日本の飲食店チェーンが “飛び道具的メニュー” を出すことは、今や珍しくも何ともない。そしてその飛び道具は、時として人々からの注目を一瞬で浴びる。回転寿司業界を例に取ると、数年前に出たスシローの『ブルーベリー寿司』や『オムライス寿司』、くら寿司の『なんだこれは!? 巻』などは、その好例と言っていいのではないだろうか。
しかしながら、私はこれらのメニューにほとんど衝撃を感じなかった。もちろん、予想を裏切る角度から飛んでくる飛び道具を考え続ける企業努力や、どんなものでも大抵は美味しく仕上げてしまう手腕には頭が下がるものの、正直に言って衝撃を受けた商品は1つもない。なぜなら……
どうしても狙いが見えてしまうからだ。「ネット受け」という狙いが。ネット民から「何この商品www」「これは草生えるwww」「開発したやつマジキチwww」「クレイジーだけど嫌いじゃないwww」などと言われて、商品名もしくはメーカー名を売り込んでやろうという企業の意図が。
その狙いが見えてしまったら、どんな飛び道具でも衝撃は半減、もしくは限りなくゼロになってしまう。逆に言うと、無意識は強い。めちゃくちゃに強い。
・無意識の強さ
料理で言うと、ネット受けを一切意識していないのに、結果的に飛び道具になってしまったメニューは衝撃が大きい。“笑い” を取ろうとしていない真面目な発言が、場合によってはめちゃくちゃ面白くなることに似て。
──前置きが長くなってしまったが、以上のことを踏まえて紹介したいのが、私がイタリア・フィレンツェの回転寿司で食べた「おにぎり」である。その「おにぎり」の何がすごかったかを述べる前に、まずは問題の寿司店について簡単に紹介しておきたい。
・食べ放題の回転寿司
お店の名前は『WASABI』という。店名こそ日本料理感が漂っているが、お店のスタッフは全員中国語でやり取りをしていたので、以前の記事で紹介したパレルモの寿司屋『GOLD』と同じような形態かと思われる。
価格は、食べ放題で1人23ユーロ(約2800円)。デザートとドリンクは対象外ながら、寿司はもちろん、天ぷらやフライドチキンなどの揚げ物や、餃子などの点心的なもの、ラーメンやうどんも食べ放題となる。なお、時間制限ナシの太っ腹システムだ。
肝心の寿司は、マグロ、サーモン、スズキ、エビ、カニ、タコ、ホッキガイ、ハマチ、ウナギ……など。それらに加え、海外寿司の定番であるカリフォルニアロール的なヤツ、他にも手巻き的なヤツもある。充実のラインアップと言っていいだろう。
私はこれらの中から、マグロ、サーモン、ウナギなどの定番ネタをいくつか食べた。その印象を一言で言うと、アリ。日本の回転寿司に比べたら味は劣ってしまうものの、決してマズくない。店を出たときの満足度は高かった。
だが、満足度よりも衝撃の方が大きかったのは間違いない。すべて「おにぎり」のせいで……。
問題の「おにぎり」は、マグロやエビなどのメジャーな寿司ネタと同じようなポジションで、メニューに載っていた。あとから考えれば、この時点で勘づいてもおかしくはないのだが、私はまったく気づかなかったのだ。その秘密に。
私がそれを知ったのは、実際に食べたときである。単純に「おにぎり」を食べたくなったので注文し、頬張ったところ……
え!
お酢!?
そう、ご飯が酢飯だったのだ。たしかに、日本でも酢飯おにぎり的なものはある。だけど、このおにぎりはそんなものじゃない。うっすら感じるのだ。店が単純に「おにぎりは寿司みたいなものだから酢飯を使う」と勘違いしている空気を……!
もしくは、「ご飯を2種類用意しておくのが面倒だからぜんぶ酢飯でええやん」という店の独自判断って可能性もあるが……どっちなのだろう? まぁ、とにかくもっと食べてみよう。そう思って、中を割ってみたら……
焼いた鮭ではなく、生の鮭。
すなわちサーモンが入っていたのである。
これは「おにぎり」じゃなくてもはやサーモンの寿司では……。一瞬そう思ったが、よくよく考えれば、寿司には酢飯を使って、おにぎりには塩をかける方が不思議……と言えなくもない……のかもなぁ……。
考えれば考えるほど分からなくなるが、店主がネット受けを狙って酢飯おにぎりを出しているわけじゃないのは間違いないだろう。だからこそ、ひと口目が強烈。もしこれを店主が狙ってやってたら、逆にすごい。
そんなことを思いながら食べ終えて会計をすると、レジにいた女性スタッフが私に「謝謝」と声をかけてくれた。私も下手くそな発音で「謝謝」と返した。そして店を出て、ホテルに向かった。無意識に放たれた “飛び道具” の破壊力を感じながら。
・今回ご紹介した飲食店の詳細データ
店名 Wasabi
住所 Via De’ Ginori 20R, 50123, Florence, Italy
時間 12:00〜15:00 / 19:00〜23:00
Report:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.
▼おにぎりはビックリしたけど、料理はどれも美味しかったです。ごちそうさまでした。謝謝!