2019年9月20日にラグビーW杯が開幕するまであと1カ月を切った。4年に一度の祭典だけにあちこちでラグビーが取り上げられており、徐々に熱気が高まっている。ただ……まだ足りない。自国開催に加え、前大会で南アフリカに勝利したことで巻き起こった「五郎丸フィーバー」を思い出すと、まだまだ熱が足りない。

そのような状況を前から肌で感じていて、世界初のラグビー登山家に転身したのが長澤奏喜さん(34歳)。彼はW杯を盛り上げるためにラグビボールを抱え、出場国の最高峰にトライする挑戦を2017年から続けている。

・長澤さんってどんな人?

高校からラグビーを始めた長澤さんは、大学生活までプレーして一般企業に就職。どこにでもいる元ラガーマンだったが、2015年W杯の南アフリカ戦が転機となって世界初の「ラグビー登山家」になることを決意した。

理由は日本代表の勝利を期待していなかった自分を後悔していたこと、自国開催を控えながらも冷めていく世間のラグビー熱を見て、本気で日本代表を応援しようという気持ちになったからだ。そしてなにゆえ登山かというと、日の出がラグビーボールのように見えたことからヒントを得た。

それから長澤さんは退職し、本格的に「ラグビー登山家」としての活動をスタート。普通に考えたら仕事をやめるなんて決断はできないだろう。……だがしかし!

彼は行動に移した。本気で成し遂げようという気持ち、一生懸命さは人を動かすものである。これまで長澤さんは2019年6月の時点で出場25カ国のうち22カ国にトライしてきたのだが、いろんな人に支えられてきた。

一般人が侵入禁止になっている紛争地帯、野生のゴリラと一触即発、無人島で遭難など、数々の試練が訪れても、ラグビーという共通言語が長澤さんをトライに導き、世界各国の人々に「日本開催のラグビーW杯」を連想させてきた。

そして一歩目からおよそ2年半経った今、一大チャレンジは間もなく結実の時を迎えようとしている。7月、長澤さんは次なるトライを決めるべく残る3カ国のうちの1つ・ジョージアにいた。

・残すは富士山のみ

対戦相手はカズベック山。標高5033mという高さへ挑んだ長澤さんは、ホワイトアウトや傾斜55度と崖のようなポイントなど難所はあったが無事にトライ。ジョージアはラグビーが盛んな国ということもあって、ユニフォーム姿&ボールを持って登山するスタイルはあたたかく迎えてもらったそうだ。

続いてロシアのエルブルス山(5642m)へチャレンジ。ここではW杯で日本代表の初戦の相手ということもあって「おそロシア」な展開が待ち受けていた……

なんてことはなく、氷点下ちょいの中、上半身裸でトレーニングする軍人さんに出会ったり……

ファンキーな若者たちと交流があったり、そこはかとなくロシアっぽい体験もしながら……

無事にトライを決め、これにて残す山は日本のみとした。集大成となる富士山の登頂は24日(天候によって変更あり)で、そこから本大会にかけては開催都市の最高峰にトライする予定となっている。これまで何度も折れそうになったが、応援してくれる人のため、W杯のためを思えば踏ん張れたそうだ。

・ラグビーW杯まであと1カ月!!

この4年、ラグビーという競技は楕円球のボールのようにどこに行く未来なのか分からない状況に置かれていた。本当に盛り上がるのか、不安と期待が入り混じりながらあっちへコロコロ、こっちへコロコロ……。しかし、時は来た。

あと1カ月経てば、ラグビーW杯が開幕して世界中からファンが押し寄せるし、世界最高峰の戦いが日本で見られる。もしかしたら今はまだ興味がない人もいるかもしれない。でも本記事で「ラグビー登山家」の存在を知り、1人でも多くの人がラグビーに関心を持ってくれたら幸いだ。

そして何より自国開催のW杯は次にいつ巡ってくるか分からない。何しろ、オリンピックも半世紀かかったのだ。興味を持つなら今を逃していたらもったいない。日本の初戦は9月20日のロシア戦(東京スタジアム)。19時45分にキックオフ予定だから覚えておこう。

参照元:長澤奏喜HP「# World Try Project」Facebook、Instagram @nagasawa.sohki
執筆:原田たかし
Photo:長澤奏喜