この世には、男性しか入れない場所というものがある。男性用トイレに、男風呂……。もちろん女性しか入れない逆バージョンも山ほどあるが、レンタルビデオ屋のAVコーナーは基本的には男性エリアだ。
のれんのようなビラビラの入り口をかき分け、AVコーナーへズズイと進入すると、空気がガラリと様変わりする。ある意味、戦場。だが、平和。そしてこの場にいる男性客は、なぜかみな紳士なのである。あれは一体なんなのか。
・譲り合いの精神
世の中には様々な紛争があるが、AVコーナーに争い事は皆無である。無言の「譲り合いの精神」があり、「決して他人を邪魔しない気遣い」がそこにはある。他人の真横に立ってAVを選ぶなんてことは絶対にない。絶対にだ。
・男の本能のルールがそこにはある
誰かが「特定の趣味」のコーナーを真剣に見ており、もしも自分と趣味が合致していても、先駆者が選び終わるまでは決してその場に立ち入らない。誰に教わったわけでもないが、男の本能のルールがそこにはある。
・ハンターでもありシェフでもある戦士
なぜ他人の邪魔をしないのか。それは、皆が真剣だからである。瞳がマジすぎるからである。獲物を狙うハンターでもあり、最高の食材を選ぶシェフでもあり、地雷を避ける戦士でもある。そんな瞳だ。野獣の瞳といっても過言ではない。
・争い事はない
あまりにも夢中かつ真剣にAV作品の選考に集中しすぎて、他人とぶつかってしまったとする。だが、「なんだコラ!」なんて言う無法者は、ここにはいない。「あっ、すみません」、「失敬」で大団円。実に礼儀正しいのである。
・無法者の乱入にも動じないのが紳士
たまに、「ギャハハ」と騒ぎながら選ぶ若者軍団や、冷やかしで入ってくる若者カップルなどもいたりするが、決してAVコーナーの紳士たちは動じない。心の底では「早く消えろ」と思っているが、決して動揺はしないのである。
・全世界をAVコーナーに……
人と人が集まれば、必ずや争い事が生じる。だが、AVコーナーにはそれがない。むしろ普通の生活よりも、紳士的にふるまえる。となると、「全世界をAVコーナーにしたら世界平和になる」と考えがちだが、私はそうは思わない。
・アダルトだから紳士なのではない
たとえば、『ドン・キホーテ』のアダルトコーナー。AVというかアダルトグッズのコーナーだが、紳士な空気は皆無である。レンタルではなく、販売用のAVが山ほど置いてあるショップも、そこまで紳士的な空気は感じない。空気が「荒れている」のだ。
・島国だからサムライなのだ
広げすぎると、きっとああなる。大陸続きだと、国境も曖昧になる。「レンタルビデオ屋」という広い世界の、「AVコーナー」という島国だからこそ、侍のような礼節を重んじる文化が生まれるのだ。そう、レンタルビデオ屋のAVコーナーは「サムライコーナー」なのである。
執筆:GO羽鳥
GOさんのシリーズコラム『あれは一体なんなのか。』
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