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甲殻類の王者である蟹。そんな蟹もビビって後ずさりするレベルの海老が四ツ谷にいる。四ツ谷三丁目にあるそば屋『つぼみ屋』の「大海老そば」の海老だ。丼をまたぐその姿は威風堂々。もはや「超・海老そば」と言っても過言ではない。

・よく晴れた昼下がり

ウマいそば屋を求めて色んな街を放浪する「立ちそば放浪記」。今回は、そんな海老と私(中澤)との出会いの物語を聞いていただこう。あれは、よく晴れた日の昼下がりのことだった──

・目当ての店が閉まってた

ちくしょォォォオオオ!」。私が真昼間からそう叫んだ理由は2つある。1つは、全然彼女ができないこと。もう一方は、目当ての四ツ谷の立ちそば屋が閉店していたことだ。私の人生、踏んだり蹴ったりか。SNSで病んだ投稿してる人より、多分私の方が人生ウマくいってない。

とりあえず、昼を食べて出直そう。そう思った私は、『つぼみ屋』というそば屋に入った。ここに入った理由は100個あるが、かいつまんでお伝えすると「目の前にあったから」だ。
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・傷だらけを抱きしめて

店内の券売機で一番上の項目にあった「大海老そば(580円)」の食券を購入。カウンターで「かけ」をお願いした。なんでも良かったのだ。傷だらけのこの心を温めてくれるなら。
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・超海老天そば

やがて、運ばれてきた「大海老そば」。その海老に私は衝撃を受けた。丼に収まりきらずまたぐように横たわる雄大な姿。なんなら丼から突き出している。まるで海にかかる大きな橋。
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その姿は、自信に満ち溢れているように見えた。私も、こいつくらい自信をもって生きられたらなあ……。その時、謎の声が聞こえた。「私を食え」と!

・声の主の正体は

──なっ……なんだこの声は!?

???「私は海老のタイガーだ。今貴様の脳内に直接話しかけている」
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──海老だって? 目の前の海老が私に話しかけているというのか……!

タイガー「そうだ。私は海老だ。訳あって今はこんな姿になっている。悩める青年よ……私を食え」

──でも……おいら話しかけてくるお前を食べられない……。

タイガー「優しいな。だが、私のこのザマを見ればわかるだろう? 所詮この世は弱肉強食。そして、貴様は強者だ。なにせ、“残虐非道” と言われた海老の帝王、このタイガーを食べるのだからな。自信を持て。貴様は強い

──分かったよタイガー! 誠心誠意味わわせてもらうぜ!! いただきます!

タイガー「強く生きろよ……」
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──タイガァァァァァァァアアアアアア!!! かぶりついた身はプリンと跳ね返るような弾力だった。濃い甘辛つゆが染み込んだタイガーは、悲しいかなとてもおいしい。また、海老の出汁が溶けだしたつゆの味はまさに帝王。そんなつゆが細麺にも味をつけて、箸が止まらねェェェエエエ! ウマい……ウマいよタイガー!!
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その時、私は気づいた。温かいものが私の頬を濡らしていることに。そう、私は泣いていた。やれやれ、自分が泣いていることにすら気づかなかったなんて……。
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・生きる

年を取れば取るほどに、失くしてしまった人間らしさ。大都会のネオンの中で、知らないうちに消えてしまった自分らしさ。時に流され、疲れ果てて、死にたくなったとしても、幾千幾万のタイガーがいたことを忘れてはならない。ごちそうさまでしたタイガー。おいら、強く生きるよ。

・今回紹介した店舗の情報

店名 つぼみ屋
住所 東京都新宿区四谷2−13−8
営業時間 月~木7:00~翌7:00 / 金・祝前日7:00~翌5:00 / 土・日・祝11:00~18:00
定休日 無休

Report:立ちそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼ギッシリ詰まった身に生きる気力が湧いてくる
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