
木下サーカスは立川(東京)での公演を終え、現在は次の街・磐田(静岡)で設営作業を行っている。
自分たちでテントを建て、電気を引き、水道を通し、客席を設営する「場越し期間」。消防検査をクリアし、厳しいリハーサルを重ね……開幕までの約2週間で体力はごっそり削られるだろう。この期間が1番ハードだ。
それに比べれば、開幕後の毎日は充実している。観客の歓声、子供たちの笑顔、鳴り止まない拍手。練習で積み上げてきたものを舞台の上で披露し、それに観客が応えてくれるからだ。公演中の毎日は超平和……だがしかし。
・公演が始まってからが本当の闘い?
Google先生曰く「サーカス団員にとって、公演が開幕した後は準備期間と比べて楽になるどころか、むしろ本当の闘いであり、精神的にも肉体的にもハードな毎日が始まります」とのことだが……そんなことはない。
どれだけ練習で消耗しても観客の熱気が疲れを吹き飛ばしてくれるし、仕事後には見知らぬ街を歩いて地元グルメを堪能する時間もある。準備期間より公演中の方が、精神的にも肉体的にも圧倒的に穏やかだ。
ただし例外があって……公演中にたった1つだけ団員たちが身構える、絶望する仕事がある。
・アルファルファ
「公演後にアルファルファが届くから、カッパを着て裏(車両の出入口)で待っとけ」
この一言で周囲の空気が変わる。アルファルファとは、キリン・シマウマ・ゾウなど草食動物の餌として使われる牧草だ。栄養価が非常に高く「牧草の王様」と呼ばれている。語源はアラビア語やペルシア語で「最良の草」という意味らしい。
同じく「チモシー」と呼ばれる高繊維・低タンパクな牧草も届く。
サーカスのスターであり、家族同然の動物たちには当然いいものを食べてもらいたい。心からそう思う。しかし問題なのは「突然過ぎる連絡」と「鬼のようなボリューム」である。
アルファルファ・チモシーは圧縮された牧草の塊で、1つ約25キロ。それがトラックに山積みで届く。数えたわけではないが、余裕で毎回100個以上やってくる。サーカス団員も静かに涙を流すレベルの圧倒的な牧草の山……!
さすがに女性団員に任せるわけにはいかない。男性団員が総動員される。「ちょっと今、別の作業が……」などという選択肢は存在しない。夏だろうが冬だろうが関係なく、カッパを着てマスクをして、ベテラン団員はゴーグルを装着して作業に取り掛かる。
なぜ完全防備かというと、25キロの塊を持ち上げた瞬間、細かい草の繊維が舞い上がり、カッパの中に侵入してくるからだ。これがマジでずっとチクチクする。
敷地ギリギリまでトラックに入ってもらい、そこから牧草を収納するコンテナまで25キロをひたすら運ぶ。中で整頓して積み上げる必要があるため、持ち上げて、向きを変えて、押し込んで、またトラックに戻る……それを延々とくり返すのだ。
草まみれになりながら終わりが見えない単調な作業を軽々とこなせるようになれば、1人前の団員と言っていいかもしれない。
とくに夏は修行である。カッパの中は蒸し風呂状態で、汗は滝のように流れる。作業が終わると全員でカッパを洗う。高圧洗浄機で順番に水をかけ合ってバシャバシャ洗う。
嫌だ嫌だと言いながら、いざ作業が始まると団結する。団員たちは家族の一員である動物たちを支えるために、草まみれで戦っている時間があるのだ。
公演後の舞台裏でカッパを着た男たちが25キロの牧草と戦っているのは、観客には見えないサーカスの一面だろう。それもまた、サーカスだと言える。
・磐田公演は3月7日からスタート
──というわけで、今回はここまで。木下大サーカス静岡・磐田公演は2026年3月7日から「ららぽーと磐田北 駐車場 特設会場」でスタートする。
テントの中でポニーやゾウを見かけたら思い出してほしい。その裏側で、カッパを着た団員たちが25キロの牧草と格闘していることを。それではまた!
参考リンク:木下サーカス
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
砂子間正貫










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