仕事や勉強で「必要な単語」が出てきたら何をするだろうか。多くの人はメモをとるに違いない。それは必要なことだから覚えるためにすることであって、ごく自然な行為だと思う。
私が中国で日本語教師として働いていたときに、とある授業で学生たちが必ずメモをとる単語があった。その単語とは……
・「受身形」の授業で必ず出てくる例文
世界中で使われている「みんなの日本語」という教科書がある。初級の授業は50課で終わる。その第37課に出てくるのが「受身形」だ。
簡単に説明すると「れる・られる」。中国語では「被动态(被動態)」だ。「褒められました」という使い方より「叱られました」や「足を踏まれました」という「被害を受けた」例文のほうがわかりやすい。
ここで学習者に例文を作ってもらうと、必ずといっていいほど次のような例文が出てくる。それは、「泥棒に携帯電話をとられました」。
・余計なことを説明する日本語教師
ここで私は脱線し、泥棒について詳しく説明することにしていた。泥棒と言ってもいろいろな種類がある。たとえば「ひったくり」。後ろからバイクや自転車で近づいてきてカバンを盗んでいく泥棒だ。
ジェスチャーも交えながら黒板やホワイトボードにそれらの単語を書いていく。「ひったくり → かばん」「銀行強盗 → 銀行のお金」などなど。このあたりは学習者たちも笑って冗談を言い合ったりしているのだが、「スリ → 携帯電話、財布」と書くと全員が一斉にメモを取るのだ。
それほどまでに必要な単語である「スリ」。日本で生活をしていると、そこまで必要には感じられない単語だと思う。
・スリの被害話が続出する授業
「スリ」という単語を教えたあとに学習者同士で会話をしてもらうと、「私はスリに携帯電話を盗まれました」「私も去年盗まれました」とスリの被害の話がバンバン出てくるのだ。
盗まれたことがない学習者がいると全員がビックリするぐらい「当たり前のように経験していること」だった。
私が「スリはどこにいますか?」と質問すると、「バスにいます」「地下鉄にいます」「人民広場にいます」「どこでもいます」と普段全然話さない学習者までもが食い気味に答えてきた。
中国にスリは多いと聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。みなさんも中国に行くときはくれぐれも注意して欲しい。「スリ」は「どこにでもいる」のだから……。
執筆:ポンコツ
Photo:RocketNews24.