北の大地の玄関口、北海道函館市。この春から7月26日(日)までの期間、街全体がTVアニメ『ゴールデンカムイ』一色になる「ゴールデンカムイ 黄金に染まる函館」イベントを開催中だ。

同作の影響で、北海道の自然や文化に魅了された筆者。住んだ経験こそないけれど、函館も毎年のように訪問しており、車中泊しながら何日も滞在することも多い。そんな函館がどんな景色になっているのか、遅ればせながらイベントに参戦してきたのでレポートしたい。


・街全体を使った「ゴールデンカムイ 黄金に染まる函館」

「黄金に染まる函館」は函館市内全域のさまざまな企業・施設とコラボした周遊イベントだ。公式発行の小冊子「函館冒険手帳」があれば楽しいけれど、スマートフォンだけでも十分に参加(無料)できる。

会期中は各所にバナーが飾られたり、函館山ロープウェイのアナウンスが杉元佐一になっていたりと、街中に細かな仕掛けがたっくさん。しかし大きく分ければ、①デジタルスタンプスポットを巡る、②AR写真を撮る、③コラボグッズを買う・食べるに集約されるだろう。

このうちデジタルスタンプラリーは、筆者の参加時点ですでに賞品が準備数に到達して配布終了。完全に出遅れた。しかし、ラリースポットは原作に登場するなど「作品ゆかり」の場所もある。せっかくなので、自己満足だけれど完走を目指そう!


・コンパクトで観光しやすい元町エリア

旅の起点は、JR函館駅でも函館空港でも成立するよう設定されていた。筆者は函館駅からスタートしたが、さっそく鶴見中尉の等身大スタンディが出迎えてくれた。同時にスマートフォンのGPSが反応してデジタルスタンプもゲットできる。


移動は小回りのきく市電とバスで! 特別デザインの「函館バス・市電共通1日乗車券」(大人1600 円)を購入。市電は250円から乗れるから1日券は完全にオーバースペックだが、自分へのお土産を兼ねて投資だ。


観光エリアの中心、十字街まで行く。「函館市地域交流まちづくりセンター」で杉元佐一のスタンディ、「金森赤レンガ倉庫」で白石由竹のスタンディと、着実にチェックポイントを通過。

函館は本当にコンパクトな街で、ベイエリア、洋館群、ロープウェイなど主要な観光スポットを徒歩で回れるほど。函館駅到着から30分もしないで観光を始められる。


それでいてこの美しさ! どこを見ても「絵になる街」といった表現がぴったりだ。

山に向けて石畳の坂道が延び、海のほうを見れば港がきらめく。坂の上には教会や洋館の屋根が点々と見える。開港の歴史という点では横浜とも似ているけれど、函館にはいわゆる超高層ビル群がない。観光客で賑わうエリアから一歩路地に入ると、ほとんど人が居なかったりもする。


ゆったりと時間が流れる、なんとも言えない情緒がある。船のボーッという汽笛や、教会の鐘の音が聞こえてきたりすると、胸に込み上げるものが……


この旅の直前、胃腸炎になって消化器系が絶不調の筆者。しかしイベント期間中、絶対に食べておきたいものがある。函館を代表する洋食店「五島軒 本店」のコラボメニューだ。料理自体は提供数の上限はないとのことだが、人気店なので開店時間よりも前に到着して整理券をもらっておくのがおすすめ。


食べられるのは「杉元佐一 お見合い洋食セット」(税込3960円)! 泣く子も黙る明治12年創業の老舗洋食店、ノリノリである。


これはもちろん、杉元が東京の帝国ホテルで替え玉お見合いをしたエピソードがモチーフ。「エッグソースをからめて食べると美味しゅうございます」のエビフライは原作そのまま3本だ。

ビーフスチウは軍服にこぼされるので、杉元は食べていないはず。筆者は遠慮なく食べる。惜しむらくは筆者の体調だが、明治時代からある名店で、原作そのままの再現メニューを食べる至福。もともとエビフライもビーフシチューも五島軒の十八番だから、お味の美味しさは言うまでもない!


コラボメニューにはアクリルコースターのプレゼント付き。余談だが当日有効の各種1日乗車券を提示すると、ドリンクサービスがあるのでぜひご活用を。


いい感じに日も暮れてきたので、これまた定番中の定番、函館山へ。前述のとおり、ロープウェイのアナウンスが杉元佐一ボイス(cv.小林親弘さん)になっている。


ロープウェイ駅では尾形百之助のスタンディをチェック!


国内屈指の夜景の名所、函館山。海の暗さとの対比、くびれた大地の形、オレンジ色の街灯、間近に見える教会の屋根……何度見ても感動せずにはいられない美観だ。平日休日関係なく、最前列を確保するための人波がすごいけれど、一見の価値がある。



・箱館戦争の激戦地、五稜郭エリア

日付は変わって、翌日は五稜郭エリアを訪問。元町エリアからは離れているので公共交通機関が必須だが、それでもアクセスは良好だ。

この付近をラッピングバスやラッピング市電が走っているはずだが、わずか1台ずつ(運行状況は随時変動)なので、出会えたら相当に運がいい…………と思っていたら居たーーーー!!!!


お尻しか撮れなかったけれど、期待していなかった展開に舞い上がる! 実はこの幸運から調子に乗って、翌日ラッピング市電も経路上を延々探したのだが、車庫に居たようでまったく会えなかったのはまた別の話だ。


五稜郭近くの丸井今井函館店ではPOP UP SHOPを開催中。


「函館冒険手帳」に(デジタルではない)物理スタンプを獲得。描き下ろしイラストを使用したオリジナルグッズも販売中で、「これだけは」と思っていたジオラマアクスタ(全3種/税込2750円)も買えたので満足だ。

ただし会期も終盤なので完売品もあって、会場は少々寂しい「祭りのあと」といった様子だった。でも完売品が出るのはイベントが盛り上がった証拠。「残っていたら買おう」というくらいの心持ちで訪れたのでノーダメージだ。あらかじめハードルを下げておくのは、予想以上だったときに何倍も嬉しくなる人生の知恵である。


話を戻して五稜郭。ここはゴールデンカムイ関係なく、箱館戦争の舞台として歴史ファンには胸アツのスポットだろう。


展望施設である五稜郭タワーには特別展示コーナーが設けられ、とても気持ちのいい空間だった。明るい陽光がさしこむ広々としたアトリウムに、アニメシリーズのパネル展示。大きなタペストリーが目をひく。


愛されているね、アシリパさん。見ているこちらまで嬉しくなる。


五稜郭公園のなかは、要塞として非常に合理的な形とされる稜堡(りょうほ/星形の角のところ)や、復元された箱館奉行所など、ゴールデンカムイを知らなくても見どころいっぱい。

さらに歴史ガイドさんから興味深い話を聞いた。ご存じのとおり、箱館戦争で戦死したとされる土方歳三の遺体は見つかっていない。それが生存説としてゴールデンカムイにもつながるのだが、「ここが墓ではないか」という伝説的な場所がたくさんあるそう。そのひとつが五稜郭の敷地内にあるという。


写真中央のふくらみがそれ。現代の科学なら土の下に人骨があるかどうかなんてすぐにわかるだろうけれど、伝説のままにしておくのがロマンじゃないか!


もうひとつ五稜郭で楽しみだったのが「五島軒 五稜郭タワー店」の「土方歳三 明治のカレーセット」(税込2750円)だ。カレーは土方歳三の好物にちなんで、たくあん付き。カレーに合わない具材はこの世にない。ゆえに、たくあんも超絶合うッ!


セットになっている「函館スーシュカ」は、樺太で鯉登少尉が「鶴見中尉殿に教えてあげたい」と言って食べていたお菓子!

鶴見中尉のカリスマ性に心酔する部下は多いが、その動機や表現は一人ひとり違う。キャラクター考察をし始めると止まらない奥深さがあり、ゴールデンカムイという作品のスルメのような魅力だと思う。鯉登少尉だけは常に「相手を喜ばせたい」という誠意があり、愛をもって育てられた人の素直さを感じさせる。



・大沼など周辺エリアへも足を延ばす

さらに日が変わって、この日は「車がないと訪問しづらいスポット」を制覇していく。公共交通機関でも不可能ではないけれど、ちょっと距離があるチェックポイントたちだ。

まずは函館市内から車でおよそ40分の大沼国定公園。「沼の家」の元祖大沼だんごは、作中でも忠実にパッケージが描かれている銘菓。今回のイベントではポストカード付き大沼だんご(税込750円)を販売していた。


鶴見中尉が食べていたのは「あんと正油」だが、筆者は「胡麻と正油」のほうが好き。まろやかな胡麻の風味がたまらない。大沼に浮かぶ島々に見立てた串のない小さなだんごで、ものすごく軟らかいから、ひょいひょいと口に入る。


函館市内に戻ってきて函館空港の鯉登少尉をチェック。総合案内所「がっつり道南」の手づくりゴールデンカムイ案内は、かなり熱量があるので必見だ。職務を超えたガチファンの存在を感じる!


湯の川温泉では「花びしホテル」という由緒正しそうなホテルがスタンディ設置スポットだったのが、宿泊客ではない筆者が入館していいものか少し迷った。


お出迎えの方に丁重にチェックインを案内されたところで「ゴールデンカ……」と言いかけると、すぐに「こちらです!」と快く案内していただけた。苦労人の月島、温泉で少しゆっくりして欲しい。


・最期の難関「旧ロシア領事館」

そうこうしているうちに最後に残ったスタンプスポットが「HOTEL 白林 HAKODATE」だった。

かつての旧ロシア領事館で、作中では金塊が隠されたり、鯉登少年の狂言誘拐の舞台になったりと、かなり深くストーリーに関わる重要スポット。現在はリノベーションを経てスモールラグジュアリーホテルになっているそう。

交通至便な元町エリアからは少し離れていて、かつ閑静な住宅街なので駐車場もない。最寄りの停留所まで行ったら、あとは徒歩しかないだろう。


函館は坂の街。それも上るときには身体が斜めになるような、かなりの急勾配で、運動不足の身にはこたえる。作中でも「馬が急な坂を怖がって走らん!!」となり、鯉登パパと鶴見中尉が三輪車で爆走する。夕暮れ時とはいえ結構暑くて、額を汗が流れる。


時々足を止めて休みつつ、ひぃひぃ言いながら坂を上り到着! スタンプラリー、コンプである。プライベート感あふれるラグジュアリーホテルなので所定の時間以外は外来者は館内には入れず、「ゴールデンカムイの展示はありません」と注意書きもある。

しかも前述のとおりスタンプラリーの記念品はすでに配布終了しているので、完全なる自己満足。だけど嬉しい! イベントに参加するうちに、函館の名所を一巡できた。



・ARフォトが楽しすぎる

スタンプラリーとほぼ場所を同じくして、所定のスポットのGPS圏内に入るとキャラクターのARフォト機能が解放される。一度獲得したキャラクターは、函館市内に居る間はいつでも呼び出せる。函館から出ると使えないというのがまた秀逸で、旅の間だけという「特別感」が倍増する。


これがもう、楽しすぎた……!


映画でもアニメでも小説でも、創作作品を愛する人の心を動かすのは「自分がその世界に入り込んだような感覚」、そして「登場人物が実在するかのように感じられる瞬間」ではないだろうか。

最初は縮尺を合わせるのが難しかったものの、慣れてくると現代の街並を背景に、本当にキャラクターがそこに居るようなリアリティのある写真が撮れる。


現実と創作作品の境界線がゆるゆると溶けていく……。


お目汚しなので載せないが、キャラクターと自分の2ショットなんて、まるで一緒に旅行しながら撮った思い出のスナップのようだ。

GPSやARなどのテクノロジーの力が、現実世界に何層ものレイヤーを重ね、場所や物にさまざまな「意味」を与えてくれる。何度も訪れている函館だけれど、これまでで一番楽しい滞在だった。

閉幕までわずか、残りの期間もめいっぱい盛り上がってくれたら嬉しい!


参考リンク:「ゴールデンカムイ 黄金に染まる函館」公式サイト
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
©野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会