海外旅行において最も大切なのは一般的に “パスポート” であるとされる。しかし実際に見知らぬ土地でピンチを切り抜けるには、現状 “まずスマホ” なのではないだろうか。パスポートを紛失したってスマホがあれば対処法を検索できる。でも、その逆は……?
スマホのおかげで旅には語学力も地図も必要なくなったが、同時に新たな不安が生まれた。旅先でのスマホ紛失は、そこが「旅の終わり」になる可能性をはらんでいる。いや……ヘタすると道に迷って「人生の終わり」となるかも? 怖い。想像するだけで怖すぎる。
怖すぎて「逆に日本に帰りたい」とまで考え始めた私は、思い切って現地でスマホを購入してみることにした。いちど経験してしまえば、実際にスマホを失くした時もスムーズにいくはず。それに2台持っておくに越したことはない。「備えあれば憂いなし」ってね!
・パリのHUAWEI
今年の発売待ち行列に並んだ私は、現在『iPhone11』を使用している。ずっとiPhoneユーザーなので、今さらAndroidに変える気力はない。が、最近メチャクチャ気になる機種があって悩んでいたのだ。
そう……『HUAWEI』(ファーウェイ/華為)である。何かと世間、いや世界を騒がせることの多い中国のトップブランド。そんなHUAWEIが今年発売した機種が『P30 Pro』だ。そのカメラ性能が「バカみたいにスゴイ」という噂は、ガジェット弱者の私の耳にも届いていた。
どうせ2台持つならiPhone以外がイイし……ってことでルーブル美術館にもほど近い、パリ2区のHUAWEI直営店に行ってみたぞ! ボンジュール!
店内の様子は日本の携帯ショップと大差ないが、客が1人もいない様子だ。店員は中国人かと思いきや全員欧米の方。
あったぞ、お目当てのP30 Proだ! すいませ〜ん!
──これくださーい!
「★#×%$♭▲%×$……」
──ヘイ! I’m not good at English(私は英語が得意じゃないです)! それでもOK?
「オー! もちろんよ! あなた、これを買いたいの?」
──そうです!
「それは『フナック』だわ」
──フナック?
「そう、フナック。だからフナック……まさかフナック知らないの?」
「フナック」という未知なる英単語が登場し、会話は行き止まりになってしまった。あぁ〜もう! ギガとかメガとかプラグとかデザリングとか……きっとそういうガジェット系の横文字なんでしょ!? 私がすごく苦手なやつだよ!
しかしオロオロしている私に対し、スタッフのお姉さんは優しく「落ち着いて」と微笑んでくれた。「英語が苦手」と宣言しておいてヨカッタ……。翻訳アプリを起動し、お姉さんに入力をお願いしてみる。フナックとは「fnac」と表記するようだ。
ところが……アプリに「fnac」の翻訳は表示されない。あっ! もしかしてフランス語なんだろうか?
アプリの表示を英語からフランス語に変えても同じだ。ここで試合終了か……と思ったら、お姉さんが店の外へ手招きしているぞ。
「ここを真っ直ぐ10分歩けば『フナック』よ」
──えっ!? 私はスマホを買いに来たんだけど……
「ここはカスタマーセンターだからスマホの販売はやっていないのよ」
──ヒーッ!
・テンキュー
直営店でスマホを販売していないという、日本では考えづらい事態に遭遇した私。これは欧米のスタンダードなのか、それとも中国スタイルか……。ともかく親切なHUAWEIスタッフのおかげで、私は次なる目的地へ向かうことができたのである。
教えられた地点にはビッグなショッピングモール。
その中にあったのが『fnac』だ! 4フロアにまたがる大型電気店。フナックとはどうやら日本でいう “ヨドバシ” とか “ビッグカメラ” の立ち位置っぽい。確かに私も海外の人にうっかり「ヨドバシ行きなよ」とか言ってしまうかもなぁ。
あったぞ! P30 Pro!
価格は749ユーロ(約8万9500円)。
──これくださーい! I’m not good at English!
「OK!」
・店内たらい回し
私が最も心配していたのは、このスマホが “日本でも使用できるか” ということ。それについて店員に尋ねると「ハハハ! もちろん!」と返されたので、それ以上質問することもなくなってしまった。あと「パスポートを見せて」と言われたほかは、何もなくあっさり手続き終了。所要時間約3分。
そこではプリントした紙を渡され「2フロア下のカウンターへ行って」と指示された。ちなみにヨーロッパでは日本でいう “1階” を “0階” という。地上からひとつ上の階が “1階” なので注意しよう!
2フロア下にはものすごく分かりやすく会計カウンターがあり……
紙を見せると簡単に支払い手続きへ。欧米の物価は高いけど、消費税がないのはチョッピリ得した気分になる。
ついにスマホ……ではなくまた別の紙を渡され、今度は1フロア上へ行けとのことだ。ここでも得意の「I’m not good at English」を繰り出すと、カウンターのスタッフは目印を手書きで記入してくれた。
・「マジか」の連続
書かれた目印どおりの場所は、受け取りカウンターのようだ。
紙を渡すと奥から商品を持ってきてくれた。
そしてバーコードを照合し……
「ほらよ」とばかりに商品をそのまんま、無造作にこちらへ放り投げて……
終了!
・えええぇぇぇぇ……
いやいや……もっとこう、 “HUAWEI” って書かれた手さげ袋に入れるとか……そんで中にはパンフレットとか……オマケのティッシュが入ってたり……ありますよね普通そういうの……?
「I’m not good at English」と、ここでも前置きしたうえで「なんか袋くれ」というジェスチャーをしてみる。と、カウンターの男性は「あっ、そう?」と不思議そうな顔をして、奥から袋を持ってきてくれた。
それは今にも破れそうにペラッペラの、日本だと布製品を梱包する際にしか使用しないタイプのビニール袋だ。おまけに非常にサイズが大きく、スマホを持ち帰るのにこれほど適さない袋もあまりない。
パリといえば誰もが「スリに気を付けろ」と忠告する街だ。このペラペラの袋に9万円入れて歩くのかよ……そう思うとかすかに震える。が、しかし考えてみれば日本式の “メーカー名の書かれた袋” こそ「ここに新機種入ってまっせ」と宣伝して歩くようなものだ。ペラペラくらいが逆にちょうどいいのかもしれないな。
・慣れれば簡単
行き先を間違えるトラブルはあったものの、私がフナックに入店してからスマホを手にするまでの所要時間は20分ほどだった。
ちなみに私が今年9月に日本のアップルストアで、SIMフリーのスマホ(iPhone)を買ったときも「けっこう簡単に買えるんだな」と感じはした。しかし今回に比べると、何かしらに記入したり、登録したり、説明を受けたりといった手順を踏まねばならなかったように記憶している(もちろんキャリアや店舗によって違うとは思うが)。
ホテルへ戻り箱を開封してみると、当たり前だが説明書がフランス語表記だったり……
充電器がEU仕様だったりして「アッ!」と思ったが、まぁ大した問題ではない。ヨーロッパではどこでも簡単にSIMカードを購入できるし、とにかくこれで万一スマホを紛失しても安心というわけだ。
事前にしっかり説明を受ける日本のシステムに慣れているので、今回ほんの数単語でスマホを購入できたことには拍子抜けした。「あとで問題が起きたらどうするの?」と少し不安になるが……そうか、そのために立派なカスタマーサービスが存在しているのかもしれないな。
「I’m not good at English」とまず宣言して会話を進めたことは、我ながら非常にナイスであったと思う。この日会話した4人のスタッフの誰ひとりとして、早口や複雑な単語を使用することはなかったぞ。中1英語レベルで確実にスマホは買える。みんなも臆せずチャレンジしてみてほしい!
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
▼美しい! パリのHUAWEI