全国各地を転々としながら、人間離れした技を華麗に披露するサーカス団員。厳しいトレーニングを積み重ねて常に芸を磨き続けている彼らは、まさに芸術家そのものである。ド迫力の生パフォーマンスに夢中になるのは、アーティストの努力と勇気が伝わるからだろう。
そんなサーカス団員にも当然プライベートはある。数カ月おきに引っ越しを繰り返す彼らの私生活は、ステージ以上にドラマチックだったりするのだ……というわけで今回は、元団員の筆者が「サーカス団員の恋愛事情」について詳しく紹介したいと思う。
・11年間で引っ越し50回
大学卒業後に新卒入社でサーカスに入団した筆者は、11年間の団員生活の中で引っ越しを50回経験した。数ある職種の中でも転勤回数はMAXの職業と言えるだろう。2~3カ月おきに新生活が始まるのは刺激的だが、好きな人ができる度に自分の運命を呪いたくなったものだ。
・サーカスマジック
一目惚れという例外はあるが、基本的に「人を好きになる」のは出会ってから多少の時間が必要である。たとえば新しい土地にやってきた初日に、神がかり的に「タイプの人」に出会ったとしても、連絡先を交換して食事に誘ってデートに行くという恋愛発展期間は絶対に必要だ。正直2カ月は短い。
ただ、勝負を焦ると「サーカスの人、必死なんですけど」と思われてゲームセット。引っ越し日を意識したら、奇跡的に訪れた恋のチャンスを逃してしまうのだ。逆に、相手が別れを意識し始めたら、2人の恋愛成就率はグンと上がる……ような気がする。
もちろん見事に玉砕するパターンもあるが、多くの団員は、告白の成功率が1%でも上がる「卒業式の前」的な空気(サーカスマジックと呼んでいる)の中で、自分の気持ちを告白していた。成就してもしなくても、誰かを好きになった土地は忘れられないものである。それだけチャンスは少ないのだ。
・ベテラン団員
しかし団員生活が長くなると、チャンスが少ない分、見切り発車ぎみにアタックしてしまうパターンも多い。たとえOKだったとしても、付き合うまでの期間が短いうえに、遠距離恋愛はかなりハード。ベテラン団員と恋人との遠距離に対する感覚のズレも激しいため、信頼関係を築くには時間がかかるのだ。
・団員同士パターン
一方、長続きするのは団員同士で恋愛するパターン。仕事もプライベートも一緒なので恋愛関係に発展しやすい。別れた時の気まずさは異常だが、団員同士の結婚は多く、夫婦や親子が共演する芸もあったりする。伝統芸は社内恋愛からも受け継がれていくのだ。
危険と隣り合わせのステージで輝きを放っている団員たちの恋愛は、社内でも社外でもまさに必死。スリリングなプライベートも、芸を磨くためには必要なのかもしれない。新しい感想も生まれると思うので、機会があればぜひサーカス会場へ足を運んでいただきたい。
Report:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.