今年の渋谷ハロウィンの目に余る荒れ具合が大きな波紋を呼んでいる。多くのメディアでコメンテーターの意見などが流され、本サイトでも在日アメリカ人の意見を紹介した。

では実際のところ、本場のハロウィンとはどのようなものなのだろう。また、なぜ今年の渋谷ハロウィンはこうも無法地帯と化したのか。そのあたりについて、10年弱アメリカに住んでいた筆者なりに考えてみた。

・本場のハロウィンとは

まずは「本場のハロウィン」から触れていこう。ここ数日、さまざまなメディアや一般の方が「本場のハロウィンでは~」や、それに順ずる言葉を、渋谷ハロウィンについて言及する際に発している。

ハロウィンとは、もともとケルト民族の祭事だ。しかし、現代では純粋なケルト民族のみの国家というのは存在しない。イギリスのウェールズ地方やアイルランドではケルト語派に属する言語が話されているが、扱いとしては少数言語である。

発祥こそケルトであるが、「ハロウィンで有名な場所といえば?」と聞かれて多くの人がイメージするのは、ニューヨークのヴィレッジハロウィンパレードや、ハリウッドのサンセットストリートのものだろう。

本場のハロウィンとしてメディアで具体的に紹介されるのは、ほとんどがこのどちらかの映像だと思う。中には「本場ニューヨークの」と明記してる場合すらある。ゆえに、勝手ながら本記事では、これらを本場のハロウィンとして話を進めようと思う。

・頭の中にしか存在しない

さて、この本場のハロウィンは、ここ数日で多くの日本人の口から語られた漠然とした「本場のハロウィン」と同じものなのだろうか? 筆者はそれも違うと考えている。

ここ数日の渋谷ハロウィンに関する発言内で出た「本場のハロウィン」は、多くの場合日本のハロウィンしか経験していない人の頭の中にだけ存在するというのが筆者の意見だ。

なぜなら「本場では収穫を祝う~」や「ケルトの魔除けの~」や「子供達がお菓子をもらう~」といった言葉が、多くの場合あとに続いているように感じるからである。少なくとも筆者が目や耳にした限りではこれらが常連だ。

まず現代において魔除けに熱心なケルトは珍しい存在だろう。そして、ニューヨークやハリウッドのハロウィンをイメージしながら「本場」というのであれば、収穫を祝う要素はかなり薄い。

本場で参加者が祝うのはバーで提供されるハロウィン仕様のアルコールや屋台のピザ、あるいは自慢の仮装についてだ。また、お菓子をもらって歩く子供たちの姿も、筆者が渡米した15年ほど前の時点で滅多に見なくなっていた。

お菓子と見せかけてドラッグや、当時はまだ違法だった大麻を渡す悪い大人が既に問題となっていたのだ。血縁や家族ぐるみの付き合いの家同士や、何らかの閉鎖されたコミュニティーを除き、子供たちは知らない人からお菓子をもらわない。

このように「収穫を祝ったり、魔除けをしたり、子供たちがお菓子をもらうハロウィン」は、世界的に有名なハロウィンの開催地において、少なくとも15年前の時点でレアだった

以上が、筆者が「頭の中にだけ存在する」と主張する理由である。なんなら適当にSNSでアメリカ人やケルト人を探して聞いてみるといい。例えば「Do you seriously celebrate something about the harvest? (収穫についてマジに何か祝うの?)」と。

筆者は渡米から10年弱の期間、毎年ハリウッドのハロウィンか、サンフランシスコのまた別の大きなハロウィンパレードに仮装して参加していた。その辺りについてはそこそこ詳しい方だと思う。

・本場のハロウィンの実態とは

次にニューヨークやハリウッドを本場としたなら、その実態はなんなのか。大体先に書いてしまったが、単純にコスプレなり仮装なり「普段はできない格好」をして皆で練り歩いて、他人の凝った仮装を写真を撮ったり、屋台のピザを食べたりすることだと思う。

ニューヨークのものについては、帰国前の旅行で1回しか訪れたことがない。しかし、ハリウッドの規模を大きくしたようなものだったので、そう間違っていないと思う。

例えるなら、日本の夏祭りの一般参加者と大体同じだ。とりあえず浴衣を着て、屋台で何かを食べ、花火を眺めたりするが、宗教的な思想を抱いて参加している人はごく少数で、主流ではないだろう。

・日本のハロウィンと大体同じ

この時点で皆さんはこう思われるのではないだろうか。「日本のハロウィンと変わらないじゃん」と。筆者も同意見だ。先日池ハロに参加したが、本場のハロウィンとの最大の違いはピザの屋台がなかったことである。

仮装なりコスプレなりにしても、オリジナルのゾンビやらお化けやらよくわからない怪獣やらの他に、マーベルのヒーローやスター・ウォーズのなにかしら。犬夜叉やナルト、それに初音ミクも約10年前にハリウッドでハロウィンデビューしていた。

ということで、両方をそれなりにエンジョイしている筆者的には、日本の池ハロや、川崎ハロウィンなどはかなり本場のハロウィンと同じようなものだと感じている。

・警察がなめられている

では何が渋谷ハロウィンをおかしくしたのだろうか。日本人、あるいは渋谷の人々は民度が低いから? いやいや。筆者は、法の違いと警察が実際に発揮できる執行力の違いが理由だと考えている。

民度を示すイベント後のごみの問題や、おかしな行動をする者が出るというのはどの国だろうと起きることである。現に去年、ニューヨークのハロウィンで殺人事件が起きている。

ハリウッドのハロウィンでもほぼ毎年何かしらの事件が起きる。しかし事件を起こすのは1人か、あるいは少数どうしのケンカだったり、ギャングの抗争だったりする。

今年の渋谷ハロウィンのように、あちこちでなんでもない人々が暴徒化というのは……過去にはどこかであったかもしれないが、筆者は体験したことが無い。

・路上飲酒の問題

渋谷の無秩序化の原因として筆者が注目しているのが公共の場での飲酒に関する法の違いだ。カリフォルニアでもニューヨークでも、特別な許可が下りていない限り公共の場での飲酒は禁止されている。見える形で持ち歩くことさえ違法だ。

この取り締まりは非常に厳しい。ハリウッドのハロウィンでは数ブロックおきに警察官が立っており、怪しい者は容赦なく路地に連れ込まれ、壁に両手を当てた姿勢で酒を隠し持って飲んでいないか取り調べとなる。

ゆえに路上で酒をあおりつつ集団で騒ぐということはできない。これだけで、少なくともアルコール摂取量と共にテンションも爆アゲになっていく危険な集団が、その辺の路上で発生することはない。

・警察が発揮できる執行力

次に注目したいのが、実際に警察が発揮できる執行力の差である。法律上は、日本の警察もアメリカの警察も法に反している者を遠慮なく取り締まっていいはずである。

そしてアメリカの警察は、その点においてこれ以上ないくらい徹底している。例えば、カリフォルニアで公共の場で酒を飲んでいたらどうなるか……運がよければ痛い目を見ずに留置所に送られるだろう。

しかし大抵の場合、その前にいささか物理的に痛い目を見ると思う。違反を確認した時点で彼らは本当に全力で相手を無力化しにくるのだ。例として実際に筆者がやらかして取り押さえられた時の話をしよう。

・アメリカで警察を甘く見る奴はいない

筆者はまだ18歳だったころ、夜中にこっそりスケボー禁止の公園でスケボーの練習をしていたところを捕まったことがある。その時は暗闇から飛び出してきた警官に警棒で殴られてスケボーから転落。

起き上がろうとしたところを別の警官に地面に叩き伏せられて手錠をかけられ、パトカーの中で2時間くらい説教を食らった。これはわりと普通の取り締まり手段で、最初にルールを破っていた筆者が悪いのだ。

あらゆる場面で法が全てで警察は法の番人。逆らうと絶対に後悔するシステム。よっぽどの凶悪犯でもない限り、警察に逆らうことはない。どんなイキった若者でも、ひとたび警官が来ればそれまでである。

ここで渋谷ハロウィンを見てみよう。あの軽トラがひっくり返された場面が特に有名だが、他にもパトカーを取り囲んで喧嘩を売ったり、警察官をどつく若者の動画がYouTubeにアップロードされている。

こんなことが起きるのは、日本の警察がナメられているからに他ならないと思う。また、世論も何かと警察には厳しい。おそらく、警察としても実力行使し辛いのだろう。

こうして秩序を維持する警察がナメられた状態で、公共の場でのアルコールとお祭り気分がおぞましい化学反応を起こした結果が、今年の渋谷ハロウィンだと筆者は考えている。

なお、アメリカの警察がこうも強硬なのは犯罪者が銃を所持している可能性があるからだ。しかし、渋谷ハロウィンのように既に暴徒化し、警察に攻撃的である相手を前に加減する道理はないと筆者は思うのだ。

・これ以上「渋谷ならOK」となる前に

もう一つ注目すべきは、ここまでおかしなことになっているのが渋谷だけである点だ。思い返せば、サッカーワールドカップの時にも痴漢騒ぎなど、渋谷では秩序にほころびが生じていた。

どうも若者の間で「渋谷ならOK」みたいな認識ができつつあるように思えてならない。この勘違いがこれ以上加速すれば、車がひっくり返るどころでは済まなくなるのは時間の問題だろう。

ハロウィンを禁止にしたところで意味はないと思う。渋谷に集まって騒げる理由があれば、何であれ同じことだろう。どんな状況であれ、おいそれと風紀を乱せない環境を法と警察で作ることが最善ではないだろうか。

ルールを強硬なものにしすぎるのは問題もあると思う。しかし少なくとも既に施行され、広く受け入れられているルールを守らせるということに関しては、どこまでも強硬であって良いと筆者は思うのだ。

参照元:NHK NEWS WEBSPECTRUM NEWS(英語)
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.