つい先日、中国ネット界をざわつかせる出来事が発生した。それは「SNSでポケットモンスターのロケット団を応援したら “粛正” された」というものだ。
ちょっと意味がわからない。エイプリルフールにはまだ早いよ、何言ってるの……と思っていたのだが、どうやら実際に起こった出来事であるようだ。
・中国人がポケモンの悪役を応援した結果
発覚したのは2019年10月9日のこと。中国で数々のマラソン大会を運営に携わる企業「広州中体体育有限责任公司」のアカウント「@中体马拉松」がSNSに謝罪文を投稿した。
投稿によると、同社の従業員が10月8日の午後にチャットアプリ「WeChat」において「社会へ悪影響を及ぼす不適切な内容」をシェアしたのだという。その人物が投稿したとされる内容を見てみると……
・ただのポケモンファンにしか見えない
「私はやっぱりロケット団が好きだ! みんながどんなに彼らを悪く言ったって、私は子供の頃から大好きだった。彼らがどんなに失敗しても、その度に立ち上がって夢に向かう姿は、私にいつも勇気を与えてくれた。ありがとう、ムサシ、コジロウ、ニャース(Weibo @中体马拉松より)」
どこが社会に悪影響? ただのポケモンファン、それもライバル役のロケット団のファンにしか見えない。
・「社会に悪影響」の理由
問題はこのロケット団の中国語表記にあったのだ。中国ではロケット団のことを「火箭队」と書く。この表記は、NBAヒューストン・ロケッツも同じだ。
現在、中国ではこのヒューストン・ロケッツをめぐる騒動が起きている。GMであるダリル・モーリー氏がSNSで香港のデモを支持したことに、中国のファン、スポンサーが反発。テレビ中継やファンとの交流イベントなどが次々と中止されているのだ。「火箭队」は禁止ワードにこそなっていないものの「センシティブなワード」になってしまったようだ。
そして問題の投稿には「火箭队」の文字のほか2つの画像が貼りつけられている。1つはポケモンのロケット団の画像、そしてもう1つは小さくてよく見えないのだが、どうやらNBAのヒューストン・ロケッツ関連のニュースのキャプチャであるようだ。
このような状況下から、広州中体体育有限责任公司は従業員の言動を重く見て、謝罪文を書かせるにまで至ったのだろう。
・本人のサイン入り謝罪文も掲載
本人のサイン入り謝罪文には
「ヒューストン・ロケッツではなくポケモンのロケット団のことだった」
「(このような状況での発言が)論争を呼び、皆さんを傷つけたことに対し本当に申し訳なく思っている」
と書かれているほか
「自分は祖国を愛している」
「国慶節のパレードでは強大な祖国の姿に熱い涙があふれた」
と、祖国愛が書き連ねられている。
彼が本当に「ポケモンのロケット団を応援したかった」のか、それともヒューストン・ロケッツ騒動への風刺だったのか、単なる悪ふざけだったのか真意は見えないが、謝罪文から「うわぁ、めっちゃ怒られたんだろうな」という印象を受けたのだった。
・中国企業さえも神経質に
「中国さんデリケートすぎやろ」と思ってしまいはしないだろうか。中国人からも「敏感過ぎる」「この会社、大丈夫?」などの声が出ている。
だがその一方で、NBAでの騒動のほか、ジュエリーブランド大手のティファニーが「モデルが手で右目を隠した広告」を発表したところ、「香港デモを想起させる」として中国からクレームが殺到、削除する事態も起きている。デモにおいて「市民が負傷した目を隠すポーズ」が抵抗のシンボルとなっていたからだ。
さらに、スラムダンクの作者・井上雄彦さんがTwitterで香港デモ関連のツイートに、いいねを押したとして、「中国で次にボイコットされるのは『スラムダンク』ではないか」という話も飛び出しているくらいなのだ。
当局の動きもさながら、強気な消費者、世論には中国企業でも神経質にならざるをえないということだろうか。
参照元:Weibo @中体马拉松、新浪財経、新浪体育、光華日報、今日新聞網(中国語)
執筆・イラスト:沢井メグ
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