先立っての記事で、ハワイ沖にてカズハゴンドウとシワハイルカという異種間で生まれた交雑個体(クジライルカ)が発見されたことをお伝えした。読んでくれた方もいると思うが、これについて同個体の研究者からの見解が出ているぞ!
えっ、もう詳細が判明したのか!? 研究者たち働きすぎだろ、どれどれ……って、この個体の呼び方についてかよ!
・「ウォルフィン」はダメ
海外メディアThe Guardianによると、あのハイブリッドを研究中の学者がある1点について強く意見を述べているようだ。それはレポートの著者の1人Robin Baird氏。
“Calling it something like a wholphin doesn’t make any sense,”
(これをウォルフィンと呼ぶのは全く意味がわからない)“I think calling it a wholphin just confuses the situation more than it already is.”
(ウォルフィンと呼ぶのは、ただでさえ複雑な事態をよりややこしくするだけだと思う)
ということで、これは多くのメディアでクジライルカのことを「ウォルフィン」と呼んでいる状況についてだろうか。
・クジラとイルカの交雑という点では一緒だが……
ウォルフィンとは前の記事でも少し触れたが、英語のWhaleとDolphinを合わせた呼び方で、ハンドウイルカのメスとオキゴンドウのオスの交雑によるもの。現在はハワイのシーライフパークでのみ見ることが出来る。
確かにウォルフィンも、今回発見されたクジライルカ同様に名前だけ見ればクジラとイルカの交雑。多くのメディアが「ハワイで野性のウォルフィン発見」や「新種のウォルフィン発見」的なニュアンスで報道する気持ちもわかる。
ではなぜウォルフィンでは駄目なのだろうか。それは、カズハゴンドウが実はイルカだから……いや、正確にはマイルカ科だからだろうか? しかしそれだとウォルフィンの両親もマイルカ科だぞ……?
・マイルカ科
まず、イルカとクジラはどちらもクジラ目に属する。そこから更に、ヒゲクジラ亜目とハクジラ亜目にわかれ、ハクジラ亜科の中にマイルカ科がある。このマイルカ科に含まれる種は多く、今回のシワハイルカとカズハゴンドウもこのマイルカ科だ。
どちらもマイルカ科だから、今回新しく発見された交雑個体をウォルフィンと呼ぶのは間違い……という単純な話ではない。Baird氏も言っている通りこれは「複雑な事態」なのだ。
結論から言うと、クジライルカはウォルフィンの場合とは全く違う種を親とする異種間の交雑。当然ウォルフィンとは種として別の存在、いや、そもそも種とするかについてすら未定だ。
・種ってなんだろう
この辺の事情については、まず「種」という言葉の認識について触れる必要がある。とはいっても別に難しいことではなく、分類学上で「何の種とされているか」というだけ。学名を調べた際に種を意味する “Species” や、 “sp.” という表記があると思うが、その部分が全てであり、これが同じ生物のみが「同じ種」なのだ。
今回の当事者ならぬ当事生物であるカズハゴンドウとシワハイルカだと、カズハゴンドウはその名前と同じカズハゴンドウという種、そしてシワハイルカもシワハイルカという種。つまり、両者は完全に別種の存在なのだ。
それを、科までが同じというだけでこれを同種として扱ってしまうのは実にマズい。分類学上は、我々とゴリラとチンパンジーを全部同種とするようなものである。どれも非常に近くはあるが、違う種に振り分けられている以上は文字通り全く別種と受け止めよう。
また、以前の記事のコメントで頂いた『クジラとイルカの違いは大きさだけ』というご指摘については、特に和名命名法ということについてであれば概ね正解だ。もちろんサイズだけが判別条件ではなく、外見に生態、骨格の特徴、噴気孔の数や、最近では塩基配列による結果も影響する。
特に塩基配列による分類は、外見や生態からは分からない違いまではっきりするため、体のサイズ以上に明確に種を特定する理由になっている。
それでもクジラ目の分類はとても難しいため、今後の科学の進歩に伴って振り分け方が変わることもあるかもしれない。しかし、現在振り分けられている種が違う以上、異種間での交雑というのが正しい。
なお、例えばクロダイが地域や成長度合いによって、カイズだったりチヌだったりと呼び名が変わる的な、そういうローカルな名前や扱いの変化についてはここでは一切考慮しないぞ。
ということで、クジライルカが本当に異種間の交雑によるものということは、なんとなく納得していただけただろうか? そうであるととても嬉しいが、そうでなくても次のページで他のコメントと合わせてさらに踏み込んでいくのでついて来て欲しい!
参照元:The Guardian、Cascadia Research Collective
執筆:江川資具
Photo:Wikimedia Commons(1、2、3)