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隣人との騒音に関するトラブル、誰にでも1度は身に覚えがあることだと思います。些細なことでも大きな問題に発展するケースは珍しくありません。もしも隣の住人が毎日大音量で音楽を流していたとしたら、どう対処したら良いのでしょうか? 過去の事例を踏まえて、対処方法を考えてみたいと思います。

・隣の住人が毎日大音量で音楽を流しています。どう対応すればいいの?

ご近所トラブルは、やはりあまり大ごとにしたくないと思うことが多いですよね。まずはトラブルが起きない、トラブルが起きても早急に解決ができるようご近所の方との良好な関係を築きながら、相手の立場や心情にも配慮し、トラブルの原因を作らないようにするという視点が重要です。しかし、万一トラブルが生じてしまったときは、どんどん感情のもつれが大きくなることも多いので、早めの対応が大切となります。

とはいっても、直接注意をしても効果がない、直接注意をするのはちょっと怖いこともあるでしょう。賃貸物件や集合住宅の場合、管理組合、管理会社やオーナー・大家さんに連絡をして、対応してもらうのが第一でしょう。悪質だったり、何度注意をしても改善されなかったりするケースでは、騒音を出した人の賃貸借契約が解除されることもあります。

また、管理組合は、区分所有法やマンションの管理規約に基づき、「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」をする住人がいれば必要な措置をとるよう請求できます。しかし、騒音が相談者さんとの間だけの問題にとどまっていると、対応が困難と考えられます。

戸建のときは、管理会社等がないので、直接注意をしたり、地域の自治会へ相談したりするという形になるでしょう。自治会への相談は、お住まいの地域によっては実効性の有無がわかれます。

生活音の騒音を規制する法律は現状ないのですが、東京では、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」があり、生活音でも時間帯によって音量規制があり、騒音防止の勧告や命令をすることができ、命令の違反者には罰則もあるので自治体への相談が有効です。でも、このような条例がない地域では、対応してもらえません。これらをしても改善されないと、警察や弁護士を使うことも検討せざるを得ません。

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・管理会社の対応が悪く、改善が見られない場合は誰に相談したらいいの?

管理会社や自治会に相談をしても、改善が見られないという場合は、まずは、弁護士に相談し、いつまでに何をして欲しいかなどを明確にした「内容証明郵便」を作成してもらいましょう。それでも状況が改善しない場合は、裁判を起こすこともできます。裁判所に認めてもらうことができれば、差止めや、損害賠償請求をすることも可能となります。

また、「もう我慢の限界!」ということであれば、警察に通報するのもひとつの方法ではあります。警察官が止めたにもかかわらず、人の声、楽器、ラジオなどの爆音を出して近隣に迷惑をかけると、『軽犯罪法違反』で犯罪になる可能性もあるので、確信犯だと実効性が乏しいこともありますが、反省して騒音を止めてくれることがあります。110番通報も匿名でできますので、誰が通報したのかは知られることはありません。

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・毎晩の騒音で睡眠がとれず、自律神経を悪くしてしまった。慰謝料は取れるの?

法律上、故意(わざと)や過失(不注意で)により他人の権利や法律上保護される利益を侵害すると損害賠償の支払義務を負います(民法709条、不法行為)。騒音によって健康被害を受けた場合、騒音を出した人に対して、慰謝料・治療費・転居費用等の損害賠償請求や、一定の大きさ以上の音を出さないことや騒音対策をするよう請求できる場合があります。

また、騒音被害を知っていながら適切な対応策をとってくれないマンション等の所有者に対しても、損害賠償請求ができる場合もあります。ただし、騒音被害を立証する責任があるのは被害者側なので、録音・音量の測定・経緯の記録、やりとりした書面をとっておくなど証拠集めがとても大切になってきます。

・騒音が違法かどうかの判断は?

ただ、騒音といっても、人が生活するにあたって全く音を立てないことはないですし、うるさいと感じる音の大きさは、人によって大きく異なります(神経質な方なら小さい音でも気になりますよね)。

そのため、問題の騒音が法的に違法かどうかは、「被害者の感覚でうるさいと感じるかどうか」ではなく、騒音が一般社会生活上の受忍限度(一般人が生活する上で、我慢すべき程度)を超えているかどうかで判断されます。受忍限度を超えていないと判断されると、我慢しなさいということとなり、損害賠償請求は認められないということになります。

・裁判での判断指標は?

裁判では、騒音規制法の規定に基づく指定地域の規制基準や、条例に定める騒音の規制基準以上かどうかが一つの指標とされることがあります。また、騒音の大きさ・頻度・時間帯など騒音自体の性質以外にも、騒音を立てた人が誠実に対応をしたのか、消音や防音などの対策をしたのか、その効果の有無などの事情もあわせて判断されます。

悪質な騒音ケースでは損害賠償請求が認められやすいと考えられますが、個別具体的な事情によるので、一度弁護士に相談することをお勧めします。

なお、騒音だけでなく、他の隣人トラブルとしては、鳴き声・悪臭・かみつきなどのペットトラブル、ゴミトラブル、器物損壊・汚物を投げ込まれる・あらぬうわさを立てられる・いじめなどのいやがらせ、境界トラブルもあり、法的措置がとれる場合があります。

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・また、隣人を攻撃するような騒音問題の場合はどうなるの?

まず、騒音攻撃によって他人の心身に危害を加えると傷害罪に問われ、場合によっては服役ということもあります。ワイドショーで見た布団をたたきながら「引っ越し! 引っ越し! さっさと引っ越し! しばくぞ」と言っていた声は、今でもよく覚えています。

ラジカセの大音量や大声で叫ぶ姿が何度も放映された奈良県で発生したいわゆる “騒音おばさん” の事件は、かねてから確執のあった隣人に対する報復や嫌がらせのため、約1年半にもわたって、隣の家に一番近い窓を開け、窓際にラジオや複数の目覚まし時計を置き、連日朝から深夜や翌日未明まで、ラジオや目覚まし時計の音を大音量で鳴らし続けるなどした事件でした。

最高裁まで争われたのですが、傷害罪で懲役1年の実刑判決が確定しました。なお、民事でも200万円の損害賠償請求が認められ、確定しているようです。

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・自分自身が騒音問題の加害者になってしまったら?

放っておかず、謝罪して、騒音の改善に向けた真摯かつ誠実・適切な対応を早急にするのが大切です。これをしないと、民事事件での違法な騒音かどうかの判断や慰謝料の額にマイナスに影響したり、厳しい刑事処分に問われたりすることもあります。

また、賃貸借契約が解除されてしまったり、ご近所と友好な関係を構築、維持することも難しくなってしまったりすることもあります。

例えば、子どもが騒音を出しているのであれば、しつけをするなり、他の部屋に音が響かないよう部屋や暮らし方を工夫したり、何か機械が音を出していたりするのであれば消音装置を付けるなど、騒音原因を絶つための具体的な措置を講じることが必要です。どうしても対応ができないのであれば、場合によっては転居も検討しなければいけないでしょう。

もし、全く心あたりがないことだとしても、管理会社などの第三者にも立ち会ってもらい、音量を測定する機械を使って、普通の生活音といえる問題のない音量なのか調べた上で、根拠のない請求だとハッキリさせることも必要です。問題のない音量なのに根拠のない請求がやまないような嫌がらせを受け続けるのであれば、逆にこちらから法的措置をとることも視野に入ります。

問題になっている音量がその場所で問題になりうるものかどうかは、個別的な事情が大きくかかわりますので、騒音が身に覚えのあることでも、ないことでも、対応に困ったときはまずはご相談いただくのがいいと思います。

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・隣人との騒音トラブルでの事例ってあるの?

たかが生活音と思う人もいるかもしれませんが、騒音であっても、損害賠償の支払いや刑事事件になることもあります。

例えば、マンションの上の階に住む3歳の子どもが走ったり、跳ねたり飛んだりする音が、約1年8カ月の間、ほぼ毎日響き、夜7時以降や深夜にあることもあり、下の階の住人から不眠症などの症状が出たことにつき慰謝料請求がされた裁判例があります。

上階の住人は、特に夜間や深夜に大きい音をださないよう子どもをしつけるなど住み方を工夫したり、誠意のある対応をとるのが当然かつ下の住人の切実な期待だったにもかかわらず、床にマットを引いた以上の対応はせず、静かにできないなどと下の階の要求を乱暴な言葉でつっぱねたり、不誠実な対応しかしなかったとして、騒音が受忍限度を超えていたとして、慰謝料30万円の支払いを命じました。

裁判では、慰謝料は数十万円程度になること多いのが現状です。騒音おばさんの事件では、一度目の裁判で60万円の損害賠償が認められたのですが、その後も騒音が止まず、再度損害賠償請求がなされ、こちらは200万円の損害賠償支払いが確定したそうです。

最後に、騒音おばさん事件は傷害事件でしたが、騒音トラブルで殺人事件にまでなってしまったケースもあります。ご近所の騒音トラブルでの殺人事件第1号として知られているのが、古いですが、1974年に発生したいわゆる「ピアノ騒音殺人事件」です。県営団地で階下の住人の子どもが弾いていたピアノの音でトラブルとなっていたのですが、子ども2人と母親が刺殺され、加害者は死刑判決を受けています。

共同住宅でも戸建でも、私たちは社会の一員として共同生活を送っています。自分勝手な行動は許されないですし、マナーを守って他者に迷惑にならない行動をしなければいけません。加害者にならないのはもちろんですが、加害者でも被害者でも、トラブルが起きてしまったときは早急に対応しましょう。

執筆:正木裕美弁護士 アディーレ法律事務所
イラスト:Rocketnews24

▼答えてくれたのは「正木裕美弁護士」
masaki

▲愛知県出身、愛知県弁護士会所属。男女トラブルをはじめ、ストーカー被害や薬物問題、ネット犯罪などの刑事事件、労働トラブルなどを得意分野として多く扱う。身内の医療過誤から弁護士の道へと進む。2012年には衆議院選挙に愛知7区より日本未来の党の公認候補として出馬し、「衆院選候補者ナンバーワン美女」とインターネットや夕刊紙で大きな話題を呼んだ。ブログ 「弁護士正木裕美のまっさき通信」も更新中。