最近、温もりが欲しいと思うことが増えてきた。あらぬ誤解を受ける前に補足をしておくと、直前の文言は「寒い季節なので温かい料理が食べたい」という意味である。冬と言えば定番は鍋料理だが、たまには違うもので暖が取りたい

そんな筆者の微弱なアウトロー精神を受け止めてくれるお店が偶然にも見つかった。店名は「ごちそうとん汁」。名前が表す通り、同店は何とも珍しい「豚汁だけを扱った豚汁専門店」なのである。

これは良いものが見れそうだと思い、早速お店のある東京・代々木に向かった。

代々木駅西口からほんのひと歩きしたところで、「ごちそうとん汁」の看板が出迎えてくれる。ちなみに略称は「ごちとん」らしい。

軒下には、「とん汁定食専門」の文字が刻まれた立て看板。大いに幸せになれる可能性を示唆している貴重な文献だ。

お店に入ってメニュー表を開けば、期待を裏切らない豚汁の園が広がっていた。「ごちとん豚汁(640円)」や「炙りスペアリブ豚汁(890円)」、「キーマカレー豚汁(840円)」に「しょうが焼き豚汁(790円)」など。こんなに豚汁が羅列されているところを初めて見た。

さすがは専門店である。何を選ぼうか悩んだが、最もオーソドックスとおぼしき「ごちとん豚汁」の欄に「Simple is Best」と真理が付記されていたのでそれを注文した。追加で250円支払い、定食セットにすることも忘れない。

よく見ると、メニュー表にはさらに「ごちとんの楽しみ方」まで記載されていた。大変ありがたい。

今日はこれに従って生きようと心に決めて待つこと十数分、専門店の豚汁がお出ましした。

焦げ目のついたボリューミーな豚肉が、並の豚汁のそれとは一線を画した魅力で目を引いてくる。

前出の「楽しみ方」を思い出しながら、まずは丼にたっぷり入った大ぶりな豚肉を箸で挟み……

ご飯に少し乗せてワンバウンドさせてから、口に放り込む。その瞬間に豊かな脂身がジュワッととろけた。実に美味しい。これまでの豚汁経験にはなかったジューシーさだ。その味を引き継いだまま食べるご飯もまた美味しい。

続いて野菜の方にも箸をつけていく。豚肉にも野菜にも、味噌汁の優しい味わいが染みていてたまらない。

九州麦味噌をベースに使っているとのことで、甘めの味付けがじんわり広がる仕上がりとなっている。見た目の色合いからは味の濃そうな印象を受けるのだが、味わってみるといたって上品だ。

この上品さも、なかなか普段では体験できない。おまけに全てが温かい。温もりが嬉しい。箸もレンゲも止まらなくなる。

やがて丼の中が寂しくなってきた頃合いに、最後の締めくくりとして活躍してくれるのが、豚汁と一緒に付いてきた生卵である。

これを残ったご飯と合わせて丼に投入し、雑炊にして食べる。メニュー表の「楽しみ方」に「ここがクライマックス」と記されていたアレンジ法だ。

様変わりした目の前の料理を改めて味わうと、なるほど確かにクライマックスだと頷けた。とろみを帯びた豚汁に、先ほどとは違うコクが生まれている。この食べ方だと一滴残さず味わい尽くせるので、そういった意味でも満足度が高い。温もり具合もひとしおである。

豚汁であれ何であれ、専門店を営んでいく上ではクオリティは不可欠だと思われるが、その点「ごちそうとん汁」は見事だ。豚汁という日常に馴染んだ料理が、このお店の手にかかるとプレミアム感を放つものになっている。

筆者と同じく冬場の鍋に飽きた方はもちろん、それ以外の方にもぜひおすすめしたい場所だ。興味を持たれたなら、この格別の「ごちそう」にありついてみてはいかがだろうか。

・今回紹介した店舗の情報

店名 ごちそうとん汁
住所 東京都渋谷区代々木1-33-2
営業時間 11:30~22:30
定休日 無休

Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼「豚汁専門店」の豚汁

▼定食セットで頼むと、ご飯や香の物、豆皿料理が付いてくる

▼普段の豚汁ではなかなか味わえない、ジューシーな豚肉

▼優しく上品な味噌汁

▼締めの雑炊も美味しい

▼「ごちそう」をごちそうさまでした

日本、〒151-0053 東京都渋谷区代々木1丁目33−2