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シリーズインタビュー『路上の哲学』。100年に1度の不況と叫ばれる中、世の中では一体何が起きているのか。路(みち)の上から見える世の中や社会を、そこに立つ人の言葉を通して垣間見るインタビューです。

以前、『渋谷駅前で朝礼を行う会社』を紹介したところ、『新宿駅で毎朝チアリーディングをする女性』がいるという情報が寄せられた。記者は早速、新宿駅にその女性を捜しに出掛けた。平日の朝8時50分前後、駅西口の『思い出横丁』にほど近い、丸の内線の出入り口付近。確かにチアリーディングする一人の女性がいる。早速インタビューをお願いした。実は以前ご紹介した、渋谷で朝礼をする株式会社情熱の水野社長とお知り合いということだった。

彼女は『ニッポンのビジネスマンを応援する』というテーマを掲げて、チアリーディングをする『全日本女子チア部☆』のサイトウアヤさんである。チアリーディングを始められた経緯とその想いを伺った。

1、新宿駅前でチアリーディングを始められたきっかけについて、教えて頂けますか?

きっかけはいろいろあるんですが、一番大きなきっかけになったのは、水野社長との出会いです。6月に水野社長が『1500人で夢を叫ぶ』というイベントを開催された時に、毎朝立川の駅前で演説をしていました。私はその時、ビラ配りをお手伝いしたんです。毎朝の演説の結果、イベントは1500人近い動員を集め、大成功しました。水野社長の「自分の足で、誰もやっていないやり方で、人に情熱を伝える」その姿を目の当たりにして、私も「私らしい方法で何かを始めなければ」と思いました。そこで、その方法として思いついたのが、ダンスだったんです。

私は、『紫ベビードール』というダンスパフォーマンス集団に参加していて、活動を始めて7年になります。ダンスを観て頂いたお客さんに、「元気をもらったよ」「今日来て良かった、ありがとう」って、本当に幸せそうな笑顔で言ってもらえることがあります。そういう時、ちょっとはその人のお役に立てたかもって思うんです。

普段イベントに来て頂ける方は、エンターテイメントを愉しむ場を知ってると思うんですけど、会社と家の往復で、そういう愉しみを知らない人にこそ、エンターテイメントが必要なんじゃないかって気付いたんです。ダンスをすることが、私らしい方法じゃないかと思ったんです。それで、「日本のビジネスマンを応援するチアガールをやろう!」と閃きました。

やろうと思ったのは、このアイディアを閃いてから、結構早かったんですけど、なかなか行動に移せなかったんですよね。「警察に捕まるんじゃないか?」とか「どこで着替えたらいいんだろう?」とか「朝は眠いしなあ」「恥ずかしいし」とか、やらない理由ばかり考えていました。これではいけないと思い、このアイディアをあるビジネスコンペに企画として提出して、その時にプレゼンの席で「8月1日からやります!」と宣言しました。出来るかどうかは、分からなかったんですけど、とにかく始めてみようと思い、8月1日から始めて、今までやっています。

2、なぜビジネスマンを応援しているんですか?

自分らしい方法で、誰かの役に立ちたいんです。

私は以前、広告会社に勤めていました。新しいことを提案したくて広告のプランナーになったつもりだったんですが、上司に「そんなこと求めてない」と言われている内に、いつの間にか極力しゃべらないようにしている自分になっていました。私はダメ社員だったんです。今思えば、あの時もうちょっとだけ勇気を出して、「私、こう思うんです」「分からないから教えて下さい」とか言えていたら、ダメ社員なりにも、もうちょっと会社や社会の役に立てたんじゃないかと思うんです。伝えた方が自分にも周りにもメリットがあるのに、言葉にして言えなかった。行動で示すことが出来なかったんです。「言われたことだけやっていればいい」と言われて、反論さえ出来ない自分だったんです。伝えようという気力すら失っていました。

だから私は、今の活動で、やろうと思ってなかなか一歩を踏み出せない人の『勇気』や『元気』になれたらと思い、毎朝通勤途中のビジネスマンを応援しています。だって、はっきり言ってすごくバカバカしいじゃないですか。駅前で1人で応援してるって(笑)。ホント、捨て身です。でも、そんな私の姿を見て、あんな方法で挑戦してるヤツがいるって知ってもらえたら、見掛けた人が何かに踏み切る『勇気』になるんじゃないかと思っています。だから、このチア部は「バカバカしさ」を見せるエンターテイメントなんだと思っています。「バカバカしさ」で見る人のお役に立ちたいです。

3、チアリーディングをしていて遭遇した特別な経験はありますか?

続けていると、結構毎回観に来てくれる方とかいらっしゃいます。夏に始めたんですけど、いつもニコニコして観てくれているおじさんがいたんですね。夏はシャツを着て、いつも気楽な格好をしていらっしゃる方だったんですけど、秋になったある日、バシッ!とスーツで現れたんです。その方、実はビルメンテナンスの会社の社長さんだったんですね。それでお声を掛けて頂いて、私の活動が面白いから何か一緒にやらないかと、お誘い頂いたんです。私、元々広告代理店に居たのもあって、何でも企画するのが大好きなんですけど、そのことをお伝えしたら、ショッピングモールのプランニングのお話を頂きました。

また、あるおじさんがいらっしゃって、いつも観に来て頂いていたんですけど、ある日、突然声を掛けられて「お付き合いしてください!」って真剣に言われました。お気持ちは嬉しかったんですけど、丁重にお断りさせて頂きました。あまりにも唐突でビックリしましたね。

4、活動をしていて、良かったと思うことは何ですか?

そうですね。ごく稀に物をもらうことがあるんですけど。初めて頂いたご祝儀がホームパイ2個でした(笑)。私より少し年上の女性が、「コレ、食べて」って手を握って渡してくれました。別の時には、女性から『夢あきらめないでね』と書かれたポチ袋でご祝儀をいただいたこともあります。

今まで、通行する方やご近所の方に、1度も怒られたことないんですよね。皆さん割と温かく接して頂いて。こんなに訳の分からない活動をしているのに、出逢う方々に温かく接して頂けることが有難いですね。やり始める前は、警察に捕まるんじゃないかと本気で心配していたのに(笑)。活動を続けられること自体が、良かったと思っています。

5、今後の活動の展望について教えてください

今はまだ1人ですが、今後はメンバーを増やして行きたいと思います。朝、会社に行く途中、働きに出掛けて行く全ての人に応援を贈るチアリーディングのチームが大勢居たら、きっと仕事に出掛けるのも楽しくなると思います。少しずつメンバーが増えて行けばいいなって思っています。ひょっとしたら1年後も1人かも知れません。でも、それでもいいんです。私は『全日本女子チア部☆』の活動を続けて、明日の日本を元気にしたいと願っています。

記者が取材している間に、通りすがりのおばちゃんが、記者を関係者と勘違いして声を掛けて来た。「あの子、今日もいるね。しばらく観なかったから、心配しちゃった」。サイトウさんが捻挫でお休みしている間にも、チア部の応援を楽しみにしている人が、ここにもいた。何百、何千という数の人が、朝の新宿駅を素通りして行くが、『全日本女子チア部☆』の活動に元気をもらっている人は少なくないようだ。

<全日本女子チア部☆>:毎週月~金曜日 新宿駅西口 丸の内線出入り口のそば 8時50分頃~