1983年、互換性のない独自仕様のパソコンが次々リリースされ、混沌としていた日本のITシーンに、マイクロソフトとアスキー(現KADOKAWA傘下)が画期的な規格を提唱した。夢の共通スペックPC・MSX(エム・エス・エックス)である。
わかりやすく簡単に例えると、今で言うWindowsのような共通のOSを載せたパソコンを作りましょう。みたいな「志はすばらしい」お話。しばらくすると大手電機メーカー各社がそれぞれのMSXマシンを鳴り物入りで発売。当時は私も一台買ってしまったわけだが、盛り上がったのはほぼ一瞬。低スペックなゲームマシンという子供向けイメージが先行し、あっと言う間にすたれてしまった。
だが「志は最高だった」だけに、世間から忘れられた今も、世界中に多くの熱狂的なファンが存在し、今もMSXを讃えている。そう、カンボジアも例外ではなかった!
・マニアのなかのマニア発見!?
町で見かけた一般人をMSX信者か見分けるのは簡単なことではない。だけども、今回紹介する男は間違いなく本物。MSX原理主義者と呼んでも過言ではない。そんな面構えだった。
彼を発見したのはプノンペン中心部から20キロほど離れた国道沿い。田舎へ向かう長距離バスのたまり場だった。定員オーバーの乗り合いバンが続々と急停車し、客引きが旅客を詰め込んでゆく。そんな光景をぼんやり眺めていたときのこと……。
ん? あれは……。いやいやそんなはずは、気のせいか? いや、気のせいじゃない! 半信半疑で駆け寄ると、信じられないシャツを着た男がワゴン車から飛び降り、忙しげに客を引いていた。MSXだ!
思わず「MSXファンなのかい? 僕は東芝のパソピアIQだったけど、君は?」なんて声をかけたくなった私だが、気温35度のなか、変な外人にバチバチ写真を撮られ、男は明らかに殺気立っているようだった。
まじまじ見れば見るほどカッコ良い色合い。MSXロゴの下に刻まれた文字も日本語ではなくフランス語だ! おフランスのMSXシャツ。さすがは元植民地だね。こやつ、かなりのマニアと見た!
早速スマホで調べると、わりと速攻で原盤らしきイメージを発見。ところがである。刻まれていたフランス語のコピーをグーグル翻訳に入力しても、いまいち釈然としない訳文しか出てこない。
モチはモチ屋。そんなときは彼に聞いてみよう! 以前お世話になった「ゲーム保存協会」理事長のルドン・ジョゼフさん(フランス人)に助けを求めると、すぐに……
「仏語ですね(笑) レトロ、メパトロ。”Retro, but not too much” という意味です」
という的確な回答が届いた。日本語に訳すとさしずめ「レトロ、でもそれほどじゃない」みたいな感じなのかな?
そうこうする間にも、ワゴン車は満員の客とMSX好きの車掌を乗せ、颯爽と走り去っていった──。
参照元:MSX Village(フランス語)
Report : クーロン黒沢
Photo : Rocketnews24.
▼オマエ、こいつに用があるのか?
▼彼のシャツに目が釘付け状態
▼ジロジロ見てると「何見てんダヨ!」と睨み返された
▼去り際、男は名残惜しそうに私の姿を目で追っていた
▼私がMSX好きなことを本能的に嗅ぎとったのだろうか。