私の名前は褌シメタロウ。日々些細な出来事について、深く思いを巡らして、有限な時間をムダに過ごしてしまいがちな男である。
人は誰しも、人生に3度「モテ期」が来ると言われている。多くの人が学生時代に1度や2度、それを体感したことがあるらしい。社会人になって再びチヤホヤされる時期を迎えるのだとか。1度も味わったことがないまま、人生のおおむね半分を経過してしまった場合はどうすればいいのだろうか? そんな切ない人生を歩む男たちが、「モテ期」について真剣に話し合った。
・貴様、「モテ期」を知っているのか
それはある日の飲み会でのことだった。気心の知れたA氏とT氏と共に、いつもの激安居酒屋で飲んでいると、突然A氏がこんなことを言い始めたのである。
A氏 「お前ら「モテ期」って聞いたことあるだろ」
我々がその言葉を意識するような歳ではない。30代も後半にさしかかり、この歳こいて「彼女」という言葉を使うことさえもはばかられるくらいだ。普通は「家内」とか「ワイフ」とか言っていなくてはならないのに、なぜ今さらモテ期などいう言葉を持ち出したのだろうか。私は2杯目のビールに口をつけて、次の言葉を待った。
A氏 「普通の人間には、3度もモテ期が来るらしい。お前たち、1度や2度は経験したのか?」
T氏 「あったと思う。大学のときくらいに」
A氏 「ナニッ?」
・貴様、「モテ期」を使いきっているな?
T氏の言葉はよほど意外だったらしく、A氏は飲みかけのジョッキを机に叩きつけるように置いて、前のめりになってT氏の話に耳をそばだてた。T氏が言うには、その当時彼女がいたそうなのだが、それとは別に2~3人から交際の申し込みを受けたそうだ。彼はイケメンという訳ではないのだが、可もなく不可もない顔立ち、中肉中背でそこら辺にいる並の男である。
A氏 「T、じゃあお前も1度目のモテ期が終了して、残りが2回ということになるな」
T氏 「は? そんなことを言えば、環境が変わるたびにそんなようなことはあったよ。高校のときとか就職のときとか」
A氏 「つまり、お前はもうモテ期を使いきったんだな」
T氏 「お前ナニ言ってんだよ! 大丈夫か?」
・貴様の「モテ期」は残り30回だと!?
A氏の理屈によると、モテ期とはゲームで言うところのライフのようなものだ。モテ期に遭遇すると、1つライフを消費するという考え方で、1度もモテ期が到来していないA氏は、残り3度のモテ期をストックしていると考えているらしい。
モテ期未経験のA氏は、最初こそT氏のモテ期経験に悔しそうな顔をしていたのだが、自分にストックがあるとわかると、勝ち誇った顔をし出した。そこで今度は私に話題を振ったのである。「褌、お前はどうだ?」と。
褌 「俺? 俺の備蓄は30くらいあるぞ」
A氏 「ナニッ! そんなにモテ期を温存してるのか! するとこの先30回もモテ期が到来する予定なのか!?」
さっきまで勝ち誇っていたA氏の顔に朱がさし、歯ぎしりせんばかりのイラ立ちを募らせている。だが、一口にジョッキのビールを煽ると、不意に興奮が収まったらしく、まるで手のひらを返したように、こう懇願してきたのだ。
A氏 「褌、俺とお前は長い友達だよな」
褌 「ああ」
A氏 「そこで頼みがある」
褌 「改まってなんだよ」
A氏 「お前のモテ期、少し分けてくれ。残り10回、いや5回でいい」
・貴様の「モテ期」を吾輩が頂く
私はA氏が好きだ。こいつがいるから、私は朗らかな気持ちで生きていける。こいつがいるから、日々の平和を感じ取ることができる。そこで感謝をこめて、私が持っていることになっているモテ期30回分を全部彼にあげることにした。A氏はこの日、感動のあまりに泣きながら家に帰ったことは言うまでもない。
友達って素晴らしい。明日も晴れるといいな……。
執筆:褌シメタロウ
イラスト:Rocketnew24