なぜ日本の会社は、女性の妊娠出産を恐れるのか。妊娠・出産を機にキャリアが閉ざされる「マミートラック」問題。さらに最近ではある保育園での「妊娠の順番」なんてニュースも話題になった。
もちろん子供が生まれるのは喜ばしいことではあるが、「働く」という観点で見るとまるで絶望しかないみたい。新卒のときこんな話聞いてねえ! でもこれが現実。
……という話を中国人にしたところ、ちょっと驚いた様子でこう返されてしまった。中国は全然違うのだという。むしろ「若い新人よりも、子供がいる女性の方が就職に有利。職場でも不利にならない」のだとか。日本では考えられないんですけど……一体どういうことなの?
・中国では子供がいても仕事で不利にならない? なんで?
そんな話をしてくれたのは1児の母であり、現地の企業でバリバリ働く中国人Aさんだ。学生時代から様々な資格にチャレンジし、日本での就労経験もあり。キャリアアップのために何度か転職しており、私はそんな彼女をなかなかの野心家だと思っている。
さて、なぜ子持ちの女性が新卒より就職に有利なのか? 職場でも煙たがられないのか? Aさんが言うにはこういうことだった。
Aさん「だって妊娠出産する年齢なら、ほとんどの場合、社会経験があるでしょう? まずそこ。そして、何より子供がいるから責任感も強くなる。もちろん仕事に対しても。職場で嫌がられる理由はないよ」
Aさん「あと中国は長く1人っ子政策だったというのもあるね。子供は1人が当たり前だし、いまの子育て世代は1人の子に全力を注ぎたいと考える人が多くて、2人以上欲しいって人は少ない。つまり、子供がいるということは人生のステージの変化が少なくて、安定してる。
中国では転職は珍しいことではないけど、やっぱり会社としては優秀な人には辞めてほしくないでしょ? 責任感があって生活が安定に向かっている人材は魅力があるなぁ。子供がいるからって仕事や就職に不利ということはないよ。むしろ新卒より有利なくらい」
──とのことだった。
一部、中国ならではの事情も絡んできてはいるものの、「子供がいるから○○できない」ではなく、「責任感が強くなる」とポジティブにとらえられる点は、素直に羨ましい限りだ。
・働いている間、子供はどうしてるの?
出産前と変わらず働き、ガッツリ昇進もして、でも育児は一体どうしているのだろうか? そこで「両親が働いている間、子供はどうするの?」と聞いたところ、
Aさん「おじいちゃんやおばあちゃんが面倒を見てくれるから大丈夫」
それも中国あるあるだね……。共産主義の中国では、そもそも夫婦共働きが超当たり前。そういう社会ができがっているため、子育ての大半を祖父母が担うというのも割と一般的。
それだけ聞くと、結局じーちゃんばーちゃんに頼ってるのかよ……と思われるかもしれないが、両親以外が育児を担うが当たり前なので、3才児神話もないに等しい。母親がフルで働いていても「子供がかわいそう」という風潮でもなければ、罪悪感を感じるような話でもないという。
・日本が羨ましい点もある
これはAさんのケースであり、全ての中国の企業や中国で働く人が同じ状況ではないだろう。ただ、他の知り合いにも聞いてみたが概ね同じような話をしており、聞く限り妊娠・出産・育児が大きな壁になるような印象はなかった。
自分も働いていて1才の娘がいる身としては「いいなー」と思う限りだが、Aさんは中国の育児環境が必ずしもいいとは限らないとも話している。
Aさん「日本の方がいいところもあるよ。たとえば育休は1年取れるんでしょう? 延長もできるとも聞いた。でも中国はそんなに長く取れない。私は5カ月で復帰しなきゃらなかった」
Aさん「それに学校の問題もある。中国には都市戸籍と農村戸籍があるでしょう? 実際に都市に住んでいても親が農村戸籍だったら子供は都市の小学校には入れない。入るために複雑な手続きが必要。日本は、住民票のある地域の小学校に自動的に入れるんでしょう? 本当に羨ましい」
と話していた。
先々まで考えると、どちらが「いい」「悪い」では片づけられないようだ。しかし外国の状況を聞くと「足りない部分」を知ることができる。互いに学ぶところがあるのではないだろうか。
執筆:沢井メグ
イラスト:マミヤ狂四郎
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]