完全にどうかしているとしか思えない。おそらく、多くの人がそう思うだろう映画が2019年7月12日に日本で公開される。その名も『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』DA。

ヒトラー、金正恩、ローマ法王、スティーブ・ジョブズなどなどが恐竜と共に人類を総攻撃するこのパニックムービー。何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。私も分からない。分からないなら聞いてみよう。というわけで監督に直撃取材してみた

・『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』とは

本作は、2012年に公開されたSF映画『アイアン・スカイ』の続編にあたる2作目。ちなみに、1作目をざっくり説明すると「月面基地を秘密裏に建造していたナチスの地球侵略を阻止する話」だ。1945年に月に逃げ延びたナチス残党と人類の闘いを描くSF大作である。

そして30年後、ナチスの月面基地を利用して生きる人類がエネルギー枯渇を何とかするために、再び地球に向かうのが『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』のストーリー。詳細はトレーラー動画を紹介した以前の記事でご確認いただけると幸いだ。

トレーラー動画では、ヒトラー、ビンラディン、サッチャー、チンギス・ハーン、ローマ法王、スティーブ・ジョブズが恐竜と共に人類を総攻撃する。控えめに言ってとんでもない人選だ

だが、ハッキリ言うと本編はさらに凄い。地球深部のロストワールドを支配する人類の敵『秘密結社ヴリル協会』の面々は以下の通りとなっているのだ。

・秘密結社ヴリル協会のメンバー

ヒトラー
ビンラディン
サッチャー
チンギス・ハーン
ローマ法王
スティーブ・ジョブズ
スターリン
金正恩
プーチン
イディ・アミン
ウルホ・ケッコネン
カリギュラ
マーク・ザッカーバーグ

──さすがパニックムービー! 大パニックだね♪ 言うとる場合か。これ考えたヤツマジで何考えてんだよ! そこで、考えたヤツに会ってみた

本作の監督であり、脚本にも名を連ねるティモ・ヴオレンソラ監督。フィンランド生まれの39歳で、きゃりーぱみゅぱみゅの大ファンなのだとか

また、インダストリアルノイズバンドもやっており、秋田昌美(Merzbow)に多大な影響を受けているという。なるほど、『アイアン・スカイ』の鋼鉄っぽい世界観は、インダストリアルミュージックからの影響もあるのかもしれない。

まあ、余談はさて置き、映画の話に戻すと、最初に誰もが衝撃を受けるのが前述の敵側の人選かと思う。そこで、『秘密結社ヴリル協会』の面々を選んだ理由について聞いてみたところ……

ティモ・ヴオレンソラ監督「まずはリストを作ったんです。人類史において、過去、そして現在の政治的状況の中で、1番大きなインパクトを与えた人ってどんな人たちだろう? と。

あと、重要だったのは、いちいち長い紹介文を出せないので、見てすぐに分かる人が良かったんです。なので、インパクトは強くとも、すぐに分からない人は除外しました。その両方を満たしている人が今回の敵として登場しています。言わば最も映画的な邪悪な人々です」


──見てすぐ分かるというのは、外見的な意味ですか


ティモ・ヴオレンソラ監督「もちろん外見的な意味でもあります。あと、人類が進化していく中で、違ったインパクトを与えている人物というのも基準の1つでした。

例えば、スターリンもザッカーバーグも違ったやり方で、人類に、もしくは人類の進化に影響を与えた人物ですよね? そして、みんなそれぞれのやり方で人間性を否定するゲームに参加している。一種の愉悦のために」

──敵がいわゆる分かりやすく「悪」とされている人物だけではない理由はなんとなく理解できた。とは言え、やはりとんでもない人選である事実は変わらないのだが。

また、ローマ法王やスティーブ・ジョブズが人を食べるなどショッキングなシーンも盛りだくさん。マジやりたい放題なんだけど、逆に、気を使った部分とかあるんでしょうか


ティモ・ヴオレンソラ監督「良い質問だね! 実は……


……………。


特にない。

『アイアン・スカイ』の世界観は、我々のいる現実の中で面白い立ち位置にあると思うんですね。いわゆるタブーがない世界なんです。

我々がトピックとして扱ってはいけないものもないし、扱いたいトピックを揶揄することもできるけど、逆にやらなくても良い。自由です。だからこそ幅広く色んなものを揶揄することができ、他の人なら扱い辛いテーマにも踏み込めるんです」

──ただ、どういった世界観であるにせよ、見た人の捉え方によって批判は起きるものだと思います。そして、その批判を多くの人は恐れると思うのですが、そのことについて何か思うところはありますか


ティモ・ヴオレンソラ監督「そうですね。そういう可能性はもちろんあります。あの作品を見て、ネガティブな感情を抱いたり怒る人もいるかもしれないし、僕の選択に対して『それは違うんじゃないか』と言ってくる人もいるかもしれない。ただハッキリ言うと……


それを恐れていたら違う仕事を選んでいます

映画作家としての自分の仕事というのは、今まで触れられたことがない、あるいは、扱われたことがないものを創ることだと考えているし、自分のやりたいことに対して恐れを抱いては仕事はできないと思っています

これが楽しいんじゃないか? あるいは、これが政治的に今大切なんじゃないか? と思うことに恐れ無く向き合っていきたい。だからこそ、今までもこれからも反対や批判はあると思います。まあ、将来的にはTwitterでそういう人とケンカするハメになるかもしれませんけどね」

──なるほど。それでは最後に、本作を通して監督が伝えたいことは何ですか


ティモ・ヴオレンソラ監督「1作目は全体主義がテーマになっていたんですが、今回は『宗教』がテーマになっていると思うんですね。宗教というものがいかにして誕生したのか、どうやって人類に対して利用されるのか。そして、これからの宗教はどんなものに進化していくのか

宗教はそもそも、自分たちを囲む世界を説明するために存在してきたものだと思うんです。で、この芯はずっと同じなんだけど、当然世界は変わっていく。だから、世界に合わせて宗教も形が変わる。今の時代の宗教は、インターネットなどのデジタル化された社会なんじゃないかと思うんです

では、それを創った人は誰なのか? それはジョブズやビルゲイツ、ザッカーバーグなどの人々です。彼らが伝説になり、神話的な存在になり、やがては新しい宗教の形になっていくのではないかと。

だって今も我々はテクノロジーやインターネットに包囲されてますよね? テクノロジーの温かな抱擁から我々はすでに逃げられずにいる。つまり新しい宗教はすでに目前にあるんです」

──ありがとうございました! 確かに、作中にはiPhoneを持って祈りを捧げる『ジョブズ教』なども登場する。一筋縄ではいかないB級映画だ。

監督いわく、フィンランドには、こういったブラックユーモアで風刺するという文化が昔からあるのだとか。されど、その風刺的な目線を補って余りまくりな映画のバカさと細部にまでこだわったクオリティーは、何も考えずに見ても十分に楽しい

なお、トレーラー動画を紹介した記事でも触れた通り、本作はフィンランド・ドイツ・ベルギーの合作となっている。繰り返すが、2019年7月12日に「TOHOシネマズ 日比谷」ほかにて全国公開。前代未聞のSFパニック超大作は、ぜひその目で確認してくれ!

参照元:アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲
執筆:中澤星児
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Photo:Rocketnews24.

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