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日常で起こり得るさまざまな問題について、「法的にはどうなのか?」を、アディーレ法律事務所がお伝えする『弁護士に訊く』シリーズ。初回はいじめ問題についてです。

・いじめ問題について

川崎で起きた殺傷事件を受けて、多くの親御さんが、いじめ問題について心配していると思います。学校や警察に相談するべきところなのですが、状況をうまく説明できず、取り合ってもらえないということも考えられるでしょう。それを避けるために、「まずはやっておくべきことはありますか?」、「仮に弁護士さんに相談した場合、どう対処してもらえるのでしょうか?」という質問にお答えします。

・はじめに

いじめは重大な人権侵害。学校や友人との関わりが、ほぼ全ての生活の場となっている子どもにとって、いじめは死活問題といっても過言ではありません。適切な対応がされないままに命が絶たれてしまった痛ましい事件も後を絶たず……。いじめがあったときは、大切な子どもを守るため早期に対応をとりましょう。

・証拠集めについて

いじめがあった場合、刑事告訴や損害賠償請求も可能ですが、どのような対応をとるにせよ、事前の証拠集めが重要です。いじめはこっそりと知られないように行われることも多いので、証拠は “5W1H”、つまり、「いつ・どこで・だれが・だれに・なぜ・どのような」いじめをされたのか、客観的にわかる証拠をできるだけ多く集めることが大切です。

たとえば、怪我をしたときは、怪我の写真と診断書を取っておきます。可能であればいじめの場面を動画、写真、録音で記録したり、学校等への申入れはできる限り書面で行い、口頭のときは録音や会話内容、日時、場所、同席者などの詳細をメモで記録したりして残します。

最近多いメール・SNS・ネット等のいじめのときは、できる限りメール本体や書き込みをそのまま保存し、難しければ写真に撮って保存します。また、いじめの場面を見ていたり、同様のいじめにあったりした児童の話を書面にして証拠にすることもあります。

・法的措置について

証拠が集まったら、弁護士は代理人として学校や保護者に証拠とともにいじめの事実を伝え、いじめ再発防止の適切な指導、対応を求めて交渉します。しかし、関係者がいじめ自体を認めないことも少なくありません。そのような場合は法的措置をとる必要があります。

まず、加害児童に対して損害賠償請求を行うことが考えられます。ただ、児童が物事の是非がわからなかったり資力がなかったりすることもあるので、親権者の監督義務違反や学校の安全配慮義務違反を理由に、親や学校に損害賠償請求をするのが通常です。ただその場合、親権者や学校の対応に過失がなければいけません。

裁判では、学校には生徒の様子を把握し、「いじめ発見に努める義務」「実態調査・全容の解明義務」「いじめ防止措置義務」等があるとされています。大津市いじめ自殺事件を契機に成立したいじめ防止対策推進法でも、学校側や保護者の義務が明確にされました。しかし、いじめが認定できない、対応が不適切とはいえないなど責任を認めなかった裁判例もありますから、証拠集めと、交渉の時点からいじめの事実を把握させて対応を促すことが重要です。

また、法的強制力はないものの、いじめの隠蔽(いんぺい)があるときは学校に注意などを与える人権救済の申立てを行うことも有効な手段です。

さらに、いじめに限らず、警察が取り合ってくれないというような場合は、弁護士も警察に同行し、証拠を揃えて刑事告訴することで警察が動くケースも多々ありますので、諦めずに相談をすることをお勧めします。

・おわりに

子どもにとっていじめられていると告白することは、とてつもない勇気が必要です。後戻りできない最悪の事態になる前に、周りにいる大人は子供の小さなSOSを見逃さず、子どもの気持ちを理解し、話を聞いてあげることが大切だと思います。

そして、いじめがわかったときは、ケースごとに証拠の集め方や対応も違ってきますので、専門家に相談することも1つの手段であることを覚えておいてください。

執筆:正木裕美弁護士 アディーレ法律事務所
イラスト:Rocketnews24

▼答えてくれたのは彼女「正木裕美弁護士」だ!
masaki▲愛知県出身、愛知県弁護士会所属。男女トラブルをはじめ、ストーカー被害や薬物問題、ネット犯罪などの刑事事件、労働トラブルなどを得意分野として多く扱う。身内の医療過誤から弁護士の道へと進む。2012年には衆議院選挙に愛知7区より日本未来の党の公認候補として出馬し、「衆院選候補者ナンバーワン美女」とインターネットや夕刊紙で大きな話題を呼んだ。ブログ 「弁護士正木裕美のまっさき通信」も更新中。