金にならないのに、どうしてフリー素材モデルになろうと思ったんですか?」
大川 「最初の写真がぱくたそに公開されたのが、2012年3月ですね。その少し前に、個人でネットに関わる仕事がしたいと思ってたんですよ。でも、プログラマーとかデザイナーとかその方面に関する知識がまったくなかったんですよね。その時にフリー素材のモデルなら出来るんじゃないかな? と思ったんです。というのも、当時はタレントのたまごみたいな人たちが、片手間でモデルをやっていて、専業のフリー素材モデルっていなかったんですよね。これは専業になれば、自分の強みになるって判断したんですよね」
佐藤 「でもフリーだから、お金にならないわけじゃないですか」
大川 「そうなんですけどね、自信があったんです。やって行ける自信が」
佐藤 「実際どうなんですか? 現在は」
大川 「2012年に始めて7年経ち、やっと食べて行けるようになりましたよ。フリー素材モデルをきっかけに、広告モデルとして写真や動画の撮影のお仕事を頂いています」
佐藤 「動画?」
大川 「そうです。ウェブCMの動画で演技したりしていますね」
・フリー素材を理解すること
佐藤 「これまで2300を超える数の写真を公開している訳じゃないですか。そのどれを見ても、ポーズや表情が違っているんですけど、写真を撮られる上で、何か心がけていることはありますか?」
大川 「意識していることとしては、フリー素材を理解することを大事にしていますね」
佐藤 「フリー素材を理解する、ですか」
大川 「ええ。これまでただやみくもに撮影に臨んできた訳ではないんですよね。フリー素材を使う側のことを考えてなければ、どんな写真が必要かわからないじゃないですか。だから使えるものを考えないと」
佐藤 「たしかに。フリー素材とはいえ、使ってもらえなければ、素材として生きないですもんね」
大川 「そうなんですよ。そう考えて、僕なりに使う側の気持ちに立ちたいと思って、ウェブライターをやってみたりもしました」
佐藤 「え? そんな動機でライターになる人いませんよ!」
大川 「そうかもしれないですね(笑)、まあ例えるなら、料理人が食べる側の気持ちを知るために、いろいろなお店を食べ歩きするみたいな感じかね。ライタ-経験を通して、フリー素材の理解は深まりましたね」
佐藤 「すごいですね。たとえ無給でも、心構えはプロフェッショナルです。お金もらっても、そこまで考えずに仕事している人はザラにいますよ。自分もそうかもしれないけど……」
大川 「その努力の成果かわからないですけど、仕事以外で写真を撮っても、フリー素材っぽいって言われますね(笑)」
佐藤 「逆に、「大川さんの写真 = フリー素材」って浸透したってことじゃないですかね」
大川 「そうかもしれないですね」
佐藤 「先ほど、写真だけでなく動画の仕事も請けるっておっしゃったじゃないですか。芝居の経験もあるんですか?」
大川 「ないです」
佐藤 「え? 未経験でいきなり芝居?」
大川 「ええ。だって、依頼が来るってことは、出来ると思われている訳じゃないですか。その期待には応えたんですよね。頼まれたら、断りたくないというか。まあ、自分でも出来ると思ってるんですけど」
佐藤 「頭が下がります……」
・山田孝之氏との縁
佐藤 「少し話は逸れますけど、俳優の山田孝之さんと親しいんですよね?」
大川 「そうですね、たまに一緒にお酒を飲んだりさせて頂きますね」
佐藤 「どういう経緯でお知り合いになったんですか?」
大川 「昨年11月のことなんですけど、山田さんとは出会う前からTwitterのDMで、他愛もないやり取りをしていました。ある時にライター仕事として、インタビューの依頼が来たんです。そのインタビュー相手が山田さんだったんですけど、その仕事、お断りしたんですね」
佐藤 「え? 何でですか? せっかく山田さんと会えるチャンスだったのに」
大川 「そうなんですけど、その依頼が突然来たんですよ。山田さんの主演映画に関するインタビューだったんですけど、その作品を予習するだけの時間がなく、知らないままお会いするのは失礼だなと思って、それでお断りしたんです。担当の方に「よろしくお伝えください」と伝えました。
そうしたらDMで山田さんの方から「飲みに行きませんか?」とお声を頂いたんです」
佐藤 「大川さんの真面目な人柄が伝わったんですね」
大川 「そうなんですかね。それ以来、2~3カ月に1回、ご一緒させて頂くようになりましたね」
佐藤 「飲みに行かれる時は、山田さんの方から誘われるんですか?」
大川 「僕から誘うことが多いかもしれないですね。あとは、お店でバッタリってこともありますね。僕、普段あまり飲まないので、山田さんとだけですよ。2人で飲みに行くのは」
佐藤 「気が合うんですね。なんかネットらしい出会い方な気がします」
・人の役に立つ
佐藤 「2020年に向けて、何か目標にしていることはありますか?」
大川 「来年はブレイクしたいですね。って毎年言ってるんですけど(笑)」
佐藤 「たしかに去年も言ってましたね(笑)」
大川 「そうなんですけど、年々着実に前進はしていると思うんですよ。最近はネットの仕事だけでなく、テレビのお仕事も頂けるようになったので、来年はさらに飛躍したいです」
佐藤 「将来的にもフリー素材を続けて行かれますか?」
大川 「極端な話、僕が亡くなった後に、遺影もフリー素材で使って欲しいと思ってるくらいです。最初の頃は笑われたですよね、「フリー素材が仕事になる訳がない」って。バイトしながらフリー素材やってたくらいですから。金になる仕事ならほかにいくらでもあると思うんです。でも、僕はフリー素材でやって行きたい。
どちらかといえば、フリー素材って人のやりたがることではないと思うんです。だからこそ、価値があるし、人の役に立っている実感があります。だから続けて行くことができる。人に必要とされている以上は、最後は仕事としてちゃんと形になると信じていますよ。フリー素材に限らず、仕事では使いやすい人でいることが大事だと思っています。「大川に頼めば何とかなる」、そう思って欲しいです」
人の敷いたレールの上を、大手を振って歩くヤツがいる。そんな類の人間とは、真逆にいるのが大川竜弥だ。彼の歩く道は、自ら草をかき分け、峠を切り拓き、時に崖にぶち当たることも、整地した道が崩れることも待ち構えている。それでも彼は行く、「フリー素材モデル」という未開の職業を形作るまで、彼の歩みは止まらない。きっと彼の歩いたあとに、道が出来ていることだろう。
佐藤英典








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