・「汚部屋」と有名な外国人留学生の部屋にあった『世界で1番美しいもの』(その3)
2人の後を追ってたどり着いたのは同じアパートの別の部屋だった。チャイムを押すとまた別のパキスタン人留学生が登場。ニコニコした人懐っこい笑顔。タルハ君っていうんだって。
そのスマイルに導かれて部屋に入ると、早くもキッチンではアハマド君が料理していた。
作っているのはナンっぽい。しかし、アハマド君に聞くと「チャパティ」との答えが返ってきた。私の知っているチャパティはもっと薄くパリパリでセンベエのような感じなのだが、彼らの作るチャパティはふわっとしている。
・ガスコンロの意外な使い方
作り方を見てみると、まず、水を混ぜた小麦粉を団子にし、ローラーでクレープのように薄く伸ばした後、フライパンで焼く。そして、少し焼き色がついたところで、コンロの火で直接あぶる感じだ。
・急展開
あぶると膨らんでくるチャパティ。アハマド君が焼き、タルハ君は完成したチャパティを皿に手際よく移していく。朝はこれを作って食べ、夜はカレーとライスを食べるのだという。コンビニとかで出来合いのものを買うことはないらしい。お料理男子やなあ。と、その時! 突然ドアが開いた!!
入って来たのは、これまた初対面のパキスタン人留学生! と同時に奥の部屋からも1人出てきたァァァアアア!! 狭いダイニングに気づけば4人のパキスタン人がひしめき合う状況に。
奥にいたのはラザ君、新加入の方はゼビ君。低い声でゆったり話すラザ君はどことなく『クレヨンしんちゃん』のボーちゃんみたいだ。なんか癒されるわあ……と、その時、再び開く扉!
また新キャラキターーーーーーーー!!
「しゃちょー!」とアハマド君。どうやらアハマド君の叔父さんのようだ。確かに、留学生たちより結構年上っぽい……? って、めっちゃ笑顔やな!
なお、なぜ彼が「しゃちょー」と呼ばれているのかは謎だ。本名はアザールとのことだが、みんな「しゃちょー」と呼んでいるため、私も「しゃちょー」と呼ぶことにする。それはさて置き……
人口密度ヤヴァくない? どちらかと言うと人見知りでパーソナルスペース広めな私。だが、今はそのスペースがパキスタン人で埋まっている。
でも、なぜだろう? 嫌な感じは全くしない。むしろ、なんだか楽しい。今日が特別な日になったみたいだ。食事のために、ひと部屋にこんなに人が集まったのって小学校低学年の頃の誕生日会以来かもしれない。遠い記憶の優しい世界……あれ? 目から水が……。
そんな私に出来立てほやほやのチャパティをくれるアハマド君。アハマド、マジイケメン。皿に盛られた野菜入りのマッシュポテトにつける食べ方を教えてくれた。スパイスが目に沁みやがる。
・ファミリー感
そこにヤストゥール君が帰ってきてメンバーが全員集合。部屋に敷物を敷いて、その上に料理を置き、周りに車座に座る。匂い立つファミリー感。
チャパティは基本的には、前述のマッシュポテトか、レモンやマンゴーの漬けもの「アチャール」で食べているようだ。このアチャールがまた酸っぱい味でチャパティによく合う。
しかしながら、アチャールの汁はサラサラすぎて、固めのチャパティにつけるのが意外と難しい。私の慣れない手つきを見てか、ラザ君がアチャールをつけたチャパティを手渡してくれた。良いヤツすぎか! ウマイよ!!
・友達
イケメンなアハマドと、シャイなヤストゥール、ひょうきんなタルハ、優しいラザに空気を読むゼビ、そしてみんなのおじさん・しゃちょー。肩を寄せ合って食べる昼食。手が届かないものは声をかけて取ってもらう。1人では味わえない味がそこにはあった。これが……と・も・だ・ち……!
・夢
しかし、それにしてもこの人数には狭すぎる東京のアパートの一室。みんななぜ日本にやって来ようと思ったのだろうか? 将来の夢を聞いてみた。
アハマド「車のエンジニアになりたい」
タルハ「車のエンジニアになりたい」
ラザ「車のエンジニア」
ザビ「車」
ヤストゥール「クルマ」
──自動車の専門学校かよ! そう言えば、ギニア人留学生のタリべ君も将来の夢を以下のように語っていたっけ。
タリべ「本当はサッカー選手になりたかったけど、もう26歳だし、今の夢は車のナンバープレートの会社をギニアで立ち上げて日本と取引をすること。日本に来る前に働いてたのがそういう会社だったんだけど、潰れちゃったから自分でやろうと思った」
──そう、ギニア人留学生の夢もまた車だったのだ。車の何がそこまでみんなを駆り立てるのか? この質問にはタルハが答えてくれた。
タルハ「日本の車は……夢ですから」
──日本の車SUGEEEEEEEEE! と同時に、そんな夢のために20代前半で海を渡って日本にいるみんなの勇気と決断は尊敬に値すると思った。みんなスゲーよ。本当に。
汚部屋を訪問するつもりだった本企画。
しかし、そこにあったのはゴミなどではなく……
キラめくような夢と希望と……
真っすぐな眼差し。
そんな彼らの眼差しを私は世界で1番美しいと思った。
我々は決して忘れない。
みんなで食べたあの味を……
我々を家族のように迎えてくれたあの温かさを……
そして何よりもまぶしい彼らの笑顔を。
──私もまた彼らのように笑うことができるだろうか? どこかに置き忘れてしまった真っすぐな眼差しを取り戻すことはできるだろうか? 小さくなる背中に問いかけても、その声は電車の音にかき消された。
平成最後の夏、大切なことを思い出させてくれてありがとう。日本に来てくれてありがとう。彼らの夢に幸あれ!
取材協力:ホツマインターナショナルスクール
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
シリーズ「外国人留学生が行く」
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▼後編