
2019年11月22日に、渋谷パルコがリニューアルオープンした。2016年8月7日に一時休業し、3年3カ月の改装期間を経て、再スタートを切ったのだ。実際に行ってみると、他の商業施設とはまったく異なる個性あふれる空間に、私(佐藤)は衝撃を受けた。
とくに地下の飲食店街「カオスキッチン」は、その名前の通りまさにカオス(混沌)。個性的である以上に、ある種の主張を感じるのだ。一体どうして、こんな施設設計になってしまったのか? 社内で反対はなかったのだろうか? 気になったので施設設計を行った担当者に話を聞いたところ、パルコの哲学を垣間見ることができた。
・「こんな楽しい仕事、他の人にやらせたくない」
今回お話をお聞かせ頂いたのは、株式会社パルコ渋谷店、営業課の吉井達弥さんと丸山佳奈子さんだ。お2人は旧渋谷パルコが閉店後から、新パルコオープンに至るまで、施設のプランニングを担当している。
佐藤 「改装計画は随分前からあったと思いますが、いつ頃からプランニングは始まったんですか? 一大プロジェクトとして大人数で計画を実行に移されたと思うんですけど」
吉井 「計画が始まったのは、一時休業後ですから3年前になりますね。全体のプランニングは8人でしたね」
佐藤 「え? たった8人ですか!? 少なくないですか?」
丸山 「8人ですね。少ないですかね」
佐藤 「少人数で大変だったと思いますけど、辞令を受けてプランニングに着手するんですよね」
吉井 「いや、立候補制でした」
佐藤 「立候補!?」
吉井 「そうです。辞令でやれって言われる感じではなく、全部署からプラニングをやりたい人を募集して、自ら立候補して、まあ選考みたいなものを経て、部署を移動する訳ですけど」
佐藤 「ちょっと考えただけで大変そうなことがわかるんですけど、それでも立候補してやりたかったと」
丸山 「だって、楽しそうじゃないですか(笑)」
吉井 「こんな楽しい仕事、他の人にやらせたくないと思ってましたね(笑)」
・「マーケティングをやめよう」
佐藤 「それでお2人を含めた8人で、どういうところからプランニングが始まったんでしょうか?」
吉井 「渋谷パルコは1973年の開業以来、渋谷カルチャーを創造してきた場所です。ただの商業施設ではなく、パルコ劇場やクラブクアトロなどを含めて、コンテンツ事業も行っています。それがどこにでもある商業施設のような形になることは、僕たちも望んでいませんでした。それで一般的なアプローチをとることをやめることにしたんです」
佐藤 「そのアプローチとは?」
吉井 「マーケティングですね。マーケティングすると、世間的にはウケるものはできるんですけど、どこにでもあるものが出来上がると思ったので、マーケティングをやめようってなったんです」
佐藤 「マーケティングって物を売る上でのひとつの指標。「道しるべ」みたいなものだと思うんですけど。それをしなかったとなると、どうやって目標を定めたんでしょうか?」
丸山 「話を聞いて回ったんです。さまざまな分野の人に、話を聞いて行きました。そうして、『パルコに求められているものは何なのか?』 を確かめて行きました。1年間かけて」
佐藤 「1年間、話を聞くだけだったんですか?」
吉井 「そうですね。ある意味、これもマーケティングかもしれないけど、数字だけでは見えて来ないものを知りたかったんです。すると、聞こえてきたのは、年齢や性別、国籍や民族にとらわれないものが求められていることがわかったんです」
佐藤 「現在の施設コンセプトに掲げている、「ノンエイジ(non-age)」「ジェンダーレス(genderless)」「コスモポリタン(cosmopolitan)」は、このヒヤリングで決まっていたんですね」
・「街をつくりたかった」
佐藤 「3つの施設コンセプトをもっとも象徴しているのが、地下のカオスキッチンだと思うんですよ。実際に行ってみて、フードコートとか横丁居酒屋とか、そういうものとは全然違うと思いました。ナゾの集合体って感じですよね(笑)」
吉井 「そうですね、いわゆるフードコートにはしたくなかったんですよね。食のジャンルでお店を分類するのではなく、「音楽」でつながる 街 をつくりたかったんです。全体像としては、新宿のゴールデン街や新橋のニュー新橋ビルみたいな、ゴチャゴチャとワクワクが混在したものにしたかった」
丸山 「ゴールデン街やニュー新橋ビルが魅力的な理由を探るために、通って魅力を感じさせる要素を抽出したりしましたね」
佐藤 「その魅力って何だったんですか?」
丸山 「端的に言うと、小さくても個性的なお店が密集していることなんじゃないかなって。それからお店が小さいために、他のお客さんとのコミュニケーションが自然発生的生まれることも、大事な要素だと感じましたね」
佐藤 「だから、出店している「おにやんま」(うどん屋)は、狭いカウンターのお店にしたんですね」
吉井 「お店の持ち味も大切にしたかったんです。おにやんまがめちゃくちゃ広いお店だったら、やっぱり “らしさ” がなくなると思うんですよね。あと、フロア全体の構造もやや入り組んだものにして、来た人に “探す喜び” を味わってもらいたかったんです」
佐藤 「たしかに、ちょっとした迷路のように感じましたよ。従来の商業施設のセオリーをことごとく裏切る造りに、ワクワクしましたよ」
丸山 「商業施設初出店のお店も多いので、セオリーを押し付けず、出来るだけ路面店のルールでやってもらうように心がけています。施設の取り決めが許す範囲でですけど。そのお店らしくやって欲しいので」
・「やっと突き抜けた」
佐藤 「地下の雰囲気、とても好きです。飲食店も魅力的だし、レコード屋やギャラリーまであるじゃないですか。ここで1日中遊んでいられる気がします。でも1つ気になることがあります。たとえば、2丁目のミックスバー「キャンピーバー」やコンドーム専門店「コンドマニア」について、これら店舗の出店を反対する意見はなかったんですか?」
吉井 「反対というのは?」
佐藤 「いや、商業施設の飲食店となれば、なんというか、その~「性的」なイメージを感じさせるものは、歓迎されない気もするんですけど。少なくとも、他の施設にミックスバーやコンドーム専門店はない訳で……」
丸山 「全然反対意見はありませんでした。むしろ評価されましたよ。やることに関しては、理解はあるんです。パルコがカルチャーカンパニーであることの強みですかね。反対どころか「やっと突き抜けたな」って、お褒めの言葉を頂いたくらいで(笑)」
吉井 「オープンした後に、ずっと年上の先輩や役員の方々に良く話しかけられるようになりましたよね。パルコを造ってきた人たちは、私たちよりもずっと先鋭的なことやってますから、その「突き抜ける」ようなことを見たかったのかもしれません。渋谷クアトロ(1988年オープン)を造った人たちは、あの当時、ニルヴァーナやオアシス、ソニック・ユース、ビースティ・ボーイズの日本初公演をやってるくらいですから。文化に理解がありますよ」
佐藤 「ということは、パルコらしい飲食店街が出来上がった訳ですね」
吉井 「そうなのかもしれないですね」
佐藤 「あ、あと占い! あの占い屋さんがとても良いですね。なんとなく、あれがパルコらしいです」
吉井・丸山 「笑」
吉井 「要望があったんですよ。渋谷パルコの地下には占いがあるべきだって。その昭和感というか、地元に根付いた土着性みたいなものを大事にしたかったんです」
佐藤 「それで占いを(笑)。令和の世にあって、あれが新しい商業施設にあるのは、何だか和みます」
・文化の器
佐藤 「最終的に渋谷パルコが目指すものはなんですか?」
吉井 「パルコはファッションビルとしての側面が強いですが、先ほども言いましたけど、カルチャーカンパニーです。劇場・シネクイント(映画館)・CLUB QUATTRO(ライブハウス)の文化的な興行が事業の根幹にあります。文化として捉えるのは劇場はもちろん、ファッションも食もそうです。渋谷パルコ6階の「ポケモンセンターシブヤ」や「Nintendoi TOKYO」などのゲームコンテンツも、「JUMP SHOP」に代表されるような漫画コンテンツも。そのほか近年はYouTuberなどが創り出すものの、文化と言って良いのでしょう。
日本にはそれらの文化的なソフトコンテンツが多数あります。世界に誇れるソフトコンテンツです。それらを集積した「文化の器」として機能するランドマークを造りました。世界中から人が来る場所になることを目指しています」
丸山 「これからも魅力的な場所として機能するように、いろいろ仕掛けを出来たらと思っています。実はすでに始めているんですよ」
佐藤 「何をですか?」
丸山 「すでに終わってますけど、新生渋谷PARCOのオリジナルBGMを監修して頂いたCORNELIUS(小山田圭吾)のライブとか。9階のライブストリーミングスタジオ「SUPERDOMMUNE」では石野卓球さんが出演されたり」
佐藤 「先に言ってくださいよ、知らなかったじゃないですか!」
丸山 「ヒミツにしている訳ではなくて、 Twitter や Instagram で事前告知していますので、そちらをご確認ください」
吉井 「これからも魅力的な催しをいろいろやって行きたいと思いますので、ご期待ください」
佐藤 「さまざまな個性が混ざり合って、新しい文化が生まれることを楽しみにしています!」
参照元:渋谷パルコ、クラブクアトロ
取材協力:渋谷パルコ
Report:佐藤英典
Photo・イラスト:Rocketnews24
▼2019年11月24日に渋谷パルコで行われた「CORNELIUS」のライブの告知投稿
佐藤英典









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