電車に乗って別世界に行くファンタジー作品は多い。『ハリー・ポッター』はじめ、『銀河鉄道の夜』なども物語の最初に電車に乗る。鉄道には、人の想像力を掻き立てる何かがあるのかもしれない。
だが、満員電車に疲れた大人である私(中澤)は知っている。実際、そんなことは起こりえないと。悲しいかな、大人になるにつれ電車は交通手段以外の何ものでもなくなってくる。
というわけで、いつものように移動手段として電車に乗り込んだところ……ファンタジー世界に連れて行かれた。
・アンバーリー駅
私がその日、電車に乗り込んだのはイギリスのアンバーリー駅。ロンドンからずっと南下したこの駅は、付近にほとんど牧場と道しかない田舎の駅だ。
・圧倒的現実
この駅にある「アンバーリー城」に宿泊した翌日、取材でスコットランドとの国境付近まで移動しなければならなかった私。イングランドを縦断する大移動のため、5時54分の始発に乗り遅れると終わるというスケジュールだった。
駅に着いたのは日の出前の薄暗い時間。しかし、気持ちは焦る。なにせイギリスの電車は遅延がめちゃくちゃ多い。キャンセルでもされようものなら、この駅の本数的にもうアウトなのである。
電車は時間通り来た。まずは最初のハードルをクリア。とは言え、まだ電車乗り換えがあり、ヒースロー空港から国内線でニューカッスル・アポン・タインまで行って、レンタカーを借りた上、チリンガム城に16時までにたどり着かないといけない。ハードル多ッ!
・圧倒的ファンタジー
ひたすら先走る心。今時間通り運行しているのか? ああ、間に合いますように……と、そんなことばかり考えていたその時、車窓から光が差し込んできた。どうやら朝日が昇って来たようである。そこで、チラッと景色を見たところ……
ファンタジーすぎィィィイイイ!
車窓の外にずーっと奥の奥まで続くなだらな地面。そんな広大な平野に朝もやが立ち上り遠くの木が霞む。そして、もやの彼方にぼんやりとした朝日が昇ってきていた。現実とは思えない……!
真っ白になる頭。気づけば、さっきまで追い詰められていた現実の方が別世界の出来事のように感じられる。私は何をそんなに焦っていたのか。そして漠然と思った。「今日はきっとウマくいくだろう」と。
その直感通りに、乗り換えや国内線、レンタカーについては全てビックリするくらいスムーズにいった。現実に追い詰められていたのに、一瞬でファンタジー世界に連れて行ってくれたアンバーリーの車窓。イギリス旅の中でも鮮烈に心に残っているものの1つである。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.