言うまでもなく、ルノアールは古き良き日本の喫茶店文化を継承するチェーン店である。カフェやファストコーヒー店にはない、落ち着いた雰囲気と美味しいコーヒーを提供するお店として、多くの街に根付いている。だが、実は少しずつではあるが、小さな変化が進行している。
全店舗(ボランタリーチェーンを除く)を対象にリニューアルが進められているのだ。古いお店でしか見ることができなかった、トイレの “アレ” もいずれなくなってしまうかもしれない。そのアレとは?
・席の大半が喫煙席
芝大門のお店は都営線大門駅A6出口を出て、通りを渡ったすぐのところにある。階段をあがった2階のお店で、総席数は84席。そのうち55席が喫煙席という、まさに喫煙者には有難いお店である。分煙ではあるものの、禁煙席との間に仕切りはないため、非喫煙者には少々居心地が悪いのかも。
ちなみに現在進行しているリニューアルは、これまでのお店のコンセプトを「大正ロマン」から「昭和モダン」へと変えるというもの。それに伴って、喫煙・禁煙の仕切りを自動ドアにして、完全分煙化を目指しているのである。このお店も、いずれそうなるだろう。
・ホットはブレンド
今回注文したのはルノアールブレンド(590円)だ。いわゆる「ホット」で、ホットコーヒーを注文する際は「ブレンドになさいますか? アメリカンになさいますか?」と尋ねられるが、大抵はブレンドのことを指している。
近年はスタバなどの台頭によって、味のしっかりとしたコーヒーを好む人が多いかもしれない。したがって、アメリカンがどんなものかを知らない人も増えているのかも。本来は浅煎りのコーヒーのことなのだが、コーヒーをお湯で薄めたものをアメリカンとして提供する喫茶店も存在している。なお、スタバではエスプレッソにお湯を注いだものをアメリカーノとして出している。
・ガラナを頼む「通」
ブレンドコーヒーをすすりながら、パソコンで作業をしていると、周りの声がBGMのように耳に入ってくる。向こうの席では、年配のサラリーマン2人が談笑しており、オリンピックがどうのという話題で盛り上がっている。その手間では、イケイケの若手実業家風情の2人が、キャバクラのお気に入りの子について、少し下品な笑いを交えて話をしていた。
1人の男はガラナを飲んでいる。ガラナが喫茶店で飲めるのは、都内でもルノアールだけかもしれない。北海道ではメジャーな飲み物だが、他県ではあまり見ることもないだろう。
・知らずのうちに無防備に
実業家風情はお互いにお気に入りの子の写真を見せ合いながら、ケタケタという笑いを繰り返している。チラっと目をやると、2人は無邪気な子どもみたいに。いや、ませた盛りの中学生男子のように、ケタケタケタケタ楽しそうだ。
その様子を一言でいうなら「無防備」。どこで誰が聞いているのかもわからないというのに、油断しきっている。これは紛れもなくルノアールマジックだろう。比較的近くに他人がいるのに、話に夢中でそのことを忘れてしまっているかのよう。雰囲気の良さから周りが見えなくなるのかも。実際、自分も時間を忘れて仕事に集中していることも、“まま” ある。
・トイレの便器の脇には
さて、作業がひと段落してトイレに立つと、便器の脇にあるものがあるのに気がついた。
それは灰皿である。陶器でできた灰皿は壁に埋め込まれており、取り外すことができないようになっている。見ると、大便器の方にも壁に灰皿。今は分煙が進み、街でも店でもそう簡単には吸えないようになってきている。このお店も昔は全席喫煙だったはずだ。その名残がトイレにまで残っているとは。
ひょっとすると、若い人にとってはこれが灰皿ではなく、ただのモノ置き台のように見えているかもしれない。いずれリニューアルの際になくなってしまうかも。できれば、喫煙におおらかだった時代の名残として、残して欲しいとは思うのだが……。
Report:ルノアール評論家 佐藤英典
Photo:Rocketnews24