先日からネットで急速に話題となっているカレー入りのどら焼き……その名も「インドラ」。カレーはインド → インド風どら焼き → インドラ! なんて一見安易に思わせておきながら、実はインドや周辺国で多数の信者を擁(よう)するヒンドゥー教、あるいはバラモン教において重要な神様の名前にもかかっているという、テクニカルなネーミング

このインドラ、仏教においては帝釈天のこと。インドの宗教について詳しくない方でも、帝釈天なら小・中学校で玉虫厨子(たまむしのずし)を習った際に聞いた覚えがあるのでは? まあとにかくエラい神様で、どら焼きとのアンバランスさは半端ない。この名前もヤバいが、どら焼きにカレーという時点からしてブッ飛んでいる「インドラ」。さっそくゲットして食べてみたぞ! 

・創業120年の超老舗「船橋家」

販売しているのは東京は新宿区にある「船橋家」というお店。場所は都営大江戸線の牛込神楽坂駅から徒歩5分くらい。それにしても、どら焼きにカレーぶち込んで「インドラ」だなんて、随分ハイカラじゃないか。若い兄ちゃんとかが始めたハイセンスなお店なのかな? などと思って行ってみると……なんと創業120年! 同じ場所で4代!! とお店にでっかく書いてある。

なお、お店の外側には


「インドラ」今空中をトビマワッテイマス


との貼紙が。どうやらここ数日のネットでの人気に気づいているようだ。これはあれかな? 継いだお店に新しい風を吹き込もうとした若頭がネットでのマーケティングをうまく成功させた一例かな? 



そんなふうに考えながら店内に入ると、奥からニコニコしたやさしそうなおばあさんが! とりあえず挨拶などしていると、今度は奥から店主のおじいさんが!! どうやら最新のマーケティングに長けた若頭の一計という推測は、大ハズレだったようだ。


・「インドラ」は昭和60年生まれ

詳しく話を聞いてみると、今ネットで話題の「インドラ(140円)」はなんと昭和60年から売っていたそう。話題になったのも今回が初めてではなく、それこそ発売当初はTVなどにもとりあげられたり、時には海外からの取材も来たことがあるのだとか。

ちなみにネットでの人気については、お客さんに教えてもらったとのこと。「あたしたち、こんなの(スマホ)使い方わからないから」とずっと笑顔なおばあさん。店主のおじいさんも同様で、二人してとても素敵な感じである。

筆者と話をしながらも、お店の前を小学生の集団が通った時などは店の前まで出て手を振り、子ども達も「おばあちゃんバイバイ!」と手を振りまくる。いやはや、最近めっきり減った気がするが、まさに地域に根付いた古き良き和菓子屋というやつである。もうずっとこうしてきたのだろう。


・辛いものをはやらせようと思って

店主のおじいさんに、そもそもなぜカレーをブチこんだのか聞くと以下のような答えが。


おじいさん「辛いものをはやらせたかった」

おじいさん「甘いのばっか作ってたら嫌になっちまって」


トークが軽快すぎて、どこまでが本気でどこからが冗談なのか測りかねるが……とりあえずそういうことらしい。ちなみに2年の試行錯誤の果てに完成したんだとか。生地がどら焼きのままである点も「あくまでうちは和菓子だから」とのこと。


・甘辛ウマ&なるほどな味

肝心の味の方は、実に複雑で奥深い。まず、生地の部分はしっとりしていてしっかりと甘く、とてもふんわりしている。スーパーの6個入りの、最初からパサパサしていて味のしないやつとはモノが違う。

そしてカレーが辛い! かなりガツンと来る辛さで、一気に体温が上がる。しかしむやみやたらと辛いわけではなく、すぐに更なる一口を欲してしまうウマさを秘めている。常温にもかかわらずハフハフしながら一気に食べてしまいたくなるのだ。



辛さに舌が慣れてくるとありがたいのが、カレーに入っている大きめのアーモンド片。考えてみて欲しい。柔らかいふわふわの生地と粘性の高いカレー餡……いくらこの二つが上質であっても、そのままでは歯ごたえを欠く。その弱点を上手くカバーするのがアーモンドの程よいザクザク感。

甘い、辛い、ウマい、からのアーモンドで、なるほどなぁと感心させられる。これは30年ずっと売れ続けるわけだ。どら焼きに「インドラ」は立派すぎるだなんて失礼しました。これは間違いなくどら焼き界のインドラ、帝釈天ですわ。

試作段階ではもう少し辛さを抑えたバージョンもあったとのことだが「味がぼやけちまって」今の辛さに落ち着いたそうだ。確かに辛い! 辛いけど、度合いも質も完全に調和していてレベルが高すぎる。これがたった140円とは……価格を上げないのもこだわりなのだそうだ。



おばあさんによると、この手の変化球は「インドラ」だけでなく、過去にはお饅頭用の生地の中にタコや生姜などを練りこんで、たこ焼き風の商品を売ったこともあったのだとか。味の想像がつかないが、なかなか美味しかったそうだ。

売るのをやめてしまった理由を聞くと「タレのレシピをうっかり忘れちゃったの」と、ケラケラと笑いながら答えてくれた。冗談か否か、踏み込むのは野暮というものだろう。さてさて、「インドラ」の完成度の高さからするに、間違いなくこの「船橋家」で食べるべきは「インドラ」だけではないはず


・モンブランへのパッション

他にも何かストーリーってありますか? と聞くと、出てきたのが「ホワイトモンブラン(140円)」。いちごを餡子で包み、さらにその外側を薄くホワイトチョコレートでコーティングした一品。季節限定の商品で、名前は言わずもがな、アルプス最高峰のモンブランからとったもの。

「ホワイトモンブラン」も「インドラ」と同じく昭和60年生まれで、作ったきっかけはずばり


おじいさん「どうしてもモンブランに行きたかった……でも行けないから!」


狭い場所が苦手で、飛行機に長時間乗るのは無理だというおじいさん。そこでモンブランへの思いをお菓子で表現したそうだ。「ホワイトモンブラン」の真ん中の真っ赤ないちごは「俺のパッション」なのだとか。こちらも1つ購入したが、すっげぇウマいぞ! 



いちごに餡子にホワイトチョコレートだなんて、めちゃくちゃ甘そうにしか思えない……が、甘さはめっちゃ控え目。3層全ての味が脅威のハーモニーの果てに合体して、とにかくすっきりした甘さの、新しい味に進化するのだ。しかも後味がさっぱりしまくっていて、魔法のように一瞬で過ぎ去っていく。

まさに匠の技というヤツなのだろう。これはきっと、筆者なんかよりも繊細な舌をお持ちであろう、読者の皆さん自ら体験すべき味。ホワイトチョコと餡子といちごの味だと思って食べたら、全部が消えて、よくわからないがとにかくウマい、新しい味になって消えたのだ。半端ねぇ……

そんなこんなで、気づいたら30分ほど話し込んでしまっていた、牛込神楽坂の「船橋家」。「インドラ」のインパクトが強烈過ぎて、当初はそれだけが目的だったのだが……いやいや、このお店は多分何食ってもめちゃくちゃウマいんじゃないだろうか? 今回初めて知った方も、ネットで見て面白そうと思っていた方も是非足を運んでみて欲しい!


・今回訪れたお店の情報

店名 船橋家
住所 東京都新宿区納戸町15
営業時間 8:00~19:30頃
定休日 日曜日、祝日

Report:江川資具
Photo:RocketNews24.

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日本、〒162-0837 東京都新宿区納戸町15